6章第6話 海軍航空隊の交戦
『ナーヴァル・ヘッドより海軍航空隊各機へ、敵性航空機及び地上部隊が、特殊部隊及び艦艇の攻撃に向かっている』
"ずいかく"艦載機の早期警戒機であるE-2Dから通信が入る。
どうやら敵もこの動きに気付いている様だ。
敵は核兵器の再起動の為に部隊を送り込んでくるだろう。
海軍は海兵隊をその前に上陸させ、このICBM発射基地を占領する必要がある。
現在グルーバキア領空、サラベス海上4000ftを600ktで飛行中。
甲高いターボジェットエンジンの音が空を裂き、音速近い速度で24機の戦闘機が飛んでいく。
先頭を切るのは、最新鋭ステルス艦上戦闘機のF-35C。
それに続くのは、空対空戦闘を想定して装備を固めたF/A-18Eだ。
スズネ中尉達の爆装F/A-18Fはその後方で周囲に守って貰い目標に爆弾とミサイルを叩き込むのが仕事だ。
『ナーヴァル・ヘッドより各機へ、敵機がICBM基地及び洋上の艦隊へと向かっている、空母艦載機がスクランブル発進の準備中だ、至急対処されたし』
『Roger。ナーヴァル・ヘッド、データを』
『了解、全機、レーダーをデータリンクする』
多目的ディスプレイに早期警戒機からのデータが送られてくる。
敵機はどうやら、正面から海軍航空隊に戦力をぶつけ、その間に攻撃隊を迂回させる腹積りらしい。
しかし、そうはさせん。
『スラッガー・リーダーよりナーヴァル・ヘッドへ、スラッガー5から8を敵攻撃隊を攻撃させる』
『ラフライダー・リーダーよりナーヴァル・ヘッドへ、ラフライダー1-5から1-8を同じく敵攻撃隊の攻撃へ向かわせる』
『了解スラッガー・リーダー、ラフライダー・リーダー。許可する』
スラッガー、ラフライダーの各隊リーダーがそう言うと、F-35CとF/A-18Eが4機ずつ、エルロンを切ってエレベータを効かせ、敵攻撃隊へと転針する。
残る16機はそのままICBM発射基地へと向かっている。
そして、敵の迎撃航空戦力も、こちらに向かっている。
『こちらスラッガー・リーダー。全機へ、開口レーダーのスキャンの結果が出た。データリンクを通して全機へ転送する』
そう聞こえて間も無く、データリンクが送られ多目的ディスプレイに映し出される。
解析結果、MiG-29が12機、MiG-31が8機と出た。
『ナーヴァル・ヘッドより海軍全機へ、交戦を許可する。繰り返す、交戦を許可する』
『了解、交戦許可確認。ラフライダー・リーダーへ、こちらスラッガー・リーダー。MiG-31を頼みたい、こちらはMiG-29を引き受ける』
『ラフライダー・リーダー、了解』
そう言うと、8機のF-35Cはアフターバーナーに点火し、加速していく。
F/A-18Eの4機もアフターバーナーを焚き、上昇していった。
『スラッガー1よりスラッガー全機へ。レーダースタンバイ、AMRAAM発射準備』
『了解』
『了解』
加速するF-35CがBVRミサイルの発射準備に入る。
敵機との距離はまだ80nm(約150km)、恐らくステルス機のF-35Cは敵のレーダーには写っていない。
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その代わり、敵側のレーダーにはMiG-31迎撃に向かうF/A-18Eと爆装したF/A-18Fはバッチリ写っている事だろう。
数の有利を確信したのか、MiG-31はR-37をF/A-18E/Fの編隊に対して連続発射する。
コックピットの中をミサイルをロックされていると知らせる警報がけたたましく鳴り響く。
射程が200km以上あるこのミサイルは、正確にF/A-18E/Fの編隊にM6という高速で襲い掛かってくる。
それに対して、ミサイルキャリアーの如く大量のAIM-120D AMRAAMを搭載したF/A-18Eを2発ずつ発射する。
『こちらダークサイド・リーダー、Music start』
『スラッガー・リーダー、Music start』
同時に電子攻撃機のEA-18Gと、AESAレーダーを装備するF-35CがECMによる電子妨害支援を開始する。
途端に敵機や敵ミサイルのレーダー周波数に妨害によるノイズが入り、5発から6発のミサイルが目標を見失いあらぬ方向へと飛び去って行き、味方のミサイルを巻き込んで爆発したりする。
レーダーに写っている全機がチャフを射出し、レーダー誘導のミサイルに対する囮とする。
まずはF/A-18Eが交戦に入った。
発射したAIM-120D AMRAAMは発射されたR-37を迎撃、R-37の大きな弾体が仇となり、大半が空中で消滅する。
迎撃を回避した分も、チャフ、ECM、急激な回避運動により回避されてしまう。
F/A-18Eは更にAMRAAMの発射準備に入る。
ディスプレイに映し出されている目標に"マーク"
『ラフライダー1-1、FOX3!』
そうコールし、操縦桿のボタンを押す。
両翼から1発ずつのAIM-120D AMRAAMがロケットモーターの力で飛び出し、M4で大空を駆け巡る。
敵もチャフを射出し、回避機動を取るが、MiG-31は迎撃戦闘機故に格闘戦能力は低いと言わざるを得ない。
AIM-120Dは自らのレーダーで敵機を捕捉すると、発射母機の誘導を必要としない。
その上、命中寸前に残っていたロケット燃料を全て燃やして失ったエネルギーを回復させ、超機動で命中率を上げる"覚醒"という機能を備えている。
AMRAAMの命中精度が高いのはその為だ。
発射したAMRAAMは半分の4発が命中、4機のMig-31を粉砕した。
残り4機は編隊を組み直し、こちらに向かって来る。
F/A-18Eに乗る大尉は酸素マスクの下で笑みを浮かべる。
それが死ぬかもしれないスリルからなのか、敵を落とすのが楽しいのか、敵と手合わせが出来ると言う期待からなのか、それは彼にしかわからない。
編隊を構成する僚機達に指示を出し、アフターバーナーを使って全速で接近する。
M1.5まで加速したところでアフターバーナーをカットし、ミリタリー推力へ。
相手は自機が格闘戦が不利なのを知ってか知らずか、そのまま進行してくる。
『ラフライダー1-1、交戦!』
距離を詰め_______すれ違う。
高度はあちらが上、相手はスプリットSで高度を速度に変え、背後に着こうとする。
ラフライダー1-1のパイロットは、緩やかに上昇しつつ鋭く左に旋回、それに気付いたMiG-31も機体を少し傾けて追従してくる。
エンジンのパワーによる加速と速度は相手が上。
しかし、こちらは格闘戦も想定した多用途戦闘機なのだ。
パイロットはコックピットの両脚の間から生えた操縦桿を強く引き、スロットルにあるエアブレーキスイッチを弄り背面のエアブレーキをほんの一瞬だけ展開、高度を取ったF/A-18Eは内側に更に鋭く切り込むように旋回させ、追っていたMiG-31を引き剥がして背後に着いた。
MiG-31はアフターバーナーに点火、自慢の加速で振り切ろうという腹積もりか、そうはさせん。
兵装選択スイッチでAAM-3を呼び出す、国産の高性能なミサイルは直ぐに応えた。
ヘッドアップディスプレイ(HUD)にサークルと呼ばれる円形の表示とコンテナと呼ばれる四角い表示が現れる。
コンテナはHUDの中でも敵機を追い、サークルはHUDの中心で命令を待っている。
FCSスタンバイ
ミサイルをロックする時のピープ音が鳴り、サークルの中に収まる様に敵機を追い、操縦桿を捻る。
激しく機動する敵をようやくキャッチし、2秒。
ミサイルのシーカーが目標を完全に捉え、ロックオン完了を知らせる音に切り替わる。
『FOX2!』
操縦桿のミサイル発射ボタンを親指で押した。
その瞬間に、翼端のレールランチャーに装備されていたAAM-3短距離空対空ミサイルが放たれた。
ミサイルは白い煙を曳いて獲物に喰らいつく。
MiG-31は大柄の機体を左に大きくターンさせるが、AAM-3は切り欠きの入ったカナード翼を動かしてAIM-9L/Mよりも優れた機動性で敵機を追跡する。
煙がハートの片割れの様な模様を描き______最終的にM2.5まで到達したミサイルはMiG-31の機体を爆散させた。
『ラフライダー1-1、スプラッシュ・ワン!』
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遥か上空から襲いかかる脅威を排除している頃、別動隊にも動きがあった。
迂回して艦隊の攻撃に向かっていた戦闘機______Su-24と護衛のSu-27で構成された敵攻撃部隊を殲滅したのだ。
そして、こちらもこちらだ。
『ヘッドオン!スラッガー1、FOX3!』
F-35Cの兵装庫が開き、2発のAIM-120Dが発射される。
レーダーに写っていない場所からの突然のミサイル攻撃に困惑したのか、12機のMiG-29の編隊が大混乱に陥った。
そしてその直前に始まったEA-18GとF-35CのAESAレーダーによる電子妨害によって、敵のレーダーの精度は落ち、敵のパニックを誘った。
敵はミサイルをこちらに撃ってくる間もなく回避機動に精一杯で、反撃を受ける間もなく8機のMiG-29が撃墜された。
残りのMiG-29に、こちらに格闘戦を挑んで来る猛者が居た。
2機のMiG-29が引き返して行くのに対して、もう2機のMiG-29がこちらに向かって突進して来る。
正々堂々、ドッグファイトで勝負しようってか⁉︎面白い……!
『スラッガー1より全機へ、この2機は引き受けた。スラッガー2、一緒に来い』
空対空ミサイルの発達した今、先に見つけ、先に撃ち、先に撃墜する事が主流になり、空戦は変わってしまった。
そんな中、ドッグファイトでケリをつけようと言う"彼ら"の勇敢さは、敬意を持って受け入れられるべきだと思う。
もう既に、"彼ら"のレーダーにも映る距離まで接近している。
『スラッガー1、交戦!』
すれ違った瞬間、エンジン推力を上げ、左のラダーペダルを踏み込みつつ右へ旋回。
戦闘機の操縦桿は右手で操作する様に出来ている為、急激な旋回であれば操縦桿を左に倒す左旋回が好まれるが、スラッガー1のパイロットは右へと旋回して相手の動揺を狙う。
しかし、敵もバカでは無い。
そんな事に動揺する暇もなく、追尾する為にインメルマンターンを決めて来る。
MiG-29が完全に背面になった時、F-35Cも回頭が終わり攻撃を仕掛けるところだった。
MiG-29は背面をこちらに向け、急旋回してくる。
F-35はとでも優れたセンサーを搭載している為、敵機が正面に居ずとも……敵が背後に居ようが真下に居ようが関係なくミサイルを発射し撃墜出来るが、そんな事をしてはツマラナイ。
ドッグファイトとは敵と背後を取り合い、死闘の末に勝負をもぎ取る物なのだ。
単発だが凄まじいエンジン推力を誇るP&W F135エンジンが吼え、F-16と同様の高い機動性を誇る機体が振り回す。
MiG-29もそれに負けないパワーを持つクリーモフRD-33エンジンを唸らせて、推力偏向ノズルを駆使しトリッキーな機動を繰り出す。
MiG-29はプガチョフ・コブラで背後に着き、GSh-301 30mm機関砲を撃ってくる。
F-35Cのパイロットは左に旋回してそれを躱す。
エアブレーキ展開、垂直尾翼が内側へと傾いてその役割を果たし、一瞬だけ減速。
感圧式操縦桿を引いて右へ少し傾け、左のラダーペダルを踏み込む。
機体が機首上げを起こした瞬間、アフターバーナーに火を入れて推力を取り戻し、左回りにバレルロール。
FCSスタンバイ、機関砲に切り替える。
HUDの無いコックピットの中で、HMDのバイザーに機関砲の照準線が表示されている。
『ガンズガンズガンズ!』
機体下部のGAU-22/A内蔵のガンポッドから、25mm機関砲弾が恐ろしい速度で撃ち出される。
砲弾はMiG-29のエンジンを噛み砕き、ついでに尾翼をもぎ取った。
火を吹き、墜ちていくMiG-29を見つつ報告する。
『スラッガー1、スプラッシュ・ワン』
『こちらスラッガー2、スプラッシュ・ワン。残りは逃げました』
敵の航空機編隊を全滅させた海軍航空隊はそのままグルーバキア領空へと侵入、攻撃隊は準備に取り掛かった。




