7章第7話 核の道
前段なので短めです
CAPに上がったドラゴン隊とルーラー隊が全機撃墜された事を受けたガルシア島飛行場では、情報収集が活発に行われていた。
連携しているFOBのリドリス国際空港に展開しているPJと救難捜索隊の共同で、現在脱出したパイロットと墜落した機体の捜索を行っている。
しかし人が減ったからと言って、防衛体制に穴を開けるわけにはいかない。本国からドラゴン隊の人員と機材の追加が行われ、4機のF-15がガルシア島飛行場に到着した。
そしてその部隊が練度向上訓練を行っている間、新たな作戦が通達される。
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「調査の結果、核兵器は陸路と空路で輸送されている。リドリス奥地から港までの輸送ルートは3つだ」
壇上でプロジェクターを使いながら話しているのは、ここガルシア島に駐留する航空戦力を取りまとめる司令官だ。
そんな司令官の話を、メモを取りつつ聞く、女性空軍パイロットがいる。
ユニス・フレミング。ヨルジア空軍第3航空団第307戦闘飛行隊、"スワロー"隊3番機。
彼女の愛機はF-15イーグル、最も多くが生産された制空型"F-15C"の、ヨルジア空軍向け改修型である、F-15CJに乗っている。
「ルート330、ルート560、ルート240、この3つの中で最も可能性が高いのが、ルート560だ」
プロジェクターの中の映像、真ん中を走る道が黄色く浮かび上がる。その上にはroute560というフラッグが立っていた。
「ここは最も核兵器が陸路搬送される可能性が高いが、途中に敵が砦を作り、周囲に厳重な対空火器による防空網で覆っている」
やはりというか、敵はこの一帯を対空火器で覆って防空網を作っているらしい。
その為、今回の作戦には、再び"ワイルド・ウィーゼル"部隊が同行する事になっている。
最近のワイルド・ウィーゼルは大忙しだなぁ……などとユニス少尉はぼんやり思いながら、自分の金髪をヨリヨリと弄る。
最近は核弾頭の発見に伴い、敵の動きも活発化して来ている。奪われた核弾頭を取り返そうとしたり、これ以上核弾頭が奪われないようにあちこちに移動させたりと敵も大忙しだ。
「ルート560は、スワロー隊が制空権確保、コヨーテ隊で防空網を攻撃・制圧後に、シルバー・アローズB中隊が降下して確保する」
ふと疑問に思ったユニスは画面を見つめる、何故制空隊が出る必要があるか。
疑問は簡単で直ぐに解けた、ルート560とルート330、直線距離だと殆ど同じくらいの距離に、空軍基地があるのだ。
かなり遠い、恐らく国境付近の奥地だろうが、そこから航空機が出撃し、降下部隊や攻撃隊を攻撃する可能性もある。それに対処するための制空隊だ。
「同時に、ルート330にも攻撃を仕掛ける。この道にかかるランドール橋は、核の輸送ルート以外にも敵が前線へ物資を運ぶのに重要なルートとなっているからだ」
ルート330の地図が表示され、それを見つめる。
「この橋も強固な防空網で守られており、航空機の接近に際して注意を払う必要がある」
そりゃそうだ、防空網で固められた防御陣地に無防備に近づくなんてのは自殺行為、良くて手の込んだ自殺志願者だ。
どうやらこちら別働隊が叩くらしい、それ聞き、別働隊の無事を祈りながら、ユニスは視線を戻す。
「ここの攻撃は、ミーティア隊、バイパー隊とマスタング隊で行う」
ユニスはピクンと反応してしまう、ミーティア隊と言えば、ユニスの憧れであるラプター、つまりF-22を擁する飛行隊である。
この間一緒に飲みに行く機会があったが、どんなに変わらないパイロットを装っていても、醸し出す雰囲気はやはり精鋭の物だった。
同時に彼女は、ルート330での作戦に安心感を覚える。慢心とは全く別の、「彼らなら必ず敵を叩き、帰って来られる」という安心感だ。
「今回は少数での攻撃となる為、ヨルジア空軍でのみの作戦となる。大規模攻撃だと敵も核を引っ込めてしまうからな」
笑いながら司令官がそう言う、この雰囲気はブリーフィングも終わりに近い。既に雰囲気が分かる数人がペンをペンケースに仕舞い始めている。
「では、ブリーフィングを終了する、質問等は受け付ける。健闘を祈る」
ブリーフィングを聞いたユニス、作戦内容は全て頭の中に叩き込んだ。
席を立ってパイロット待機室の自分のロッカーを開く。
耐Gスーツを身に付け、ヘルメットを被る。生存装備だけで20kg近くあるが、ユニスにはもう慣れた重さだ。
ヘルメットを持ち、ドアを開けるとそこはコンクリートの平原、ガルシア島飛行場、エプロン地区である。
ヨルジア空軍、海軍を始め、フランデンベルグ空軍、エリーザ空軍、レイレガリア空軍などの様々な戦闘機や攻撃機、輸送機、哨戒機が駐機している。
その中に、ヨルジア空軍の戦闘機の駐機スポットがある。ユニスはその内の1機に近づいた。
テニスが出来そうな広い主翼に長い機首、2枚の垂直尾翼の先にはセンサーも付いている。
灰色の制空迷彩、「如何なる状況でも、空から敵を追い落とす事」を目的として作られた戦闘機。
F-15CJ"イーグル"
ユニスの愛機の名前だ。
愛機に登るタラップに足をかけたその時。
「よう、嬢ちゃん」
呼ばれたのはユニスの様だ、スワロー隊にユニス以外の女性パイロットは派遣されていないし、近くに女性パイロットがいる様子も無い。
振り向くと、見覚えのある男性パイロットだった、思い返すと、声も聞き覚えがある。
「……?どちら様で?」
しかし、ユニスはその断片的な情報だけで、声を掛けて来た男を思い出せなかった。
「まぁ、あんまり交流もなかったしな。フレーイ隊のリーダーさ」
言われて思い出した、チャスタイズⅡ作戦で、野戦滑走路攻撃に向かったレイレガリアのタイフーン隊が、フレーイ隊だった。
「あぁ、フレーイ・リーダーですか。お疲れ様です」
ユニスは笑みを浮かべて軽く会釈をして、タラップを登るが、フレーイ・リーダーは話しかけ続ける。
「お疲れさん、今日終わったら暇か?良かったら一緒に飯でも……」
ユニス自身は気付いていないが、ユニスはここガルシア島飛行場に展開するパイロット達の人気も高い。
理由はもちろん、整った顔とスタイルである。
美人、というより、可愛い、と言う言葉の方がユニスには似合っているだろう。
しかし
「いえ、私この前飲んでたらラプターパイロットさんに迷惑かけちゃって……暫くお酒控えてるんです」
フレーイ・リーダーはまだ機首の辺りにいるが、ユニスは構わずヘルメットを被り、機体の電源を入れる。
「そんなところにいると、ヒューマンストライク起こしますよ?イーグルはエンジン出力大きいので吸い込まれ易いですし、私もそんな事で作戦に影響を及ぼしたく無いんですけど……?」
ユニスがコックピットから声を掛けると、気圧されたようにフレーイ・リーダーはそっと離れる。タラップを外しに来た整備士も苦笑していた。
気にすることなく、エンジンスタート。甲高い音と共にタービンの回転が上がっていく。
イグニッション、エンジンに燃料が流入し、火を入れる。少しの振動と大きな音で、イーグルのエンジンが力を手に入れる。
酸素マスクとGスーツを機体に接続、酸素マスクを装着するとキャノピーを閉じ、戦闘機の準備運動、補助翼の動作確認をする。
操縦桿は自在に動き、補助翼、水平尾翼がパタパタと動く。
ペダルを踏めば、垂直尾翼が左右に動く。引っかかりや癖の無い、滑らかな動きだ。
エンジンの調子も上がって来た、計器関係も問題は無し。
武装の確認、機関砲通電確認、ミサイルの自己診断プログラム……問題無し。
既に作戦に合ったミサイルの搭載は済んでいる、AAM-4"ダーインスレイヴ"中距離空対空ミサイルが4発、エンジントランクの下部に取り付けられている。
翼の下にはAAM-3"シルバーアロー"短距離空対空ミサイルが4発だ。
AAM-5"ゴールドアロー"は高性能の最新ミサイルだが、本国からの供給が間に合っていない状況だ。
しかし、それとほぼ同じ性能を持つAAM-3のアップグレード版"AAM-3B"を、今回は搭載していた。
画像赤外線シーカーでオフボアサイト交戦能力を得たタイプだ。
「こちらスワロー3、離陸準備完了」
エンジンがパワーを得て、戦う能力を目覚めさせた荒鷲に乗ったユニスは、ヘルメットのバイザーを下げる。
『了解スワロー3、こちらガルシア・タワー、タキシングを許可する。1、2に続き離陸せよ』
「了解」
彼女の目の前を、スワロー1、2の機体がタキシングしていく。
スワロー2はCAPの際、被弾して機体が中破したが、予備機が届いたので予備機での出撃になる。
彼女の番だ、フットブレーキを離し、スロットルの推力を少しだけ増す。
機体がゆっくり前進していき、フットペダルを踏んでステアリングを切る。
キィィィィ……という甲高い音をエプロンに響かせながら、4機のF-15CJが滑走路へとタキシングしていく。
ユニスはこの感覚、離陸前の緊張感を楽しんでいた、まるで遠足を楽しみにしている子供のように。
滑走路端まで到達すると再びステアリングを切り、一旦停止。最初に離陸するのはスワロー1、及び2だ。
『ガルシア・タワー、こちらスワロー・リーダー。離陸準備完了』
『ガルシア・タワーよりスワロー・リーダー。離陸を許可する、上空330から4ノットの風。留意されたし』
『了解、ランウェイイズクリアー。スワロー1、離陸する』
『2、テイクオフ』
彼女のF-15CJイーグルの前に居る2機のイーグルが、膨大な熱を帯びた陽炎を残して滑走路を駆け始める。
離陸後、ユニスの操るイーグルに滑走路進入の許可が出た。
再び彼女の乗るイーグルは進み出し、滑走路へと入る。
『スワロー3、4、離陸を許可する」
「了解、スワロー3、テイクオフ!」
『4、テイクオフ」
スロットルを全開に、排気口がグワッと開き、膨大な推力が鋼鉄の翼を持つ荒鷲を加速させる。
滑走路の凹凸をタイヤが捉える度に機体が小刻みに揺れ、速度が離陸速度を超えると、脚の間から生えている操縦桿を引く。
滑らかな動き、機体が空へと浮き上がるまで、僅か8秒。
フラップを上げ、ギア・アップ。
がこん、とランディング・ギアが機体に格納される音を聞く。
ルート560はガルシア島から海峡を渡り、北へ600kmのところだ。
砦を占拠する敵部隊と、それを守るSAMシステムの攻撃をワイルド・ウィーゼル部隊が担当し、敵部隊の掃討を特殊部隊が行う。そしてスワロー隊はそれまで上空を守る事だ。
そんな重要な作戦であるにも関わらず、ユニスはマスクとヘルメットのバイザーの下の表情を、楽しそうに歪めていた。「空を飛ぶ」事が、本当に好きであるような表情で。
この作戦が、彼女の生死を分ける事になるとしても、彼女は鋼鉄の荒鷲で飛べる事に喜びを感じ、笑っているだろう。




