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ジーンベイビー

 ある夫婦が病院を訪れた。結婚して数年、念願叶ってようやく子宝に恵まれたのである。


「まだまだ小さいですが、息子さんは順調に成長していますよ」


 モニターを見ながら医者は述べた。


「本当ですか、それは良かった」


 待ち望んだことであるために夫婦は手を取り合って喜んだ。


 二人が落ち着くのを待ってから、医者はゆっくりと問いかけた。


「実は現段階だけできることがあります」


「この子のためなら何だってしてあげます」母親は強く言い、隣に立つ夫も頷く。


 では、と医者は机から冊子を取り出した。


「これは一体何ですか」


「遺伝子組み替えカタログです」


 渡された冊子を開いてみると中にはモデルのような美男子が沢山掲載されている。


「遺伝子組み換えとここに載っている青年たちに一体何の関係が」


「息子さんの顔をこの青年たちに似せることができます」


「そんなことって」二人は絶句してお互いに顔を見合わせる。


 夫婦にも何より子供自身に大きく関わることであるため簡単に決めることはできない。


「妻も子供も安全なんでしょうね」夫が不安そうに尋ねる。


「その点は万全です。難しい処置ではありませんし、今までに失敗の例もありません」


 それに、と真面目な顔をして付け加える。


「顔以外、その他の情報は親御さんのものをそのまま引き継がれます。顔だけをこちらに掲載されたモデルのように変えることができるのです」


 安心させるために言った言葉も夫婦には届いていないようだ。


「しばらく考える時間をもらってもいいですか」


「勿論ですよ。大変な決断ですからね。しかし、この処置ができるのは現段階だけですので、その点は注意してください」


 喜びの影もなく、夫婦は静かに医者の元を後にした。


 


 それから一週間経過した頃、夫婦は再び医者を訪ねた。


「私たちがこの子に与えてあげられるものは全て与えてあげたいの」


「その通り。顔が良くて困ることはないからな」


 夫婦の顔に既に迷いはなく、全ては子供の為にと考えた結論であった。


「これくらいの料金が掛かりますが、それでもよろしいでしょうか」


 医者が提示した値段は夫婦にとっていささか高値であっても、子供のためと支払う覚悟は出来ていた。


「それではこちらから顔をお選び下さい」


 医者からカタログを渡され、夫婦はゆっくりとページを捲る。


 カタログに掲載された男性はどれも美男子であるけれど、その中でも一番いい顔にしようと慎重に吟味する。


 悩みに悩んだ末、夫婦はようやく一人のモデルを選択した。


「将来は俳優かモデルかしら」


「世界を股にかけるプレイボーイという可能性もあるな」


 生まれてくる胎児に向かって二人は嬉しそうに喋りかけた。





 二十年後、夫婦の子供はすくすく成長し、約束された顔の青年となった。しかし、彼は俳優やモデル、プレイボーイとは程遠い生活を送っている。


 それは彼の周りに彼と瓜二つの顔が溢れていたせいであった。


 どの夫婦も子供の為にと吟味した結果、どの子供も似たような顔になってしまったのだ。


「誰も彼もが似た顔じゃないか。もっと個性的な顔に産んでくれたらよかったのに」青年が嘆いても顔は変わらない。


 悲しみの中、ふとした拍子に青年はある噂を耳にした。


 それはこの街にとても腕の良い整形外科医がいるというものだ。どうやら青年と同じ顔の者たちはみなそこへ駆け込んでいるらしい。


 急いで行かねばと、大金握りしめて青年が向かったのは彼の生まれた病院であった。

長編も書いてますのでお時間があればそちらもどうぞ。

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