・2・ 僕の目に焼き付いた景色
急降下していたはずなのに、気が付く宙に浮きながら薄暗い電子世界を平行移動していた。体は軽く、流れるプールに身を委ねて漂っているといった感じだ。
「おっ、出口だ」
そんなに時間もたたないうちに、遠くの方に出口であろう眩しい光が見えてきた。その光はあっという間に大きくなり、僕は出口へと押し出された。
「ここは」
綺麗な青空だ。遠くの方には大きな道と町や森が見える。というかどこを見渡しても遠くしか見えない。地面さえもだ。というか宙に浮いてる。
僕はは空中に放り出されていたのだ。段々と体が重くなってきた。
「うそだろおおおおおおおお!」
地面に向かって落下していく。下を見ると足元の崖端のに1本の木。あれに捕まらないと死ぬ。
「ぐっ」
落下途中で1本の木の枝に両手で捕まった。手も肩も痺れる痛みに襲われたが、足元の崖下の高さを見て死ぬ気で枝に登った。
「危なかった」
息を荒くし枝を選びながら木を降りていく。そしてなんとか地面に立つことができた。
「意外と大きな木だったな。それにしても……」
恐る恐る崖の端まで歩き、下の方をのぞき込んだ。同じような木なのかは分からないが、崖の下の方に小さく木が数本見える。落下地点が数メートル違うか、この木がなければ死んでいたかもしれない。
「あそこを進めば、降りられるのだろうか」
崖の下から上に続く道がある。降りるまでそれなりに時間が掛かりそうだが、降りればすぐ町だ。
呼吸を整え、道なりに歩き出した。
崖を下っていく道中の景色は美しかった。麓では芝生のように草が生え揃い風で揺れていて、点々と花が密集して咲いている所がある。町の奥には森があるが、その他の草原は数えるほどしか木がない。町へと続く道も石造りでとても綺麗に整備されている。
「それにしても、なんなんだこの魔法」
僕はは手をかざしたり、拾った棒を振ってみたり、指で変な模様を書いたりしながら歩いてる。
アペンシス。モニターのステータス画面の特技の欄に書いてあるから魔法だと思うのだが、別に何か起きるわけもなく、叫んだ自分が妙にむなしくなるだけ。条件とか何かあるのだろうか。
大分崖道も下って、麓の草原がすぐそこに見えている時だった。
「うわああああああああああああああああ!」
太い声の叫び声が下の方から聞こえた。その声のに崖下の先に目を向けると、何か大きな生物に追いかけらる男性の姿があった。
僕はそれを見て慌てて麓まで走り出した。道中で丈夫そうな木の棒を拾って崖道を下りきった。
辿ってきた道の先に逃げる男の姿と、それを追いかける大きな生物。そのモンスターはカマキリ巨大版というべきだろうか。両腕に大鎌を両手につけている。
走る男も背中に剣を背負っているが、その身体は傷だらけで足取りも不安定で今にも転びそうだ。
僕は木の棒を両手に持ち構える。
「アペンシス!」
モンスターを見て言葉を叫んだ。すると、男とモンスターの近くに文字の書かれたモニターが表示された。男の方には『あああああLv8』と、モンスターの方には『マンティスLv12』と映し出されている。
なるほど。この魔法は相手の名前とレベルを知る魔法なのか。というか『あああああ』って名前はなんなんだ。なんでネロさんはあの名前を許したんだ。
その時、突然悲劇が起こった。足取りの遅くなっていたあああああに追いついたマンティスは、その強靭な鎌を一振り。するとあああああは胴体を真っ二つに引き裂かれた。死体は光となって消える。
その恐ろしい光景に目を見開き絶句する。しかし立ち止まっている暇はない。僕に気付いたマンティスが駆け寄って来る。来た道を登って逃げようと思ったが、どこからか来たもう1体のマンティスが崖上から下りて来た。
「まずい」
崖の脇道に沿って死ぬ気で走る。マンティスとの距離が広がることはない。そしてさらに走っている先から別のマンティスが近づいて来た。
このままでは囲まれる。これはもう死ぬ気で突っ込んで前のやつを倒すしかない。
「うおおおお!」
手に握る木の棒をマンティスの懐にめがけて振りかざした。当てた感触は良かったが、あまり効いていないようだ。マンティスは僕を見ると鎌を振りかざす。
「ひいっ」
変な声を出しながらも身体を倒れるように背後に逸らし間一髪で回避する。しかし背を地面につけてしまった。あっという間に3体のマンティスに囲まれ、その巨体で僕を見つめる。手に握る棒で抵抗しようと持ち構えるが、棒は綺麗に切断されていて使い物にならない。
「これは終わった」
僕は完全に諦め死を覚悟し、1匹のマンティスが左腕の強靭な鎌をを高く上げた瞬間だった。そのマンティスの胴体が切断され地面に落ちた。事無くして他2体のマンティスも体を分断され倒れる。そして光となって死体は消えた。
「大丈夫?」
その声と共に倒れる僕の頭の方から女性が上から覗き込んで来た。僕は突然の出来事に言葉が出ない。
女性は長い金髪で、白のワンピースを着ている。この人が助けてくれたんだろう。お礼を言わないと。
僕が口を開き、ありがとうと言おうとしたその時だった。少し強い風が吹き付け、女性のスカートを大きく揺らした。スカートの中の下着がはっきりと目に焼き付いた。
「ピンクの縞々」
お礼を言うつもりだったのに思わず女性のパンツの口ずさんでしまった。その言葉に女性は赤くなり唇を震わせ、右足を上げて蹴りの構えを見せる。その時もスカートの中が見え、鼻から液体が垂れてくるのを感じる。
「このっ変態ッ!」
女性の振り下ろされた蹴りを最後に、僕の視界は真っ暗になった。