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第10話  ゾ〇ドとト〇ンスフォーマーが嫌いな男の子はいません!

 ひとしきりコントを終えたのち、曽井戸が本題を切り出した。


「みなさんにズバリご提案させていただきます! 俺と一緒にラスボスを倒しに行きませんか?」


 答えは聞くまでもない。

 先ほどのプレゼント攻撃がウソのようなバッシングだった。


「ほらな」と肩を竦めた俺の横で、曽井戸が片手を上げて微笑んだ。


「みなさんが反対するのもごもっとも。いまのままでは現実味がありません。これは俺が話し下手だったからです。お詫びとして、キチンと順序立ててご説明さしあげますので、どうぞお心を広く構えて話を最後まで聞いてくださいませんでしょうか」

「そこまでいうんなら聞いてやろうやないか」

「む、無駄だと思うがな」

「そうねえ。話だけならねえ」


 何故か偉そうにふんぞり返った三人に、曽井戸は続けた。


「日々プレイ人口が減少していく昨今、これがラスボス討伐最後のチャンスになると説明させていただきましたよね?」

「そやな」

「芋討伐、〝不滅の女王〟は最大100人参加のレイド戦になります。ところが、お伝えしたとおりプレイ人口の減少によって、現状参加表明している人数は半数ほどです」

「だ、だったら、なおさら無理だな」

「そうともかぎりません。100人に満たないぶんはNPC冒険者で補填します」


 トゥルーライフでは、報酬金を払うことでパーティーメンバーにNPCキャラを加えることができる。

 ソロプレイヤーへの救済か、バランスの悪いパーティーメンバーを補う配慮か、冒険者ギルドや特定クエストを達成することでNPCキャラが戦闘に参加してくれる。


 NPCの強さはまちまちで、それこそ駆け出しの冒険者から伝説級の英雄まで揃っている。そして、NPC全般にいえることだが、雇うNPCが強力であるほど支払う報酬金が高くなる。


 しかしである。NPCには致命的な欠点が存在する。

 そこを見逃すわけにはいくまいと、俺は挙手した。


「曽井戸さあ、悪いんだけどNPCって死んだらそれっきり。蘇生とかできないキャラを勘定に入れていいもんかね」

「いい質問ですね!」


 俺の揚げ足まで計算のうちらしい。


「そこで重要になってくるのが、強力なアタッカーNPCをボス攻撃から支えてやるサポート役です。都合上、どうやっても回復役やバフデバフ担当の補助部隊が必要不可欠になってきますので、一線に立てないプレイヤーをいっそのこと全員サポートにまわしてしまえというわけです」


 なるほど。たしかにサポートに徹するだけなら、レベル差もあまり関係ない。

 これならLvカンストプレイヤーを揃えなくとも、ラスボス討伐全盛期メンバーに近いパフォーマンスを発揮できよう。


「ですが、芋討伐に参加するにはどうやってもボーダーラインは存在します。現在トゥルーライフのLv上限は70というのはご存じのとおりですので、みなさんには少なくとも二週間でLv50には達していただきたい。それが最低条件です」

「僕たち半年でLv25だから、かなり忙しくなるねえ」

「そこは努力でどうにかしていただきたく――」

「だ、だが、中級ダンジョンでは時間が、ない……」

「ご安心を。そこは俺の伝手でみなさんにマンツーマンのサポートをつけさせていただきまして、二週間みっちり上級ダンジョンでLvアップに専念してもらいます」

「イヤやねん! ハードスケジュールやし、知らんやつとやろ? オッチャン、ナイーブやねんぞ!?」


 葛田さんはそう言うだろうなと思っていた。

 さあ、ここからどうする曽井戸よ?


「葛田さん、よく考えてください。芋撃破の報酬は100億円。準備に要した諸経費を抜くとしても90億は確実です。そこからそうですね……現在の参加メンバー60人で割るとなると、一人当たりざっと1億5000万」

「い、いちおくごせんまんやとッッ」

「ええ。しかも事前協定でメンバー内の格差なく、報酬金は参加者全員で等分、山分け確定です」

「い、一億あったら、一億あったら……3Pなんてコスいこといわへん、夢の100P! 夜のレイド戦できるやないかッ!」

「しかもです。しかも、仮に失敗したとしてもペナルティはございません。みなさんには短期間でLv50に達した事実は残りますので、レアアイテムやレア装備が眠る上級ダンジョンで探索し放題! どうでしょう、悪い話ではありませんよね」

「上級ダンジョンに行けたら毎日泡風呂行けるやないか……」


 ゴクリと喉を鳴らした葛田さん。


「よっしゃ、やったろ! やったろやないかみんな!!」

「そうだねえ。みんながいいんなら、二週間くらいなら頑張ってみようか」


 即物的な葛田さんと主体性の薄い小暮さんが落ちた。

 しかし!


「は、話は、理解できたが、それでボスをた、倒せるのか?」


 待ったをかけた山根さん。

 そうだ。いまのままではしょせん全盛期討伐隊の-から辛うじて±0、近似値に戻したにすぎない。

 いまだからこそ挑戦する理由、それもプレイヤー人数の激減というネガティヴ以外の要素を訊きたかった。


「さすが山根さん、エンジニア畑の人は一味違いますね……」


 曽井戸はそれすら予想していたのか、待ってましたといわんばかりに口角を上げた。


「そうです。我々も引退記念だけでお芋に挑んだりしません。トゥルーライフはVRMMOの体をなしてはいますが、そこでプレイしているのは企業法人、社会人。基本的には損得勘定で動きます」

「つ、つまり、勝てる確証が、あると?」

「そこまで大見得は切れませんが、少なくとも全盛期より出目はあるでしょう。我々はかつての東証一部連合と比べて戦力的に劣る分、積み上げてきた時間、情報がありますから」


 その言いまわしでピンときた。


「Lvや装備の差を埋めて勝利に肉薄できる+αがあるとしたら、それってたぶん――」

「おっとマイフレンド、そこまでにしてもらおう」


 俺の口を指で塞ぎ、曽井戸がウィンクした。うげー。


「な、なるほど、了承した」


 山根さんの目配せで、俺も意図を理解できた。

 つまるところ、謎は社外秘、トップシークレットということか。


 もしもラスボス攻略が可能だと知れたら参加希望者も増えるだろうし、外部の妬みから妨害工作もあるかもしれない。

 そして、その危惧があるということが、〝不滅の女王〟撃破の現実味を表していた。


「一応この件はくれぐれも内密にお願いしますね」


 曽井戸は釘を刺したが、葛田さんでは信頼がおけないし、情報はどこから漏洩するのかわからない。

 だから情報は必要な分だけ。

 山根さんの質問に答えてくれたのも曽井戸なりのサービスか。

 ここは引退記念討伐ということにしておこう。


「じゃあみんなも賛成ということでオーケーっスね!」


 言質をとるため、俺は最終確認をした。


「ど、どうせこのままだと、リストラされるだけだから」

「一億もあれば、退職後も安心できるねえ」

「んじゃま、いっちょ一花咲かせたろやないかッ」


 満場一致で可決した。

 ここからだ。ここから俺たちのラスボス挑戦がはじまった。



◇◇◇



 まさか本当に葛田さんたちを説得してしまうとは。

 曽井戸の手腕に驚かされてしまう俺に、彼はこともなげにいうのだ。


「いい商談っていうのは押しつけるもんじゃないし、妥協させるもんでもないのよ。相手側にメリット、デメリットをちゃんと理解させるってことかな。ほら、誰だって納得できないものに判は押したくないだろ?」


「もちろん、自信をもって勧められる取引っていうのが前提だけどな」と曽井戸が付け加えた。


 これがヤリ手のオーラというものか。難しいことをさも平然とやってのける曽井戸には、元へっぽこ営業としては大いに関心させられた。

 とにもかくにも、ラスボス挑戦への第一関門であるLv50に向けて、後日俺たちは冒険者ギルドに集まることにした。


「みなさん、おはよーございますッッ」

『おはよーございます』


 鬼軍曹曽井戸の張りきり声に応えた俺たちは気を引き締めるべく、横一列できをつけをしていた。


「それでは、本日よりマンツーマンの特別講習を開始したいと思いますッ」

「その前にちょっとええか?」


 すかさず葛田さんが挙手をした。


「マッドサンダーくんな」

「曽井戸ですッッ」

「はいはい曽井戸くんな、確認やけど……ひょっとしなくても、ワイのコーチあの人か?」


 葛田さんと向かい合っているのは、顔の見えない無骨な鉄兜にトゲ付き肩パットをつけているムキムキの御仁だった。

 なんかアメリカンバイクを乗りまわして暗殺拳を使いそう。


「フシューッフシューッ」


 呼吸もプレデターっぽいし。


「この方はザキさん。盗賊系の上級職『無法者アウトロー』ですから葛田さんとの相性もバッチリですね!」

「恐いわボケェ! この人世紀末やないか!! 出る作品間違うとらへんか!?」


 まあ、毒をもって毒を制すというし、葛田さんにはあれくらいがちょうどいいのかもしれない。

 南無南無。


「小暮さんには回復役の立ちまわりも覚えてもらうため、『重装騎士ヘヴィナイト』の久保さんと組んでもらいましょう」

「久保です。普段はスポーツインストラクターやってますんで、ゆっくり丁寧にステップアップしていきましょうね!」

「オジイちゃんだけど、よろしくね」


 あ、こっちはいい人そうだから大丈夫だな。


「そして、山根さんのコーチは同じ前衛担当ということで不肖この俺」

「テ、テラザウラーか」

「しれっと別作品を混ぜないでくださいッッ」


 やっぱりか。

 俺の対面は魔法職ルックだもんな。


「最後はジロー。残念ながらお前のコーチはしてやれないけど、代わりに俺の後輩の森田をつける」

「モルガ?」

「森田だっつってんだろ!!」


 ゼーハーしている曽井戸に紹介された森田くんが素っ気なくペコリ。


「ども。曽井戸さんの部下をやってる森田です」


 この森田くん。見た目がまあ若い。

 一見すると学生のような、小綺麗でツンとしているところをみるに新卒のフレッシュさがあった。


「んじゃ、時間も押してますんで行きましょう。遅れないでください」


 事務的に連れ出された俺は、これからはじまる強化訓練に胸躍らせた。

 なにせ上級者のナビゲートつきで、本来だったらまだ立ち入れないエリアに行けるのだ。

 Lvアップという名目がなくてもワクワクするってもんだ。


「それで森田くん、まずはどこへ行くんだい?」

「佐々木さんつったっけ、あんた」


 お? なんかギルドから出た途端に雰囲気が変わったぞ。

 生意気さというか、より不遜になった。


「あんたタメ口とか気にするタイプ?」

「これはゲームだし、いいよそれで」

「そ。こっちも口うるせーオッサンはゴメンなんで、よろしく」


 なるほど。こっちが森田くんの素か。


「だいたい、なんでもかんでも歳くってる方が偉いって考えがダセーよ。そりゃ、なかにはスゲー人もいるけど、無条件で敬語使わせよーとする老害にはウンザリだ」

「言わんとしていることはわかるけど……」


 そのスゲー人とやらを君が見極められるかはどうかは疑わしいものだけどね。

 これが老婆心というやつか。俺もオッサンになったもんだ。


「てなわけで、これから二週間ビシバシいくんで」

「こちらこそよろしく頼んます」


 軽い自己紹介を済ませたのち、俺たちは町を出た。

 淀みなくズンズンと進んでいく森田くんの行き先はどこなのだろうか?

 さっきは答えてもらえなかったし、もう一度訊いてみることにした。


「森田くん森田くん。どこでLv上げするかだけでも教えてもらえないかな」

「なにいってんの? Lv上げの前にイベント消化が先でしょ。それやんないと上級職になれねーし」

「おお! そっか、そうだね! 俺まだ基本職のままだしねッ」


 見たところ、森田くんは魔法職でも『聖魔法士アークメイジ』。

 神聖魔法と高火力が売りの攻撃系魔法使いだ。


 こういってはなんだが、やっぱり俺も曽井戸みたいな、剣士から聖騎士への王道進化とかに憧れているわけで、これからどんな上級職になるのか期待に胸が膨らむ。

 できるならカッケー魔法とか、一撃必殺ダメージ、パーティーを牽引するような魔法職とかだと嬉しいな。

 ソワソワしてしまう俺に、森田くんは告げた。


「佐々木さんはデバフ担当の『邪術士ウォーロック』な」


 そして俺は顔を顰めた。


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