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表情豊かに
少し貧弱な産声が、広い院内に響き渡る。
この日産まれた女児は「かえで」と名付けられた。
ちょうど2年前、同じ病院で「椋」と名付けられた男児が産まれていた…。
18年もの月日が流れた。何事もなく、すくすくと育ったかえでは、とある学校の門の前にいた。
「…千賀峰音楽院。今日からここでお世話になるんだ」
慣れないスーツを身に纏い、緊張した足取りで門をくぐる。
楽器、学生、講師の数は世界最大と噂されるマンモス音大。広大な敷地内には楽器屋はもちろん、各楽器毎の練習棟やライブハウス、コンサートホールなどの施設も完備されている。それが千賀峰音楽院である。
かえでという少女の、打精神に満ちた4年間が始まる。
* * *
5月上旬、入学して1ヶ月が過ぎた。この日かえでは、大学生になって初の本番を迎える。
この日都内で行われるイベントでは、多くの団体が様々な芸術的パフォーマンスを披露する。彼女が履修登録をしたゼミも、その団体の1つなのである。