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異世界転生におけるリスク

 月明かりに照らされた小さな部屋。小汚い机とベットがあるだけで他には何もない。そんな部屋の中央で妙齢の女が細い手を小さく振りながらぽつりぽつりと何か呟いていた。


 女が呟き始めてから数時間、始めた時には窓から見えていた月は既に枠に捕らえられない位置に傾いてしまった。それでも女は手を振り、呟き続けていた。しばらくすると机の上に置かれた蠟燭の炎がゆらゆらと揺れ始めた。今まで暗闇の中で全く見えずにいた、床に描かれた陣がうっすらと光を放ち始める。


 陣が光り始めると女は手の振りをやめて、ボロボロになった木の椅子に深く腰を掛けた。





 この狭い部屋で魔法陣が輝く様子を見るのは何度目だろうか。女自身、千を超えてから数えるのをやめたからこれが何回目かは分からなかった。


 女がこの部屋を初めて訪れたのはまだずっとずっと小さく、10歳の誕生日を迎えてすぐの頃だった。女は元々ここよりはるか東の国で魔法使いの一族として幸せな生活を送っていた。しかし、時代のせいかその国も戦争に負けて滅んでしまった。国のほとんどの人は捕らわれ、奴隷として四方に売り払われた。女も例に漏れず奴隷として売り払われた身だった。


 一般に奴隷は危険地域での仕事や休む暇のない農作業に追われることがほとんどだった。魔法使いにしても干ばつの起こる地域に送られて命尽きるまで水魔法を唱え続けることが多かった。しかし、魔法使いとして一族の中でも頭角を現し始めていた女はそのような境遇には陥らなかった。才ある魔法使いとして女は高値で取引され、最後に売られた先は王宮直属の魔法機関だった。


 そこで女はこの部屋に初めて訪れることになった。女はそこでこれから10年近く続けていくことになる作業内容を知らされた。女を部屋に連れてきた衛兵は机の上に置かれた魔導書を指してそこに書かれた魔法を唱えるように命令した。魔導書をめくってみると一つの魔法について長々と記されていた。1週間以内に唱えるように、衛兵は女にそう告げると部屋の外へ出ていった。


 女は言われた通り魔導書を読みふけった。難解な魔導書だったが読めないこともなかった。ひたすら魔導書を読んで眠くなるとベットに入った。ベットは長年誰かが使っていたせいか、人型のくぼみがあった。そのくぼみは幼い女の体に対してとてもおおきいものだった。


 才能のおかげか1週間も掛からずに魔法を唱えることが出来た。


 それから毎日この小さな部屋でたった一つの魔法を唱え続けることが義務付けられた。女は毎日毎日季節関係なく唱え続けた。


 そうして気づけば女の年齢は捕らえられた年齢の倍近くになっていた。ベットのくぼみにピタリとはまるほど女は成長していた。





 魔方陣から発せられる光で一瞬視界を奪われた後、部屋はまた元の暗闇に戻った。暗闇に目が慣れてくると女の目に見慣れた光景が映る。


 魔方陣の中央に一人の男が倒れていた。それを確認すると女は部屋の外に待機していた衛兵たちを呼んだ。衛兵たちは倒れていた男を傷つけないように慎重に部屋の外へと運び出していく。


 魔力が男に注がれているせいで、女は次の魔法を唱えることが出来なかった。


 一人手持ち無沙汰となると女はいつものようにいそいそとベットに入り、くぼみに体を合わせて眠りに落ちた。ここに来て最初の1年は彼らのその後が気になって寝付けなかった。眠りにつけずにベットの中でじっとしていると体に急に魔力が戻ってきて、それからすぐに部屋の前に衛兵たちが戻ってくるのを感じることが続いた。衛兵たちが何をして、あの倒れていた男がどうなったのか、必死で考えないようにした。


 10年経ったある日、女の元に一人の貴族が視察に現れた。貴族は女を何か褒めていたようだったが女の耳にはその言葉は届かなかった。女は貴族の服に目を奪われていた。


「その服はどこで手に入れたのですか」


 女がか細い声で貴族にそうを問うてみると、貴族は嘲るようにして答えた。


「そんなことも知らずに10年間も同じ魔法を唱え続けていたのか。ここは貴族向けの服の生産工場さ」


 その瞬間女は狂った。女が大声で叫ぶと床の陣から多数の雷が発生し、女と貴族の体を貫いた。


 倒れた女に目にはベットの下に書かれたおびただしいまでの謝罪文が映った。

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