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第1話  四匹がKILL!

 自分が主人公じゃないと気づいたのはいつだろうか?

 子供の頃は両親から惜しみない愛を与えられて、大切に育てられて、自分を中心に世界がまわっている。TVのアニメで知った知識で、この世界には良いことと悪いことがたくさんあって、自分はヒーローと同じ、正しいことをして弱い人達を助ける側にいると思っていた。

 望んだことはなんでもできる。失敗なんてあるわけがない。

 だって、自分が主人公なんだ。主人公は負けないんだ。

 そんな幻想から醒めるのは以外と早いもので、小学校にあがる頃には自分と同年代のクラスメイトに囲まれて、当たり前だけどそのなかでも優劣があって、自分より優れた子、勝てない子がいると知らされた。

 中学校などはさらに顕著で、もう自分が主役などという青臭い妄想は吹き飛んでいて、分相応、限界というものを漠然と考えはじめていた。


 そうだ。俺は主人公なんかじゃない。

 ごく平凡で、いやむしろ平凡以下で、どこの誰とも取り替えの利く、ちっぽけでつまらない存在なんだと、俺こと佐々木二郎ささきじろうは3×歳にして痛感している最中でございます。


「みなさん、ボスです! 来ますよ!」


 暗い洞穴のダンジョンで、棍棒を振り上げている四メートルほどのボスゴブリン。

 マッシブな体格に腰ミノ一丁という非文化的ファンションに相応しく、繰り出される一撃はエグい。

 たとえこれがゲームだとわかっていても、鼻先を掠めて地面の岩を凹ませる棍棒を目の当たりにするとチンコも縮む。


「詠唱しますから葛田くずたさん、タゲ引きつけて!」


 振り向けば、盗賊シーフの葛田さんが真っ先に出口へとダッシュしているところだった。


「うひぃぃぃぃ、ジロちゃん堪忍や。おいちゃんチビってもうたからトイレ行ってくるわ」

「葛田さんッッ!!」


 中年太りで油ギッシュなバーコードヘア。絵に描いたような汚いオッサンの葛田さんは一目散で逃亡を図るも、


「おんぎゃぁぁぁぁぁ! アカン、向こうからも敵や! 挟み撃ちにされてもうた!?」

「だからボスと戦う前に周辺のザコ掃除しましょうって言ったじゃねえっスか!」


 無責任でお調子者の葛田さん。

 彼の横着に乗ってしまったのが運の尽きか。

 これで経理やってたっていうんだから、うちの会社ヤベーな!

 急いでUターンしてきた葛田さんの方へ、上手くボスゴブリンを誘導。

 ターゲットマーカーを擦りつけて、ようやく俺は呪文詠唱に入る。

 詠唱中は身動きとれず、俺のまわりを詠唱サークルがクルクル回転していると――


「キヨェェェェェェェェェェェェェェェェェッッ!!」


 奇声を出してボスゴブリンに殴りかかっていくのは、拳士ファイター山根やまねさんだ。

 ヒョロガリで長髪にメガネ。俗にいう陰キャまっしぐらなシステムエンジニアの山根さんが放ったヘロヘロパンチで、ボスゴブリンの体力バーがミリ単位で変動したのを確認する。


「山根さん、チャージする時間ありましたよね!? どうしてそこで通常攻撃なんスか!?」

「ひ、必殺技とは、れれ、連携から繋げるのが、美しい」

「そういう拘りは別のところで発揮してくださいッ」


 ペチペチ殴りながら後退してきた山根さんが俺の方へとボスゴブリンを引きつけてくれたので、仲良く広範囲の棍棒フルスウィングでぶっ飛ばされた。

 設定ウエイトの差か、遠くまで飛ばされて「アベシッ」と喚いてジタバタしている山根さんには文句のひとつも言いたくなる。


「ほらもう! 詠唱止まっちゃったじゃねえっスか! みなさんわかってます? 俺魔法職、魔術士マジシャンなんスよ!?」


 どこの世界でタンクをやる魔術士がいるんだ。


「いいですか。ボスは硬くて強い、フツーのゴブリンとは違うんス! だから、ここはみなさんがボスをくい止めている間に俺が高火力の魔法を――ヒデブッ」


 突っ立っていたところに、横殴りの棍棒が。

 一気に俺の体力バーがビョーンと縮んで真っ赤に染まる。


「こ、小暮こぐれさん……すんませんけど、回復魔法お願いします」

「はいはい。回復ね、任せて」


 穏やかな笑みを絶やさないエビス顔の小暮さんは回復役の司祭プリースト。白髪交じりの小柄な老人だ。

 パーティーでも最年長で、現実でも定年ギリギリのおじいちゃんプレイヤーでもある。


「えっと回復、回復……あんれ? ジローくん、回復ってどうやるんだっけ?」

「さっき使ったばかりじゃないですか!? ほら、こうして杖を掲げてッ」

「掲げて?」

「魔法コマンドが出たら別の手でスクロールして、魔法を選んでッ」

「こまんど? すくろーる? 横文字じゃわかんないなぁ」

「出てきた、画面を、空いた手で、押してッッ」


 余談だが、説明している最中にもバッコンバッコン、棍棒が直撃しているので小暮さん早くお願いします!


「ピコピコは難しいねえ……よっ、ほっ、はっ」


 妙なかけ声で杖と格闘すること数回、小暮さんの杖がピロリーン♪と鳴って、俺に光のシャワーが降りそそぐ。


「できた! できたよジローくん」

「小暮さん……俺死んでます」


 喜ぶ小暮さんには悪いのだが、ボスゴブリンの攻撃によって俺のアバターはとっくに消えて、拳大の宝石に変化していた。


「もう死んでます」


 大事なことなので二回言いました。


「あらら。ダメだよジローくん、簡単に死んじゃあ。根性だよ根性」

「俺っスか!? 俺が悪いんスか!?」


 こうして俺は、何度目かのパーティ全滅を俯瞰しながら見るのであった。

 南無南無。


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