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・A・ホールド・ダンジョンズ!  作者: オレン
一章 人と虫の国
6/29

・5・ 幸運のリボン

 小鳥のさえずりで目が覚めた。体を起こし、靴を履き、ベッドから立ち上がる。自分のモニターを開き、ステータスを確認すると魔力75と全回復していた。


「なるほど。確かに全回復している」


 一人感心していると、強烈な尿意に襲われた。

 そういえば、昨日ここに来てからトイレ行けてなかったな。とりあえずトイレ済ませて、少し火の魔法を試しに外に出よう。

 予定を立て僕は部屋を出て宿のトイレに向かった。

 


 トイレを済ませ、外に出ようと玄関前まで来たのだが、ふと食堂を見ると明かりが灯っていた。中を覗くと、黄緑の寝間着姿で髪を布で束ねエプロン姿のネルロスの姿があった。


「おはようございます。ネルロスさん」

「あら、おはようミライくん。早いのね。朝食はまだ時間かかるわよ」


 ネルロスはどうやら朝食作りに食堂に来たようだ。


「ちょっと外出てきます」

「別に構わないけど。何をするの?」


 ネルロスの疑問に僕は昨日貰った1枚の葉っぱを見せる。


「ちょっと練習しに」

「そう。無理はしないでね。玄関のカギはあいてるから」


 そうネルロスは朝食の準備に集中する。僕は朝食の匂いを感じながら宿屋を後にした。



 市場とは反対の方向に歩いて行くと、すぐに町を出ることができた。町の外は牧草地のように草原が広がっていて、町から一本の石造りの道がどこまでも続いている。所々草花や木もあって自然あふれる風景になっている。

 僕は右手を広げて突き出す。モニターの特技欄に書かれていた魔法名を口にする。


集めた熱(ファイア・ボール)!」


 ピンポン玉位の火の玉が現れる。それを触らずに消す。

 覚えた魔法は特技名を言えば簡単に発動するのか。これは便利な機能だな。集中する必要のないし。でも魔力消費は4か。


 僕は再び掌の先に集中する。目を閉じ、広い範囲を意識する。


「ファイヤ・ボール!」


 目を開けると今度は豆粒ぐらいの小さな火の玉が現れた。ステータスを確認すると今度は魔力は3しか減っていない。


「うーん。結構広範囲から熱を集めたつもりなんだけどな」


 不満げに手で火の玉を握る。すると爆発音が手の中で響く。


「おわッ!……びっくりした」


 手を広げてみるが、特に変わった様子はない。分かってはいたが自分の魔法でダメージを受けることもない。

 どうやら集中する場所と集める熱の量で威力が変わってくるようだ。魔力消費量は集める熱の温度で変わるらしい。狭い範囲で5℃集めるのと広い範囲で1℃集めるのでは、後者の方が魔力消費が少ないということになる。

 僕はしばらく色々な熱の集め方を繰り返す。しばらくして魔力もあっという間に半分を切っていた。


「これくらいにしておくか。……ん?」


 目先の花壇に金に輝く大きな蝶がひらひらと飛んできた。

 モンスターだろうか?それともただの自生する蝶なのか?


情報開示アペンシス!」


 金の蝶の横にはLv5で炎マークが示される。名前はゴールドクプクプ。

 レベル5位なら戦えそうだな。レベルも上げておきたいし戦ってみるか。負けそうなら全力で町に逃げればいいし。

 そう思い、蝶に向かって魔法を放とうと思った時にふと気づいた。


「蝶の横のモニター、下の空欄はなんなんだろう」


モンスター名とレベルと弱点の表示だけなら、1行でもいいはずだ。もしかしたらまだ情報が引き出せるのか?魔力半分切ってるけどやってみよう。

 金の蝶を凝視して意識を集中させる。

 もっと情報を知りたい。願望のような意識で叫ぶ。


「アペンシス!……出来た!」


 Lv5で炎マークのの横に777/777と77/77という数字。その下に『バピースグ地方に自生する金の蝶。目撃証言も少なく、噂では倒すと沢山の金と経験値を得るという』と説明書きまでついた。


「というかこれって、すごいラッキーモンスターなんじゃ」


 でも一つの空行後の文字には『お願い見逃して!お願い殺さないで……』と書いてある。


「じゃあいいよ!やめとく」


 流石にモンスターに命乞いされて、無暗に殺すのは気が引ける。

 僕は蝶に集中するのをやめアペンシスを解いた。蝶横のモニターが消えかかったときに文章が少し変わったような気がしたが、内容を読む前に消えてしまった。

 ステータスを確認すると魔力が8も消費されていた。


「普段なら0で済む魔力も、集中すれば8か」


 まだまだ分からないことだらけだし、もっとうまく扱えるかもしれない。それにしても汗をかいた。帰ってネルロスさんにシャワー借りれるか聞いてみよう。

 そう思いながら振り返り町の方に歩き出すと、背後から先ほどの金の蝶がミライを追い越し飛び去って行った。その際にひらひらと目の前に何かが落ちてきた。


「紐?いやリボン?」


 黄色いリボンを見つめ、飛んでいく金の蝶を見つめた。蝶はあっという間に空高く飛んでいき見えなくなった。空も気づけば青々としてきていた。


「何かいいことあるかも。持って帰ろう」


 そう呟きリボンをポケットに突っ込み、町へと戻っていくのだった。



 僕は宿屋に戻り、食堂に顔を出した。


「ネルロスさんシャワー借りてもいいですか」

「泊まってるんだから好きに使えばいいわ」


 ネルロスは洗った食器を拭きながら答えた。

 もう食事の準備は出来ているようだ。


「じゃあお借りします」


 そう言って僕は風呂場へと向かった。



 靴を脱ぐ土間があり、そこを上がった扉の先に脱衣所はあった。服を置くロッカーも左右に6か所ずつあり、擦りガラスの先の風呂場は想像以上に広そうだった。

 こんなに広いんだったら、昨晩風呂が沸いているうちにゆっくり浸かるんだった。

 そんな事を思いながら服を脱いでいると、ふと右下のロッカーに服が入っていることに気付く。

 あの見覚えのある服は……まずいな。

 慌てて撤退しようと脱いだ服を手に取ろうとしたその時だった。 擦りガラスの扉が突然ガラリと開き、ミチが姿を現した。ミチはその金色の美しい髪を小さなタオルでわしゃわしゃと拭きながら出て来て、すぐに僕の存在に気付き動きが止まる。僕も硬直した状態で目線だけが無意識にミチの白い肌、発展途上な胸、さらにその下へと視線が進んでいく。


「いつまで突っ立ってるんのよ……この変態!」


 泣き出しそうな声を上げて、ミチは駆け足で風呂場に逃げて行った。


「ごめん!」


 僕は慌てて服を着て、靴を履いて風呂場の外へと飛び出した。そしてすぐ横にあるベンチに腰を下ろす。

 まずい。全部見てしまった。同時に全部見られてしまった。これはどうなんだ?ダンジョンルールのエロ禁止に引っ掛かるんじゃないか?引っ掛かったらどうなるんだ?死ぬのか?

 少し息を荒くしていると、鼻からたらり液体が流れて来た。手で触れて鼻血だと確認する。鼻を抑えるが血が止まる気配はない。

 鼻血に慌てていると扉の音がして、ミチが昨日と同じ白のワンピース姿で出てきた。ミチは僕を一瞥する。


「ふん」


 ミチは不満げに首を横に振り髪をなびかせると食堂の方へと歩いて行った。

 どうしよう……完全に怒らせてしまった。次会ったら何て言えばいいんだ。

 僕は浮かない思いで、止まった鼻血を流すべく風呂場へと向かうのだった。



 食堂では昨日とは裏腹に静かに行われる。僕とミチは対面で2人きりで食事をとる。ユミルはまだ寝ているようで食堂には来ていない。


「2人とも黙っちゃって、どうかしたの?」


 ネルロスがキッチンで片づけをこなしながら声をかける。

 風呂場で裸で鉢合わせたなんて言えるわけがない。

 僕は口を開くことなく、パンや目玉焼きを口に黙々と運ぶ。ミチも何も話す気はなさそうだ。


「そういえばミライ。あなた朝早く外出て行って何してたの?」


 ネルロスが苦笑いで別の話題を提示してきた。


「ちょっと魔法の試し打ちに。そういえば」


 僕はポケットから皺くちゃな黄色いリボンを取りだした。


「何それ」


 ミチは肘をつき口をとがらせながらも興味を示す。僕はリボンの皺を伸ばしながら口を開く。


「今朝モンスターが落としたんだ。ゴールドクプクプって金の蝶」

「金の蝶なんて珍しいわね。聞いた事がないわ」


 そうネルロスは首をかしげる。


「俺は聞いた事があるぜ」


 そう元気な声と共にに食堂の入り口から顔を出したのはユミルだった。


「おはようユミル」


 僕とミチは声が合わさり、何とも言えない感じになる。2人を見てユミルとネルロスは笑う。


「おいおい、どうしたんだよ!2人ともそんなしけた顔して」

「いやね。2人が風呂場で鉢合わせたらしいのよ。それをまだ引きずってるのよ」


 そうネルロスは笑い、それを聞いたユミルも笑いながら僕の隣の席に来る。

 いやそれにしても、どうして分かったんだ?


「何で分かったのよ!」


 ミチは僕の思いを代弁して質問してくれた。


「静かな早朝からあんなに大声出されたら想像くらいつくわよ。ミライくんもシャワー借りるって言ってたし」


 そのネルロスの返答にミチは少し顔を赤くした。僕も複雑な心境の中、ユミルが突然組み付いて来た。


「なんだよ。羨ましい限りじゃないか!で、どうだった?」

「え?」

「そりゃーあれだよ」


 ユミルは自分の胸元で両手を振りながら示した。その動作にミチはムッとこちらを睨んでくる。

 それはもう思い出すだけで顔が火照るほど絶景だった。って考えてはいけない。

 揶揄からかうユミルの頭をネルロスは食事を運んだアルミの盆で軽く叩いた。


「ほら食事!ちょっかい掛けないで」

「いててっ、悪かったよ」


 そうユミルは頭をかきながら座った。食事に手を付けようとしたユミルはミチの視線に気づき手を合わせる。


「いただきまーす」


 そんな光景にネルロスは笑い、口を開いた。


「ふふっ。そう言えばユミル、金の蝶について知ってるみたいだったけど……」

「うわさだけど。なんかすごいけいけんちとか……」

「食べながらじゃ何言っているか分からないわ」


 ネルロスの言葉にユミルは口の中の物を口で流し込む。そして再び口を開いた。


「凄い経験値とお金を落とすって聞いて探してた事があったんだけど……噂は違うらしいな」


 ユミルは僕を見つめる。


「合ってるよ。確かにモンスター説明にそう書いてあった」

「書いてあったってどういう事だよ?」

「アペンシス唱えたら、倒すと経験値とお金を沢山落とすって説明書きがあった。でも見逃した」

「それはまたどうして?」


 そうネルロスが口をはさんだ。


「それは説明に殺さないでって書いてあったから……」

「ええ⁉普通は倒すでしょ!情報が伝わってたら尚更!なあミチ?」


 僕の話に驚いたユミルはミチに視線を向ける。


「……殺すなって言ってるなら殺さないわよ。無駄だもの」


 そうミチは真顔で答える。


「えぇー……ネルロスは?」

「殺さないわ」


 ネルロスは笑みを浮かべ即答する。不満げなユミルの反応に僕もミチも思わず笑ってしまう。


「俺が間違ってるのか……」

「それで?そのリボン落としたって言ってたけど」


 そうネルロスがリボンに視線を向けながら僕に聞く。


「そう。帰ろうとした所に蝶が落としていった」


 話しながらリボンの皺を伸ばそうとするが、しっかり折り目が付いていて戻りそうもない。

 そんな僕を見かねてかミチは手を差し出してきた。


「貸して」


 ミチの言葉にミライはリボンを手渡す。ミチはリボンに手をかざした。


回復願キュア


 一言いうと、リボンはあっという間にきれいな状態に戻った。

 ミチからリボンが手渡しで帰ってくる。


「なるほど。そんな使い方が……相変わらずすごいな」

「ふふん。魔力消費も少しは抑えれるようになったわ」


 ミチは自慢げな表情に、僕は思わず微笑む。


「それでそれはどんな効果なの?」


 ネルロスが聞いて来た。


「えっ効果?」

「装備品なら装備すればわかるし、後はアペンシスね」

「なるほど」


 僕はリボンに両手をかざし、集中する。


有力情報アペンシス!」


 するとモンスター同様にリボンにも効果が示された。僕はそれを読み上げる。


「幸せのリボン。装備すると運が少し良くなる。星。」

「星?」


 咄嗟にミチが聞いてきた。


「星マークがついてる」

「なにそれ」


 ミチはネルロスやユミルに知っているか目線を送るが、2人とも分からないと首を振る。

 ユミルが何か閃いたかのように上を見上げる。


「なるほど。それで風呂場か」

「それだったら私は不運じゃない!」


 ミチは机に乗り上げ大きく反論する。不満げなミチとは裏腹にユミルは大笑い。つられてネルロスも僕も笑ってしまう。


「まぁ、分からない事はケード町長に聞けばいいでしょう。それで、お昼は町長が出してくれるみたいだから、昼の鐘が鳴ったら宿から町長の家まで行こうと思うのだけど?それまでどうするの?」


 そうネルロスから質問が来た。

 そう言えば何にも考えてなかったな。どうしようか。


「俺は少し用事があるから、剣の手入れしてから出ていく。後、町長さんとこも分かるから、そっちで合流する」

「私は時間が掛からなそうな依頼をこなしてくるわ」


 ユミル、ミチと順に答えた。ネルロスは考える僕に目を向ける。


「そう。ミライくんは?」

「特には決めてないです」

「だったらミチちゃんに依頼の事とか教わって来るといいわ」


 そうミチに視線を送るネルロス。


「いいわよ。どうせ教えなきゃって思ってたし」

「それじゃ決まりね」


 そうネルロスは言うと、両手を叩いて合わせて見せた。それに続いてユミル、僕、ミチと手を合わせる。そして4人は声を合わせた。


「ごちそうさまでした!」

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