7章第11話 ランドール橋
どこまでも続く空、透き通る空の中に、雲がいくつか浮かんでいる。
どの国とも変わら無い空、しかし、今日はそんな空を切り裂く様に飛ぶ翼があった。
先頭を飛ぶのはF-2A、6機の内2機は空対空装備、残りは爆弾やミサイルをこれでもかと搭載している。
ヨルジア空軍第226戦闘飛行隊、"バイパー"隊から選抜された6機だ。
空対空装備の内1機には、アヤメ・カンザキ少尉、TACネームは"クレイン"、コールサインは"バイパー5"。
その後方を飛行するのは、EGBU-16とGBU-31を4発ずつ搭載したF-15EJストライクイーグルである。
垂直尾翼に馬のマークを付けた彼らは、ヨルジア空軍第309戦闘飛行隊である。コールサインは"マスタング"。
まさか私が空対空装備で作戦に着くとは……と思いながら、アヤメ少尉は攻撃隊の先頭を飛ぶ。
『声に出てるぞー鶴ちゃん』
『鶴ちゃんって止めてくださいよ、私のTACネームは"クレイン"です』
『そう言うな、今回は要塞攻略みたいな大きな任務じゃないんだ。稼働機はそんなに割くことは出来んからな』
隣を飛ぶ僚機がそう話し掛けてくる、そんな事は分かってる、と言いたげな表情をしながら彼女は黙り込んだ。
『それに俺達が空対空装備だとは言え、上空にはミーティア隊が着いてるんだ。安心して戦え』
そう言われると、彼女は軽く上空を見上げる。
この編隊全体を見渡す様に上空を飛んでいるのはF-22ラプター、ヨルジア空軍第202戦闘飛行隊"ミーティア"隊の2機だ。
世界最強と謳われる戦闘機が2機、上空を飛んでいる。
しかし、アヤメ少尉はそれに興味はない。
確かに開戦初日から活躍し、既に数十機の敵戦闘機を撃墜している彼らは間違いなくエースであろう。だが彼女にとってそれはどうでもいい、重要なのは彼らに背中を預けるに足る信頼を置けるかだ。
周りはF-22の守護を頼って楽観しているが、彼女はそうは思わない。
彼らが守ってくれない、守れない可能性も捨て切れない以上、戦場では己の技量だけが信じられる、彼女の持論だ。
『……別に』
『……クレイン、自分の力を信じて頼るのは良いが、お前には仲間が居るんだ』
『分かってます』
分かってはいるのだ、集団行動は軍の基本である。頼る時は頼るし、信じる時は信じる。
だが、頼る時と信じる時を決めるのは、彼女だ。
『こちらミーティア1、目標まで40nm。SDBスタンバイ』
上空を飛ぶF-22からの通信、今頭上を飛んでいるのは、TACネーム"フリーダム"と、ミラー少佐の交代で来た"クイーン"のF-22だ。
そして今回の作戦に随伴するF-22は、2機ともが爆装、詰めるだけのGBU-39 SDBを満載している。
空対空戦闘を得意とするF-22を対地攻撃に投入する事に眉をひそめるアヤメ少尉、対地攻撃を本来得意とするF-2に任せれば良いとも思いはしたが、作戦があるのだろう、と思って何も言わない。
彼女の場合、どんな手が飛び出てくるのか、そして背中を預けて戦えるに足るのかをしっかり見ておこうと思っているところもあるが。
アヤメ少尉達非ステルス戦闘機で構成された部隊は、攻撃目標手前30nmで低空へ降下、山を利用して敵のレーダー網を回避し、爆撃するコースを取る。
しかし、降下に入った非ステルス戦闘機部隊とは違い、2機のF-22は降下する素振りはない。
それどころか……
『ミーティア1、Bomb's away』
『ミーティア2、Bomb's away』
まだ作戦区域が目視範囲外にも関わらず、アフターバーナーを点火して加速、上昇しながら爆弾を切り離す"トスボミング"という方法でGBU-39を投下し始めた。
アヤメ少尉は一瞬、早過ぎる、と思ったが、直後に思い出す。
GBU-39SDBは展張型の翼を備えており、最大滑空距離は110kmにも及ぶ。
GBU-39を全弾投下したF-22はアフターバーナーを切り、先程同様攻撃編隊の直掩に着く。
それをばら撒いて爆撃、なるほど、敵の地上部隊を減らす算段か。
とすると、標的は何に……と考えた。橋を直接爆撃されてしまっては、攻撃隊の仕事も無くなってしまう。
そんな考えを他所に、風防の外を山肌が高速で後ろに流れる。
山の合間を縫って、亜音速で飛行する間に、彼女の頭上ではGBU-39SDBが最短コースで目標に向かっていく。
『うぉっ……』
『クレイン、もうちょっと慎重に飛べ。身重の戦闘爆撃機もいるんだから』
『LANTIRNのお陰で低空飛行を飛ぶ事は出来るはずです』
『そりゃ夜間の話だって……』
そうボヤく僚機だが、しっかりとアヤメ少尉に付いていく、もちろんF-2とF-15EJで構成された攻撃隊もだ。
目標まで20nm、15nmと、着々と近づいて行く。
敵の警戒レーダーに引っかからない様に低空を、なるべく高速でだ。
『目的地まで10nm、敵AAAに注意!』
山地の稜線を超えると、目標が見えた、核の輸送ルートの1つと言われるルート330の要衝、"ランドール橋"だ。
空対空装備をした2機のF-2は手前でハイレート・クライム、速度を一気に高度に変える。
Gが身体にのし掛かるが空中戦ほどでは無く、一気に高度を約5000mまで上げる。
ロールを打ってラダーを踏み、機体を捻って橋を中心に左旋回しつつ、命じられた通り空中哨戒待機に入る。
F-22は、データリンクによると更に上空を同じ様に旋回している。こちらも空中哨戒待機に入ったらしい。
攻撃を開始する為にF-2がまず攻撃進入……する前に、橋の周囲に配備されていた警戒レーダーと地対空ミサイル《SAM》が吹き飛ばされた。
F-22が遠距離から投下したGBU-39SDBだ、GPSの座標を入力し、正確に誘導された8発がまず航空機の脅威となる地対空ミサイルサイトと警戒レーダーを排除する。
続いて"クイーン"を名乗るF-22が投下した同型のJDAMが、再び橋の周辺に降り注ぐ。
爆炎と共に破壊されたのは、目に付いた航空機に向かってやたらめったら撃ちまくり、打ち上げ花火の様になっている対空砲。それも自走式で短距離対空ミサイルが一緒に搭載されているタイプのものだ。
『命中確認』
全てのJDAMを吐き出し終えたF-22のパイロットが呟くように言う。これで後続の攻撃隊の進入が容易になる、遠距離から爆弾を投げたのはこの為か。
空中哨戒待機のF-2から少し遅れた攻撃隊のF-2とF-15EJが山影から飛び出してくる、残存対空兵器の攻撃開始だ。
『バイパー1、ライフル、ライフル』
橋の周囲から上空のF-2に向けて射撃する対空砲に向けて、低空から侵入して来たバイパー1がブライムストーンを発射。
目標を捉えたシーカーに導かれ、狩りをする肉食獣の様に対空砲に喰らい付いた。
もう1発のミサイルは別の対空砲に突き刺さり、戦車をも撃破可能な弾頭を炸裂させてもう1基の対空砲を沈黙させる。
『バイパー2、ライフル、ライフル』
もう1機のF-2が攻撃侵入、再びブライムストーンを発射し、対空砲を沈黙させた。
2機のF-2Aは対空砲を破壊すると上昇し、左右に分かれて旋回。上空から再び対空砲を発見するとダイブし、ミサイルを照準する。
『……捕捉した……!くっ……!』
照準した瞬間、今度は別の対空砲の射撃に攻撃を中断され、旋回上昇に入る。
『こちらバイパー1、対空砲火に邪魔された!』
『畜生、奴ら相互支援の体制に入りやがった』
バイパー2が上空から観測する様に飛ぶと、1基の対空砲を2基の対空砲がサポートする様に曳光弾が伸びている。
『バイパー3、援護する』
『バイパー4、援護する。マスタング・リーダーへ、LJDAMの終末誘導頼む』
そう入った通信と共に、上空でF-2Aが旋回する。
作戦地域の上空で敵を待っていた2機のF-2Aには、LJDAMが搭載されていた。
GBU-38を8発抱えたF-2Aは旋回すると、空域に侵入して投下準備を行う。
『バイパー3、爆弾投下』
主翼の下からGBU-38が1発投下され、切り離された爆弾は重力に引かれて地面へと吸い込まれていく。
『マスタング1、誘導開始』
F-15EJストライクイーグルの1機が目標を中心に旋回し始め、スナイパーXRポッドで目標を捕捉、照射する。
GBU-38はマスタング1が照射したレーザーに乗り、目標に向けて一直線。
地上では対空機関砲がF-15EJを追い払おうと空に向かって吼えているが、その内の1基の対空機関砲が、F-2が投下しF-15EJが誘導したGBU-38に貫かれて爆散する。
『目標に命中!』
『バイパー4、爆弾投下』
『マスタング2、誘導開始』
命中を確認すると、今度は別のF-2AからGBU-38が投下され、F-15EJが同じ様にスナイパーXRポッドでレーザー誘導を開始した。
JDAMの尾翼が風を切り、爆弾の先は向きを変えて真っ直ぐに対空機関砲に突き刺さって炸裂。
『よし!2基目を破壊した!』
『バイパー1、ライフル!ライフル!』
LJDAMによって防空陣地から数を減らした対空機関砲に、容赦無くミサイルが撃ち込まれる。
攻撃コースに乗ったF-2Aを妨害する対空機関砲は既に別のF-2Aによって封殺されており、攻撃侵入は格段に容易になっていた。
発射された2発のブライムストーン対戦車ミサイルは、狙い通りに対空機関砲を破壊、打ち上げられる対空砲火を更に減らし、南から侵入して来たバイパー2が更にブライムストーンを発射、残りの対空砲にとどめを刺した。
『こちらバイパー1、見える限りの対空砲を排除した!マスタング・リーダーへ、橋を爆撃してくれ!』
『ミーティア1より全機、警戒、敵機インバウンド!数8、高速接近中』
爆撃を妨害する対空砲を全て始末し終え、橋へとどめを刺すべくマスタング隊のF-15EJが侵入し始めた瞬間、F-22のレーダーがこちらに向かう影を捉えた。
『BRAA020 40 15000、相対速度マッハ2で接近中』
『来た……』
上空でF-2Aを旋回させていたアヤメ少尉は上昇、バイパー6と共にF-22と作戦通り合流する。
『敵は高速で接近している、先制攻撃だ。MAAMスタンバイ』
ミーティア1の指示にマスターアームを確認、ONになっているのを確かめ、レーダーで捉えている敵に機首を向けた。
『ミーティア1、AMRAAM、RDY』
『2、AMRAAM、RDY』
2機のF-22がAMRAAMの発射準備完了を報告し、2人のパイロットがミサイル発射スイッチに指を掛けた。
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『状況を報告、敵機は10機、状況は不利だ』
『オルト1よりオルト2、敵機は恐らく攻撃機だろう。こちらに向かってる2機がCAPだ、舐められたものだな』
北の方から現れたその部隊は、砂漠迷彩の8機だ。
1枚の垂直尾翼と胴体下のエアインテーク、小型軽量のその機体は、単発でも十分な推力を持つエンジン。
ブレンデッドウィングボディを持つその機体の背中には、背負うように2つのコンフォーマルフューエルタンクが載っていた。
その戦闘機はF-16E"ファイティングファルコン"。
元エニシェール空軍 第3航空師団 第102戦闘飛行隊、"オルト"隊。
開戦後に基地から逃亡、追ってきたスクランブル機を全て叩き落とし、包囲した友軍を振り切る程の技量を持つ。
『敵機が何者だろうと構わん、俺達の力を見せつけてやれ』
『了解』
『全機、作戦開始、敵を落とす事だけに集中しろ』
8機のF-16Eは編隊を保ったまま、橋へと接近していった。




