7章9話 砦強襲
凶暴な鼬達が防空網制圧任務を行っている、後続の部隊の進入が容易になるように、奮戦しているのだ。
後続の部隊とは、リドリス国際空港のタスクフォースFOBを離陸して、砦に向かい飛行する4機のCV-22Bオスプレイだ。
乗っているのは1個中隊、約70人の特殊部隊、シルバー・アローズB中隊だ。
A、B、Cの3つの中隊からなる、ヨルジア陸軍の精鋭部隊である。
「いいか!?今一度作戦内容を確認する!」
オスプレイの機内でレミントンACRを携え、マルチカム迷彩の戦闘服に身を包んだ精鋭達が隊長の言葉に耳を傾ける。
「砦に到着したらファストロープでヘリボーン降下、砦を制圧してOPを設置する。ルート560の監視ポイントを確保するんだ」
派手にOPを設置したらルート560をが使われなくなってしまうのではないかと懸念はあるが、それはそれで敵の行動を制限することが出来るというメリットも持ち合わせている。
もしここを核兵器が通らなくなった場合、まともに機能する敵の補給線はルート240のみになるからだ。
「砦に到着したらAC-130も支援してくれる、訓練の成果を発揮するチャンスだぞ!締まって行こう!」
「「「了解!!」」」
誰が指示するまでもなくアドミンロードを始める隊員達、ホルスターからP226を抜き、スライドを引いて初弾装填。スライドを少しだけ引いて薬室を確認、スライドを押し戻してホルスターに収める。
隊員により様々な光学機器が搭載され、マガジンが挿さったACRのコッキングレバーを引き、こちらも薬室を確認、安全装置をかけておく。
戦闘準備は整った、後はオスプレイが戦闘地域に到達するのを待つだけだ。
その前にオスプレイが撃墜されないことを祈り、その祈りを乗せて砦へと固定翼機モードで飛んでいく。
『コヨーテ1、敵レーダーサイト全ての破壊を確認』
『了解、引き続き対空兵器を破壊する』
砦周辺空域では、作戦フェーズ2が続行中、コヨーテ隊による対空兵器の大掃除がまだ続いていた。
空軍のEA-18Gグラウラーによる電子妨害とWW部隊の対レーダーミサイルで、レーダー誘導の対空ミサイルと索敵レーダーほその全てが沈黙し、煙を上げている。
だが、彼らの大掃除は終わったわけではない、特殊部隊を乗せたCV-22Bに対して脅威となる赤外線誘導の短距離対空ミサイルや対空機関砲などが、まだ残っているのだ。
そしてAGM-88E AARGMを撃ち尽くしたコヨーテ隊のF-2Jだが、まだ残っている兵装があった。
『コヨーテ1、Bombs away』
『2、レーザーオン』
コヨーテ1の主翼の下から切り離されたのは、レーザー誘導爆弾。それもEGBU-12 500ポンド能力向上型ペイブウェイである。
F-2Jは能力的に、AGM-88Eを4発搭載することが出来る。敵防空網制圧に全力を注ぐのであればそうしたかもしれないが、そうすると他のターゲットを撃てなくなってしまう。
その為ヨルジア空軍のワイルドウィーゼル部隊は、「対レーダーミサイル2発、レーザー誘導爆弾又はGPS誘導爆弾2発の混合搭載をメインとしている。
しかしF-2は原型となったF-16よりも主翼が大型の為、この状態でもAIM-120D AMRAAMとAAM-3B“シルバーアロー”を2発ずつ搭載することが可能である。
投下されたEGBU-12は弾幕を張り続けていた2K22ツングースカ自走対空機関砲に直撃し、上空に吼える対空砲火の1つが静かになる。
目標に向かってレーザーを照射する“ハンター”、爆弾を投下する“キラー”、ここでも二手に分かれて目標に対して次々と精密誘導爆弾を放り込んでいく。
崖の下の森の切れ目でもう1つの爆炎が上がる、9K33オサーが、EGBU-12の直撃で破壊された。
1発が砲兵中隊を上回る火力を持っているのだ、そんなものの直撃を喰らえばどうなるか、想像に難くないだろう。
『コヨーテ2、Bombs away』
『1、 レーザーオン』
選手交代、今度はコヨーテ1が誘導、2が攻撃の番だ。
6機中4機のF-2Jが、こうして連携を取りながら敵対空兵器を着実に削り取っていく。
残りの2機はと言うと……
『コヨーテ5、Rifle!』
翼の下に取り付けた空対地ミサイルで、対空機関砲や短距離SAMを破壊しまくっていた。
AGM-88Eの消えた翼下にあったのは、F-2に近接航空支援兵器として承認されているMBDAブライムストーン短距離空対地ミサイルだ。
ハードポイントに3連ランチャーを介して取り付けられているこのミサイルは、AGM-65マーベリックよりも弾速が速く、小型の為1機に多数を搭載する事も出来る。
たった今、F-2Jの放ったブライムストーンが牽引式20㎜ガトリング機関砲を破壊したところだ。固定翼航空機は当たり所によっては機関砲1発で撃墜されてしまうほど、敵砲火に対して脆弱だが、回転翼機やティルトローター機はそれ以上に精密なのである。
そして回転翼機は固定翼機よりも機速が遅いため狙われやすく、固定翼機だと無視しやすいこうした小さな対空兵器も、しっかり排除しておく必要があるのだ。
MBDAブライムストーンを発射し離脱するコヨーテ5を狙い、9K31イグラが発射されるが、コヨーテ5は急旋回しつつフレアを発射して回避する。
そして発射地点を目掛けて、後続のコヨーテ6のパイロットが引き金を引いた。
『ガンズ!』
F-2Jの左舷ストレーキ、コックピット近くに備えられたJM61A1 20㎜バルカン砲が唸り、携行地対空ミサイルの発射地点付近を20㎜機関砲弾がなぞっていく。
更に横合いから侵入してきたF-2Jが、追加の機銃掃射を加えていく。
掃射地点が煙を上げ、次弾の携行SAMが発射される事は無かった。
『こちらコヨーテ6、砦に対空兵器を確認。攻撃する』
低空飛行してスナイパーXR照準ポッドで対空兵器を探していたコヨーテ6が砦に近付くと、砦の監視塔や城壁上にZU-23-2 23mm対空機関砲が配備されているのを確認した。
F-2Jはそのまま、砦の上空をハイスピードローパス、左へ旋回する。
速度を保ったままサイド攻撃侵入、|多目的表示ディスプレイ《MFD》に標的である対空機関砲を映し出す。
握った操縦桿を少し動かし、緩降下姿勢に入る。
『コヨーテ6、Rifle、Rifle』
F-2Aの翼の下から、2発のプライムストーンが発射された。
ミサイルは城壁上に配備されていた、狂った様にこちらに発砲してくる対空機関砲に突き刺さり、爆散させた。
F-2Aは素早く引き起こし、上昇しつつ砦の上空を横切っていく。
コヨーテ6に続き、コヨーテ5がブライムストーンが対空機関砲めがけて連続発射。
見張り台に据え付けられていたZU-23-2が粉々になり、更に追い討ちをかける機銃掃射がDShk38 12.7mm重機関銃の銃座を攫っていく。
対空火器はいよいよAK-47やRPKなどの小火器になっていき、敵の士気も下がり散発的な対空砲火しか上がらなくなってきた。
『コヨーテ・リーダーよりベルーサ・リーダー、及びスプーキー・リーダー。進入を許可する』
『了解、ベルーサ・リーダーよりコヨーテ・リーダー。掃除に感謝する』
『了解、スプーキー・リーダーより各機、援護に感謝する』
===========================
『ベルーサ3-1より各機、無事に特殊部隊を下ろすぞ』
『了解』
4機のCV-22Bは固定翼機モードから回転翼機モードへと移行、エンジンナセルが立っていく。
速度を落としホバリングを始めたCV-22Bのカーゴハッチには、GAU-19/B 12.7mmガトリング機関銃が据え付けられている。
ロードマスターの特殊部隊員が持っているのは、M82A3対物ライフルだ。
砦の上空、バラバラと音を立ててホバリングする。
2機は監視塔の上、破壊された対空兵器の近くと、砦の中庭にロープを下ろす。
残りの2機は崖に面さない砦の外縁部に降下する。
ロープを下ろし、マルチカム迷彩に身を包んだ精鋭部隊が降下していく。
砦の中から出てきた敵兵は、オスプレイのランプドアでM82A3を構えた狙撃手に撃ち抜かれ、RPGの射手はGAU-19/Bによってランチャーごと文字通り粉砕される。
『ベルーサ3-1、分隊降下、離脱する』
『ベルーサ3-2、分隊降下、周辺の警戒に入る!』
『ベルーサ3-3、分隊全員降下、離脱!』
『ベルーサ3-4了解、分隊総員降下、離脱する』
20人の兵員を下ろしたCV-22Bは離脱、砦から離れる。
ファストロープで降下したシルバー・アローズB中隊の隊員は6人1分隊となり、砦へと突入していくグループと外で増援に対し防御陣形を整える部隊へと分かれる。
タンカラーのレミントンACRのストックを展開して体格に合わせて伸ばし、EOTech552ホロサイトのバッテリーが入っている事を確認、中庭に降下した部隊は6人1組の分隊に分かれ、砦の中に侵入して行く。
空爆を受けて対空兵器が破壊された砦の兵の武装は主にAK、まさにテロリスト御用達の武装と言える。
廊下の窓の外にAKを突き出し、ささやかな抵抗に対空砲火を上げているテロリスト達を横合いから攻撃。彼らが特殊部隊に気付きAKを向けようとした時には、5.56mm NATO弾がテロリストの身体を貫いていた。
レミントンACRを構えながら、特殊部隊は砦の内部を進んでいく。
部屋の前で突入陣形を整え、ドアを開けて弾丸の貫通しない壁に囲まれた部屋の中にM67破片手榴弾を投げ込む。
炸裂、狭いドアはクリスクロスと呼ばれる入り口で順に交差する様に突入、セミオートで正確に射撃し、一挙に制圧する。
同じ様な光景が、砦内部の至る所で見られた。
===========================
上空では爆撃を終えたF-2JとF-15CJが空中哨戒待機に入り、F-2Jは近接航空支援要請に、F-15CJは敵戦闘機の襲来に備えていた。
F-2Jは地上部隊の要請に合わせて機銃掃射やミサイルを叩き込み、F-15CJはそのF-2を守るかのように目を光らせる。
F-15CJが搭載しているAN/APG-63V1レーダーは探知距離300kmにもなる長距離の索敵が可能であるが、AWACSの支援を加えてその探知能力は更に磨かれ、索敵能力は凄まじいものになっている。
その"鷹の目"と空中管制機が、新たな目標を見つけた。
『エターナルより全作戦機へ、ルート560上空に高速で接近する機影を確認! BRAA0-2-0 40 16000様子が妙だ、警戒せよ』
『スワロー1よりスワロー各機へ、敵の本隊と思われる。方位0-2-0、ヘッドオン』
『了解』
『コヨーテ1よりコヨーテ各機、スワロー隊が守ってくれる。低空へ避退して最低限の自衛戦闘に努めよ』
『了解』
空中では通信が飛び交い、航空機が踊る。
F-15CJは交戦に備えて、編隊を組み直しつつ上昇。F-2Jは山の陰に隠れるように低空へと降りていく。
ユニスは操縦桿をしっかりと握り直し、交戦に備える。スロットルの位置も正常、高度は敵より高位の約16400ft。音速を超えた命のやり取りが始まろうとしているのに、バイザーとマスクの下の彼女は薄く微笑んでいた。
レーダー画面上では、そろそろ敵の中距離空対空ミサイルでの攻撃が始まる距離。
多機能表示画面と風防の向こうから目を離さず、4機の荒鷲は敵と頭を突き合わせた。
===========================
ルート560北方上空。
北の空から、轟音を轟かせ、空を切り裂いて飛来する戦闘機。その数、8機。
丸みを帯びた空気取入ダクトに、1枚の垂直尾翼。三角翼の主翼を持ち、機首からは空中給油用のプローブが伸びている。
そして主翼下と主翼端には、ぎらりと鈍く陽光を反射させる殺意を込めたミサイル。
ダッソー ラファールM、この戦闘機の名前だ。
元ロマノフスク空軍 第6航空師団 第12戦闘飛行隊、"バルド"隊。
クーデター軍としてこの「テロの戦争」に加わっている飛行隊だ。
開戦初期、グルーバキア正規海軍の空母"スカト"から出撃した海軍航空隊のSu-33フランカーDを、1度の交戦で壊滅に追い込むという戦果を挙げた精鋭でもある。
『バルド2よりバルド1、砦が敵部隊に襲われています』
『バルド1より各機、ルート560から敵機を追い払う』
8機のラファールは乱れのない編隊を組みながら、一斉にアフターバーナーに点火、加速する。
『目標、敵戦闘機4機、攻撃機4機、輸送ヘリ4機。地上部隊は攻撃ヘリチームに任せろ』
『了解』
隊長が全員にそう指示すると、4機は一斉に散開した。
『戦闘開始、全て叩き落とせ』




