1章第7話 撤退戦
========="やくも"CIC=========
「……了解した」
CICに下りて来て居た艦隊司令がその回線を聞き、艦隊全艦へ命令を下す。
「…全艦、抜錨!」
「アイサー!」
命令と共に揚錨機を動かし、抜錨する。
「"やくも"抜錨!」
その報告に、他の艦も続く。
「"ノア"抜錨完了!」
「"いなば"抜錨!」
今、生きて帰るにはこの湾を離脱する他無い。
司令が離脱を命じた。
「全艦、主機起動!最大戦速!面舵一杯!」
"やくも"以下3隻は"あかつき"の元へ急行し、その間に陣形を整える。
===========================
"やくも"以下3隻は水上戦闘群からの対艦ミサイルを迎撃した"あかつき"と合流後、"やくも"を先頭にした右先梯形陣をとり、最大戦速で離脱しようとするが、この先には水上戦闘群が網を張っている。
この距離でミサイルを撃たないという事は恐らく、湾口を封鎖して鹵獲する算段だろう、それならあちらさんの思惑に乗るわけにはいかない。
レーダー警報、射撃指揮レーダーを照射されているようだ。その直後、水上戦闘群からの砲撃があった、AK-130 130mm連装速射砲を撃って来たのだ。
飛んできた砲弾が艦橋をシュッ!と掠め、後方の海面に着弾、水柱を上げる。
「水上戦闘用意!」
司令が指示を出す。
「"やくも"の力、思い知れ…!」
武装甲板上にある2つの台形のブロックが割れ、中から砲身が飛び出し水上戦闘群に向けられる。
62口径155mm単装砲AGS、艦のステルス性を高める為、縦長の台形をしたステルス・シールドに砲身が格納されていて、オーレアシア海軍のズムウォルト級ミサイル駆逐艦に搭載されているものと同型のものだ。
今回の目的は戦闘では無い為、ERGMやMPHRPは搭載されず通常弾だけだが、それでも50km近い射程を誇る。
狙うのは大火力を持つガランド級巡洋艦だ。
「トラックNo.1242、主砲1番2番、撃ちー方始め!」
「撃ちー方始め!」
主砲管制のCIC員がデスクの上の操縦桿を操作し、発砲した。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!毎分20発で155mm榴弾がAGSから吐き出される。
命中した砲弾が、パッ、パッ、パッと巡洋艦で光る。
最初の砲撃で偶然ながら巡洋艦の射撃指揮装置を破壊したのが効いたのか、至近弾はあるものの今の所命中弾は無い。
しかし、このまま行けば命中弾必至だ。
どうする……何か方法は……
===========================
"いなば"の艦長も同じ事を考えていた。
と、艦長は閃いた顔をし"やくも"へ電文を打つ。
「やくもへ打電、『発、"いなば"艦長。本艦ハコレヨリ艦隊ヲ離脱シ、T・Aヲ行ツタ後、再ビ合流ス 宛、"やくも"司令』2回繰り返せ。」
「はっ!」
CIC員が電文を打ち、返信を待つ
「やくもより返電、『発、"やくも"司令。死ヌ気カ?宛、"いなば"艦長』」
艦長はふっ、と頬を緩め、返電を言う。
「『我ニ死ヌ気ナシ』送り返せ。」
その後司令から「健闘を祈る」という返電を受け、微笑む。
「面舵一杯、最大戦速!」
「アイサー!面舵いっぱーい!」
「最大戦速!」
===========================
"いなば"が艦隊を離脱し、面舵を取る。その抜けた穴に"あかつき"が入った。
それにしても何をする気だ…?とやくもの司令が声に出さず呟く。
T・A……思い当たる節は無いな……
「それにしても、早々にバルナウル級を黙らせねばおちおち航空機も出せん…」
"ノア"が砲撃を続けて居るバルナウル級に目を向ける。
バルナウル級はグルーバキア海軍の新鋭艦で、高い個艦/僚艦防空能力を持つ。
現在、"あかつき"と"ノア"の集中砲撃でハガンダ級を中破に追い込んで居るが、バルナウル級が居るせいで航空機による効率の良い攻撃が出来ないのだ。
敵も航空機を持って居ないのか、航空攻撃は無い、しかしこちらには攻撃機が居るのにその火力を生かせずにいた。
「何とかしてバルナウル級を……っ!」
その時、バルナウル級駆逐艦が艦中央部からへし折れ、爆沈した。
「よぉっし!」思わず歓声が漏れる
"いなば"のT・Aとはそういう事だったのか……
===========================
艦橋から"やくも"が見えなくなる位まで離れると"いなば"は面舵をとる。
「VLA1番、対水上調整始め、バルナウル級を跳び越えるコースで撃て。それから同じく対水上調整した短魚雷を左弦発射管に装填、雷撃用意!」
このT・A、すなわち魚雷攻撃(Torpedo Attack)でバルナウル級を攻撃し、航空攻撃を行いやすくする目的があった。
数分して、魚雷の調整と装填が完了したという報告が上がる。
砲雷長が水雷長に指示を出す。
「後部水雷要員退避、発射管の旋回と発射はCICにて行う。VLA解放と共に魚雷を発射する、タイミング合わせろよ」
「了解!」
「機関最大戦速!」
艦長も攻撃の為、艦の速力上げを指示した。
「左舷ウイングよりCIC、バルナウル級視認、距離10000!」
見張り員の報告を受けたCICでは、既に発射待ちの状態だった。
「よし!後部魚雷格納庫解放、旋回始め、VLA1番解放、発射始め!」
カゴン!と前甲板VLSの蓋が開き、VLA(VL-Asrock対潜魚雷)がバルナウル級へ向かって飛んで行く。
「左発射管、91式短魚雷、撃て!」
水雷員が発射ボタンを押し、俵状に積まれた3連装短魚雷発射管から、パシュッと圧縮空気によって1発の91式短魚雷が発射された。
短魚雷が着水したと同時にVLAはバルナウル級を跳び越えてブースターを切り離し、魚雷がパラシュートで降下し始めた。丁度挟み撃ちの要領でバルナウル級に突撃して行くが、1発は機銃による弾幕で迎撃され、大きな水柱が立つ。
しかし、反対側から来るVLA魚雷に対して反応が遅れ、回避機動も迎撃も虚しくバルナウル級に直撃………………では無く数m真下で爆発しバブルジェットを引き起こす。
バブルジェットの圧力によって機関からドス黒い煙を吹き上げて艦体が少しジャンプすると、艦底から突き上げる様に水柱が上がった。
バブルジェットは縦に大きく揺さぶり、竜骨を一撃でへし折りそのまま艦体を真っ二つに引き裂いて撃沈した。
「バルナウル級撃沈!」
魚雷による撃沈報告にCICが歓声に包まれたが、良い事はあまり続かない。
ドガァァァン!
轟音と衝撃がCICを襲った。
「くっ、何があった!」
「対艦ミサイル被弾!被弾しました!」
痺れを切らしたガランド級巡洋艦が対艦ミサイルを発射。距離が近かった為迎撃が間に合わず、マストに直撃した。
艦橋に直撃しなかっただけ良かったものの、マスト全壊で航海レーダーとLINK16アンテナが全損、ESM/ECMとMk.99イルミネータレーダー、FCS-2が破損し、イージス艦の目とも言えるAN/SPY-1Dレーダーが故障、衝撃で艦橋の窓ガラスが全て割れ負傷者も多数出る結果になった。
「被害報告!」
艦長が叫ぶ、情報が集まるCICで様々な報告が飛び交う。
「負傷者38名、うち重症者12、意識不明4!」
「マスト全損!崩壊しました!」
「艦橋にて小規模火災発生!」
「現時点で死者0!」
死者が出ていない事に艦長はホッとする。
「消火作業続けろ、艦隊へ戻るぞ、取り舵20」
「とーりかーじ!」
魚雷戦のシーンは大目に見てください(笑)