砂の城
こんな夢を見た。
私は一人の娘だった。
小さな国の皇女だった。
私は書庫で日記を見つけた。
それは何代か前の王妃の日記だった。
私は静かにその日記をめくった。
『私が妃にならなければ、私の故郷を滅ぼすと王は脅した。
はじめから王は私を帰す気はなかったのだ。
私は愚かだった。
愛しい人を置き去りにし、来てしまった。
すぐに戻ると約束をして。
私は愛する人を守るために、妃になるのだ。』
『私の故郷が突然消えた。
王は戦をしかけてはいないと言う。
では、一体どうして消えたのだろうか?
私の帰る場所は永遠に失われてしまったのだ。
王は私に優しくしてくれる。それを不満に思うことはない。
でも、私は帰りたかった。
もう、帰ることは出来なくなってしまったが。』
『いつか、私は故郷へ帰るのだ。
たとえ、この身が滅びても、私は故郷へ帰るだろう。
最近、私の故郷に蜃気楼が出ると聞いた。
突然城が浮かび上がるのだそうだ。
人々はそれを砂の城と呼んでいるという。
きっと私を呼んでいるのだ。そうとしか思えない。
だから私は帰らなくてはならない。
愛する人が眠る大地に。』
私は日記に興味を持った。
この日記の場所へ行ってみよう。
そうして私は旅に出た。
日記に書かれた場所は私の国から馬で三日の距離だった。
今、そこには草原が広がるばかりだった。
「本当にここに国があったの?」
私は疑問に思い、呟いた。
ここにあった城は一夜にして消えたという。
そうして残された国人は、国を捨てた。
どうして、城は消えたのだろう?
私は城があったであろう場所に花を供えた。
風が強く吹いた。
私は名前を呼ばれたような気がして、振り返った。
後ろには誰もいなかった。
勘違いと思い、正面を向いた時だった。
目の前に城が出現していた。
私は驚いた。
「おかえりなさい!」
城から人々が手を振っていた。
「ずっと待っていたんだよ」
「おかえりなさい」
そう言って涙ぐむ人々。
私は訳が分からず、黙っていた。
「やはり、お前をあの国に使者に出すのではなかった」
一人の年配の男が言った。
「こんなことになるなんて…!」
そう言って一人の青年が私を抱きしめた。
「どうした?変な顔をして。
恋人の顔も忘れたのかい?」
青年が私を覗きこんで言った。
恋人?
それでは、この青年はあの日記の妃の恋人。
私は日記の妃と間違えられているようだった。
だから、私は演じることにした。
「ずっと待っていてくれたの?」
「ああ、すぐに戻ると言っていたからね。
でも君はなかなか戻ってこなかった。
あの男に気に入られた君は妃になってしまった。
あの男は君を手に入れるために、この国に戦をしかけたんだ。
だからこの国を守るために、魔法をかけた。
君が戻ってきたら、魔法が解けるように」
青年は寂しそうに笑った。
「でももう限界のようだ。
こうして君に会えたから、僕たちは消えるだろう。
ずっと一緒にいたかったけれど、ごめんね」
「そんなことないわ。
待っていてくれて、ありがとう」
私は青年に微笑みかけた。
「これからはずっと一緒だから。
もう待たなくていいのよ」
私の言葉に青年は嬉しそうに微笑んだ。
年配の男も嬉しそうだった。
それが私が見た最後の光景だった。
城と人々は砂のように消え去っていったのだった。