7章第5話 弾薬庫から回収したもの
森林の至る所で銃声が聞こえる、此方でもシュッ、パシン、と言う弾丸が近くを抜ける音が聞こえて来た。
銃撃戦が始まったのだ。
敵の守備隊が立ち直り本格的な反撃に転じる前に弾薬庫を押さえないと、こちらがの方が被害が大きくなり、支援があっても各個撃破されてしまう恐れがある。
今回の作戦はスピードが命だ、その為に空挺部隊が投入されたのだから。
特殊部隊に次ぐ精鋭部隊、ヘリボーンにエアボーンが可能なヨルジア統合軍の緊急即応部隊の内2つ、その片割れを担うのが彼ら第2空挺旅団である。
アキラ准尉は森の中を進み、坑道を目指していた。
崖にポッカリと空けられた坑道の内部に、テロ組織が保有する膨大な量の弾薬を保管している弾薬庫が存在する。
准尉に任されたのはそのうちの1つの制圧だ。
森林を掻き分けて進むと、坑道へと続く道が見えてきた。
ハンドサインで停止、エンジン音が聞こえて来たのでその場で伏せる。
地面を震わせながら坑道方面から港の方に走っていったのは2K22ツングースカ自走高射砲だ、どうやら航空攻撃に対応する為に集められているらしい。
その後それを支援する車輌が通り過ぎると、周囲は再び静かになり、遠くで撃ち合う銃撃戦の音だけが響く。
「……行くぞ」
分隊8人に静かに声を掛けて進み出す、道に沿ってゆっくりと坑道に近付いて行き、各方向にFN SCAR Mk.16を向けながら警戒する。
SCARにはACOGが乗せられており、RMRと共に近接戦闘にも対応出来るようになっている。
フォアグリップを握り安定させ、敵が射程内に入り次第射撃開始出来る状態を保ったまま坑道の弾薬庫へと向かっていく。
今回投入されたこの作戦は隠密作戦ではなく奇襲作戦だ。
敵に降下したことも既にバレており、防衛線が敷かれるのも時間の問題だろう。ならばその防衛線が完成する前に穴を開け、それをこじ開ける他無い。
「コンタクトフロント!」
「コンタクトフロント!」
早速敵の迎撃だ、PKMとRPK-74の弾幕によるお出迎えである。
敵の射撃に対し、貫通しない様な太い幹の根元に伏せる。敵との距離は170m。
「マークスマンは3人連れて迂回し側面から迎撃部隊を排除しろ!」
「了解!」
被弾しない様に注意を払いつつ、FN SCAR Mk.17にVortex Razor HDを載せた隊員が4人を連れて迂回する。
マルチカムの迷彩服が森に隠れ、ゆっくりと迂回。
アキラ准尉もただ援護を待っているだけでは無い。被弾を避ける為姿勢を低くし、敵を引き付ける為に射撃する。
草や木で見通しが悪いが、銃声の方向と数、そしてマズルフラッシュで敵の位置を特定、5.56mm弾のダブルタップで反撃する。
7.62×54mmR弾が地面を抉り、木の幹に突き刺さる。頭の上から木屑がパラパラと落ちてくるが、この木は耐えてくれるだろうか、耐えてくれる事を願い、狙いを定めて撃ちまくる。
その時、別方向からの銃声の直後、弾幕が薄くなる。迂回した部隊が攻撃を始めたのだ。
SCAR Mk.17から放たれる7.62mmの狙撃が機関銃手を潰していく、敵の防衛ラインに配備された兵士は反撃に出るが、M249paraを持った兵士が側面からの攻撃にパニックになる機関銃手に掃射を浴びせ、キルゾーンの中に相手を閉じ込める。
交戦からわずかに3分で敵の防衛ラインを第2空挺旅団の分隊が突破、坑道の弾薬庫へと迫る。
坑道の入り口はフェンスで囲まれ、正面からでないと出入り出来ない様になっていた。
もちろんと言うべきか、相手はそのフェンスの周囲に土嚢を積み上げPKMとNSV重機関銃を配備している。
ACOGを見ながら敵の位置を確認すると、無線で連絡を入れる。
「空軍機へ、坑道手前に敵の防御拠点がある。無力化出来るか?」
『こちらランサー01、45秒後に進入、機銃掃射で敵を排除する。被害範囲から後退せよ』
「了解」
ここは被害範囲の外だ、心配はない。
約束通り45秒後、ジェットエンジンの轟音が飛来、防御陣地にクラスター爆弾でも命中したのかと思う程の土煙が立ち上る。
"バァァァァン……"と言う機関砲の音が命中後に聞こえるのは、機体の速度と砲弾初速が音速を超えるからである。
F-15EJの機銃掃射の後、アキラ准尉はその隙に正面から敵の防御を突破。坑道入り口のコンクリートが敷かれた場所に積まれたコンテナを盾にし、坑道内からの抵抗を抑え込む。
"バァン!" "キン!"
音速の3倍の弾丸がコンテナの金属の上で跳ね火花を散らして跳弾になるか、貫通弾がコンテナの中で暴れた。
「フラグアウト!」
残った防御陣地の裏へ、隊員の1人がM67手榴弾を投げ込む。
ごつん、とコンクリートの地面にM67破片手榴弾が跳ね、炸裂。無数の金属片と爆風を撒き散らし、辺り一帯を血の海へと変える。
「行くぞ!」
抵抗が止んだ防御陣地を突破し、坑道内部へと侵入。コンテナや放棄された弾薬運搬車を遮蔽物にし、敵の銃弾から身を守る。
「火力班はここの守備に付け!機動班は行くぞ!」
「了解!」
火力班、とした4人の班には、M249paraの射手が2人、Mk.13EGLMをSCARの下に取り付けた射手が2人いる。
その4人の班を敵の増援をブロックする為に、坑道の全面へと配置した。
残りの4人は全員SCAR、1人はMk.17であるが、こちらは機動性に特化している。
アキラ准尉がハンドサイン、「目視確認後、注意して進め」。
目を合わせていた隊員が頷き、次の遮蔽物へと移動を始めた。
その瞬間、足元を熱したフライパンに油を落とすような音を立てて銃弾が弾け、コンクリートが抉れ火花を立てる。
「コンタクトフロント!」
暗い坑道を、取り付けたフラッシュライトで照らしながら進む。
遮蔽物に隠れ、被弾しない様に狙いを定め、引き金を引く。セミオートだ。
引いた引き金の数だけ敵から血が跳ね、バタバタと倒れていく。
コンクリートの床に空薬莢が跳ね、澄んだ金属音を奏でる。
こちらに向けてAKS-74Uを撃ってくる敵に向けて照準を合わせ、ダブルタップ。
ACOGのレティクルの向こうで糸が切れた人形の様に崩れ落ち、こちらへの射撃が止まる。
正面はクリアだ、あとは坑道内部の1つ1つの弾薬貯蔵庫を確認していく、重要物が無いか探す為だ。
例えば貯蔵庫の奥が地下指令室となっており、重要書類があればそれを回収すると言う算段だ。その為部屋の1つにフラッシュバンを投げ入れ、壁際にある砲弾に当たらない様に射撃し制圧していく。
1つの坑道に約30の部屋があり、その内10の部屋は航空爆弾用に用意された部屋だった。
その航空爆弾用の1番奥の部屋の捜索に掛かる。
「フラッシュアウト」
仲間の1人がフラッシュバンを投げ入れ、炸裂。
部屋の中で目を眩ませ耳を塞いだ敵を容赦無く仕留めて行き、部屋の中を掃討する。
「Right side clear!」
「Left side clear」
「Room cle……あ?」
アキラ准尉は、部屋の中の物を見て声を上げる。
壁際に並べられた、白く塗られた航空爆弾。先は尖っており、高高度から落とされたら地中深くまでめり込みそうだ。
「なぁ、これ分かるか……?」
彼は恐怖に慄いた様な表情と声色で部下にそう声を掛けるが、その部下も"それ"を見た瞬間固まった。
「……B61核爆弾、最大核出力340ktの航空核爆弾ですよ……」
B61核爆弾、冷戦の恐怖により人間の手で生み出された、人類の叡智の火であり、悪魔の兵器。
「ラックは5発分あるな……」
「しかし残っているのは2発だけです」
他のところに無いかと探すために視線を上げると、また別の物が目に入った。
B61核爆弾を一回り大きくしたような見た目で、先端は然程鋭くは無い。
「び……B83……」
今度は別の型の核爆弾、B83。最大1200ktの核出力を持つ、B61と並びヤバい代物だ。
ぞわぞわっと一気に鳥肌が駆け巡った、人類の文明を滅ぼしかねない兵器の登場に、しばし現実感を失う4人の空挺兵。
はっとすぐに我に帰ったのはアキラ准尉だった、彼は仲間を集めて矢継ぎ早に指示を出す。
「良いか、報告を上げるが説得力が薄い。これを持ち出せるだけ持ち出して回収する!」
「了解!」
「ジャック!グレイズ!核を集めるんだ!ハマダ、入り口にトーイングカーがあった。一緒に来い!」
「了解!」
アキラ准尉はハマダを連れて無線の通じる入り口へと向かい走る、途中の弾薬庫のドアから敵が出て来たが、邪魔するなとばかりに始末する。
「これだ、ハマダ頼む」
入り口のトーイングカーにハマダを乗せ、彼はトーイングカーを運転して奥へと走っていった。
「隊長!」
入り口を守っていた班に合流し、状況を説明する。
「奥で核爆弾を見つけた、幾つか回収して戻る!それまでここを守ってくれ!」
「了解!」
「来たぞ!」
1人が叫び、射撃を開始する。
M249paraが火を噴き、敵に向かって5.56mmNATO弾の雨を降らせていく。
「こちら1-4、LZⅡの坑道にて大量破壊兵器を発見した!回収する為援護が必要だ!どうぞ!」
『大量破壊兵器だと!?……了解した、こちらは河川港を確保、そちらに部隊を回す』
「了解!接近の際は必ず合図せよ!良いか味方が来る!それまでここを守れ!味方を撃つなよ!」
「了解!」
入り口を守る味方にそう指示を出すと、射撃を再開。アキラ准尉はそれを伝えると再び坑道に入り、核兵器の確保に向かう。
その部屋で、隊員たちは核兵器をラックに積み込んでいた。
「ダメです准尉!2発ずつが限界です!」
「……仕方ない、残りは置いていく!」
「書類を!」
「全部攫え!回収だ!」
坑道入り口から銃声が絶え間なく響く中、核兵器と書類を回収していく。
中にあったバッグに書類を詰め込み、核兵器をラックに乗せ、そのラックをトーイングカーに繋ぐ。
「準備はいいか!?」
「行けます!」
「よし行くぞ!」
弾薬庫から坑道に出て行く、ジャックがトーイングカーを運転し、坑道入り口に向かう。
入り口ではまだ戦闘が続いているが、敵の抵抗も少なくなっている様だ。
『こちら第2小隊、そちらの右手から敵を攻撃しつつ侵入する。誤射に注意』
「了解!味方が来る!気を付けろ!」
坑道の中から外に向けて射撃、敵を追い立てるが、その敵も別の銃弾に捉えられ倒れて行く。
右側の林からマルチカム迷彩とSCARを構えた味方部隊が坑道の分隊と合流した。
「アキラ准尉、良くやった!大量破壊兵器は!?」
「アレです!」
アキラ准尉はトーイングカーを指差す、小隊長はそれに駆け寄り現物を確認。
「……確かにな、これを回収する。援護するから運転しろ」
「了解、ジャック頼む」
「了解しました!」
「行くぞ!」
30人程の空挺隊員の援護を受け、トーイングカーを坑道から出て河川港へと向かわせ走らせる。
4発の核爆弾を乗せたラックを引きながら、空挺隊員が走って追いつける速度でトーイングカーを進ませる。
河川港までは500mほど、破壊された2K22ツングースカ自走対空砲の残骸の脇を通り過ぎ、河川港へと到着すると、丁度回収のMH-47Gが河川港に着陸するところだった。
ダウンウォッシュを吹き下ろしながらハッチを開けて着陸するMH-47Gが4機、小隊ごとにヘリに乗り込む。
上空ではOA-10やF-15EJが旋回し、機銃掃射で敵を遠ざけて援護していた。
「核兵器を奥へ!敵がまだ来るぞ!」
隊員が乗り込み、ラックに乗せた核兵器をヘリへと引き上げて運び込む。
「くっそぉぉ……!」
核兵器はかなりの重量があり、持ち上げるのも一苦労だった。
4発の核兵器を乗せ終えるまで、10分もかかってしまう。
「急げ急げ!」
B83核爆弾を8人がかりでようやくラックごとヘリに乗せ、ワイヤーで固定する。
「よし、乗せたぞ!全員乗れ!」
小隊長の号令と共に全員がMH-47Gに乗り込む。
アキラ准尉も全員乗った事を確認すると、それを小隊長がパイロットに伝える。
MH-47Gのタービン音が少しずつ大きくなって行く。
ヘリはゆっくりと浮上し、谷にある弾薬庫から抜け出した。
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『こちらエターナル、離脱した空挺部隊より、坑道内で核兵器が確認された』
『こちらランサー01、核兵器だと!?』
『その通りだ、作戦を第3段階へ移行、直ちに坑道を爆撃し、封鎖せよ』
『……了解』
上空を飛ぶ4機のF-15EJ、"ランサー隊"に、E-767からの命令が伝えられる。
F-15EJのパイロットは息を飲んだ、まさかこんな所に核兵器を隠し持っているとは、思いもしなかったのだ。
『了解、ターゲットをマークしてくれ、ランサー01、LZⅡの坑道を爆撃する』
『ランサー02、LZⅠの坑道を爆撃します』
ランサー03と04もそれぞれLZⅢとLZⅣの坑道に爆撃に向かい、上空ではばらける。
パイロットは操縦桿を握り、機体を操って爆撃コースにF-15EJを乗せる。
『ターゲット・マーク』
『Roger. Drop ready……Bombs away』
兵装システム士官がスナイパーXR目標指示ポッドでレーザーを照射、それを確認したパイロットが兵装選択スイッチで爆撃兵装を選び、操縦桿のスイッチを押した。
胴体下に取り付けられたGBU-28バンカーバスターが、ハードポイントから切り離されて尾部の安定翼を広げる。
レーザーシーカーはF-15EJから照射されるレーザーを捉え、誘導翼を動かして目標へと向かわせた。
5000ポンドもの重量級爆弾は重力に捉えられて加速していき……命中。
坑道となるトンネルの上部に命中、炸裂した爆発のエネルギーは坑道内部にも達し、坑道の天板を崩落させた。
落盤を起こした坑道の更に同じ場所に、残りの全てのEGBU-12を叩き込んでいく。
全弾を投下した後、残っていたのは岩盤に潰された坑道の残骸だけだった。
『Complete mission. RTB』
残骸を尻目に、F-15EJとOA-10は帰路についた。
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回収した核弾頭及び、レンジャーが差し押さえた航空機はガルシア島飛行場を経由して本国へと回収、書類の検分も含め解析が行われ、テロ組織のターゲットや目的の洗い出しに入る。
弾薬庫と兵器製造施設を押さえられたテロ組織"ドラグーン帝国"は、継戦能力を喪う事になった。




