6章第10話 敵砲兵殲滅
「ミリヲタ」では今年最後と言ったな、アレは嘘だ。
と言う事で、「ミリヲタ」は今年最後の更新を先週終えましたが、「現代戦」が仕上がったので更新です。
ではでは、お楽しみ下さい。
固定翼モードで巡航する2機のMV-22B。
機内で待機しているのは、合計16人の海兵隊武装偵察隊の隊員だ。
海兵師団直属の部隊となるこのフォース・リーコンは、空挺や上陸作戦等の特殊作戦を遂行する能力を持つ部隊であるが、彼らの主任務は威力偵察であり、海兵隊は"特殊部隊"とは認めていない。
その為、陸軍特殊部隊"シルバー・アローズ"や第3レンジャー連隊、海軍特殊部隊"オルカ"、空軍特殊部隊PJ及びCCTの様にヨルジア特殊作戦軍の管轄下には入っておらず、海軍海兵隊が直接指揮を執る。
しかし、彼らが厳しい訓練の末に選ばれたエリートである事には変わりは無いのだ。
上陸前の先行偵察や敵地における威力偵察等の本来の任務の他にも、射撃や爆破、近接戦闘にも長けている為、油田や艦船への奇襲、人質救出、敵陣地破壊等の攻撃的な任務も可能。
戦闘能力や練度では、海軍特殊部隊"オルカ"にも引けを取らないのだ。
更にはフォース・リーコンの隊員には、艦砲射撃や戦闘機、攻撃機、爆撃機による各種支援攻撃を要請する権限までも与えられており、あらゆる状況に対応出来る運用上の柔軟性を持つ。
そして作戦によっては、あらゆる部隊に先んじて敵との戦端を開く事もあるのだ。
MV-22Bオスプレイに乗っているのは、第1海兵師団武装偵察中隊第1小隊。
MARPAT FROGデザート迷彩を身を包み、第2分隊の分隊員として2番機に乗り込み、敵地到着を待っているのはオスカー・オーレッド軍曹だ。
任務は、敵の砲兵前線観測手を襲撃、制圧する事。
ロケット砲陣地を潰してロケット弾攻撃は無くなったが、敵砲兵前線観測手がいる限りは車輌が再び配置に着けば攻撃は再開されるし、ICBM基地を占拠した海兵隊が危険に晒される。
現在進行形で敵の砲撃精度が向上しているのだ、のんびりとしている時間的余裕は無い。
M4A1に乗せられたEOTech EXPS3ホロサイトとG33 Magnifireブースターの具合を確かめておき、OPS-CORE ACHヘルメットを被りなおす。
到着まで2分、とコックピットのパイロットから声がかかる。
STANAGマガジンの尻を軽く叩き、M4にマガジンを差し込む。
チャージングハンドルを引いて離し、初弾を装填。
セカンダリ・ウェポンのコルトM45A1にも初弾を装填して安全装置を掛けておく。
己の気持ちを戦闘に向ける、俺の仕事は敵を排除する事だと再認識させる。
エンジンナセルの角度は少しずつ直角に立ち上がっていき、戦闘地域に近づいている事を嫌でも自覚させられるが、それを踏み台に気持ちを昂ぶらせる。
「いいか!敵砲兵前線観測手を撃滅するのが俺達の任務だ!全員の手腕に海兵の命がかかっている!全力で当たれ!」
「「「Sir!Yes sir!」」」
腹から声を出す。
後部ハッチと機体下部のハッチがゆっくりと開いて行く。
ハッチの向こうには、もう1機のMV-22Bオスプレイが同じ様にヘリコプターモードに移行している。
2機は完全にホバリングし始めた。
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砲撃していた自走砲の前線観測支援についていた。
だが、班長の言葉で全員の動きが止まる。
「お、おい!何か聞こえる!」
明らかに味方の砲撃や着弾の音ではない。
連続した爆音……ヘリの音だ。
「観測ヘリか?」
「観測ヘリは持って来て無いぞ!」
まさか……と思い、周囲を見回す。
空の1点に違和感を感じる。
「……マズい、敵ヘリ部隊だ!」
「砲兵隊聞こえるか!こちら前線観測!敵ヘリ部隊の襲撃だ!砲撃中止!」
班長が無線にそう叫ぶ。
すると、無線の向こうで怒鳴り返す声が聞こえた。
『こちら砲兵大隊!こちらも敵部隊の襲撃を______』
『大隊指揮官戦死!以降副官が指揮を執ります!敵の地上部隊多数!至急支援を要請する!』
向こう側も大パニックになっている。
「くそっ!イグラを出せ!撃ち落としてやる!」
班長は対空ミサイル射手に声をかけ、かけられた歩兵は9K38イグラをコンテナから出す。
見えた、あの形は……オスプレイと呼ばれるティルトローター機だ。
既にホバリングに以降し、ハッチを解放している。
9K38イグラを構えた兵士が______糸が切れた様に崩れる。
よく見るとオスプレイのハッチから狙撃手が銃を構えており、イグラの射手を狙っていた。
反射的に転がったイグラに手を伸ばすが、照準機を狙撃されて破壊された。
そのオスプレイの3本のロープが垂らされる。機体後部のハッチから1本、機体下部のハッチから1本だ。
そのロープを伝い、スルスルと敵が降りてくる。
陣地の南側と北側にロープを下ろした2機のオスプレイ、南側は侵攻が速く、既に掃討が始まっている。
北側のオスプレイの敵も、ロープを伝って戦闘態勢を取るが、それが信じられない程早い。
俺は素早く自分のAKS74Uに手を伸ばし、窪地に身を隠した。
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ロープを伝い、ヘリボーン降下。
素早く俺は自分のM4を持つ。
ブースターは倒されており、ホロサイトを覗くと倍率の無いレンズにレティクルが浮かんでいる。
AKS74Uをこちらに向けた敵兵にM4を向け、引き金を引く。
フローラ迷彩の敵兵士から血が跳ね、その場に倒れる。
躊躇うこと無く敵兵を射殺して行き、可能な隠れ場所を見つける。
地面から突き出ている岩の陰に身を隠すと、窪地になっている場所から銃撃され、岩に当たって弾ける音を立てる。
他の仲間は太い木の幹等に身を隠した。
敵の射撃の間を縫って岩を遮蔽物にしてM4を構え、セミオートで射撃する。
このままでは埒があかない。
その時、ACHの下に付けている
COMTAC M3ヘッドセットから無線が入る。
『こちら2-1、南側の敵部隊掃討完了。そちらに合流する』
南側に展開していた1番機から降下した部隊が分断したあちら側の掃討を終えた様だ。
その通信を聞きながら、俺はM4の引き金を引く。
銃声と共に反動、そして弾丸が銃口から飛び出し、音速の3倍という速度で敵に襲い掛かる。
しかし敵も上手く隠れ、弾丸は手前の地面を抉って土煙を上げる。
このまま弾薬を無駄に浪費するだけで終わるかと思ったその時、通信していた1-1が窪地に伏せている敵部隊へと襲い掛かった。
断続的に射撃を加えるM249MINIMI PIPに加え、Mk13 EGLMが発射した40mmグレネードに敵は堪らず窪地から這い出る。
敵の射撃がそちらに向き、窪地から這い出た瞬間に1-2の8人もそれぞれの遮蔽物から一斉に出る。
俺も躊躇い無く引き金を引き、混乱する敵を射殺していく。
降下から数分で、敵の砲兵前線観測部隊を壊滅に追い込んだ。
フォース・リーコン隊員はそのままその場所に観測所を構築する。
敵部隊の動向を把握する為だ。
「こちら2-1、観測所の設置完了」
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「見えたぞ!」
スコーピオ1-1、第2機甲中隊第1小隊の小隊長がそう叫ぶ。
敵の自走砲部隊を攻撃する別働隊の編成は、M1A2SEP V2 エイブラムス 8輌と、M2A3 ブラッドレー 8輌である。
「ヴォル!HEAT-MP装填!以降別命あるまで同じ!」
「イエス・サー」
装填手のエルトムント・ヴォルはバスル式弾薬庫からHEAT-MPを取り出し、装填。次弾を素早く装填出来る様にスタンバイする。
「全員聞け!一気に突入してカタを付ける!砲弾の誘爆に巻き込まれない様に注意!」
『ロックハート、了解!』
『タイガー、了解』
各車から返事が返ってくるのがヘッドセットから聞こえる。
そして戦車隊は前進し続け______敵砲兵部隊が戦車砲の射程に入る。
「各車発砲許可!」
『撃て!』
『撃て!』
発砲許可が出た途端、前進しながら戦車各車両が発砲する。
HEAT弾は信管の関係で弾頭が平な為、空気抵抗で精密な射撃には向かない。
しかし、ヨルジア海軍海兵隊の機甲部隊は、そんな誤差はものともしない。
初弾のHEAT-MPは見事敵の自走砲に命中、弾薬庫付近に命中し、蒸発した流体金属が砲弾を蒸発させ、自走砲は砲塔ごと派手に爆発した。
次弾を発射したのはスコーピオ1-1、ヴォルの乗るエイブラムスだ。
スコーピオ1-1の放ったHEAT-MPは、こちらに背を向けて逃げる2S19ムスタ自走榴弾砲の背面装甲を"化学的に"突き破り、再び砲塔をぶっ飛ばした。
あの様子じゃ乗員は助からない。
砲兵が展開していた陣地に突撃し、後続のM2A3ブラッドレーが歩兵を降車させて陣地の掃討を行っていく。
逃走しようとするトラックや装甲車を25mmチェーンガンで射撃、HE弾が装填されていたのでトラックに命中すれば破壊と共に炎上するし、装甲車も燃料タンクに命中すれば燃え上がる。
BTR-80とM2A3ブラッドレーが直接戦闘を行っていたが、M2A3ブラッドレーは素早くHE弾から対装甲車用のAPDS弾に切り替え射撃、BTR-80は装甲を撃ち抜かれて力尽きた。
「よぉし!このまま畳み掛け……ぅわっ!」
身を乗り出していた車長が思わず首を竦めた。
理由はすぐ脇をすり抜けていった対戦車ミサイルである。
発射された方向は後ろ、味方のいる方向だ。
そちらでは、1輌のM2A3ブラッドレーがこちらに砲塔を向けていた。
敵のムスタ自走榴弾砲を狙ってM2A3ブラッドレーが発射したTOW2B対戦車ミサイルが、エイブラムスの脇をすり抜けていったわけである。
「おぉい……タイガー、気を付けてくれよ⁉︎」
『スコーピオ1-1、すまねえ、危ないところだった』
「ったく……気を付けろ」
『了解』
発射した対戦車ミサイルは無事、狙っていた自走砲を吹き飛ばした様だ。
このくらいになると、逃げる自走砲も速度を上げて振り切ろうとしているし、護衛についていたBMP-2もこちらに発砲しながら後退していく。
「逃がすか!ヴォル!次弾はAPFSDS!」
「了解!」
ヴォルは素早く弾薬庫からAPFSDSを取り出す。
現在薬室にはHEAT-MPが入っている為、その後だ。
ドッ!
砲撃の音が車内まで響き、砲身が後退。HEAT-MPの砲弾は弾道を描きながら飛んでいき、BMP-2を機能停止に追い込む。
同時に車内では焼尽薬莢と金属で出来た底部が薬莢受けに落ち、ヴォルは狭い車内で閉鎖機解放弁を蹴って閉鎖機を解放、そのまま信じられないスピードで抱えていたAPFSDSを薬室に叩き込んで閉鎖機を作動させた。
スコーピオ1-1が狙うのは最後の2S19ムスタ自走榴弾砲。
「撃て!」
車長が砲手に命じ、砲手がそれを受けて引き金を引く。
ドッ!
発射されたAPFSDSは、砲口から飛び出た瞬間に空気圧を受けて装弾筒を空中で分離させる。
そしてダーツの矢の様な砲弾は見事、音速の4倍程の速度でムスタ自走榴弾砲のケツに突き刺さった。
内部まで届いたAPFSDSの弾芯は中で大暴れし、砲弾を誘爆させる。
命中から1拍置いて、自走榴弾砲の巨体は爆散した。
「現代戦」の更新も本当にこれが今年で最後です。
また来年も中井 修平と「別世界の現代戦」をよろしくお願い致します!




