6章第5話 海軍航空隊の出撃
しょうかく級航空母艦"ずいかく"
パイロット達は準備に奔走していた。
飛行甲板に次々と並べられて行くF-35Cに、対空装備を整えて空中戦に備えるF/A-18E、レーザー誘導爆弾やGPS誘導爆弾、空対地ミサイルで爆装するF/A-18Fに、AGM-88E AARGMを搭載して防空網制圧の準備をしていくEA-18G。
艦載機の準備が進んでいるのは空母だけではない。
遠征打撃群の強襲揚陸艦とヘリ揚陸駆逐艦に搭載されているF-35Bが計12機、AV-8BJ+ハリアーⅡ計12機、そしてAH-64DJ攻撃ヘリ8機。
こちらは近接航空支援の為、ブライムストーン対戦車ミサイルとヘルファイア対戦車ミサイル、そしてハイドラ70ロケット弾を搭載する。
その揚陸艦……LHA-08、LPDDH-204、LPD-53、そしてLSD-404の艦内。
その揚陸艦の腹の中でも出撃準備が進んでいた。
海軍海兵隊第2海兵師団の戦車、装甲車、自走砲等の戦闘車両。そして海兵連隊の歩兵が装備を整えて待っている。
海兵隊の装備する第3世代主力戦車のM1A2SEP V2エイブラムス、それに随伴するM2A3ブラッドレー歩兵戦闘車、歩兵部隊の主力装甲兵員輸送車のM1126ストライカーICVと、MGS、CV、MEV、ATGM等の様々な派生型。
そして、水陸両用の装甲車であるAAVP7A1。
海兵隊の装備する兵器は、海外製の兵器が目立つ。
ヨルジア軍最大の緊急即応部隊として激しい戦闘に投入される為、既に信頼性の確立された海外の兵器を装備している。
決して国産兵器が信用出来ない訳では無いが、海兵隊の気風がそうなのだ。
作戦開始時刻、海兵がそれぞれの車輌に、それぞれの装備を整えて乗り込む。
長い夜が明けようとしている。
ウェルドッグのハッチが開くと、昇り立ての陽光が差し込んで来た。
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空母"ずいかく"艦上
『スラッガー1-1、発艦を許可する』
『Roger、発艦許可確認した。スラッガー1-1、Air bone』
電磁カタパルトにランチ・バーを接続されたF-35Cのパイロットが、空母の発艦要員、所謂"レインボー・ギャング"に合図。
すると、レインボー・ギャングの中で黄色いベストを着た"カタパルト・オフィサー"が、高く上げていた手を振り下ろすと同時に姿勢を低くし、再び水平に腕を伸ばす。
それを見たカタパルト要員が電磁カタパルトを作動させ、F-35Cが甲板を走っていく。
フラップを限界まで下ろし、僅か2秒程で285km/hまで加速したF-35Cの機体は甲板を蹴って飛び立った。
それを皮切りに、1機、また1機と、合計4本の電磁カタパルトからF-35Cが次々と射出されていく。
屹立していたジェットブラスト・ディフレクターが1度畳まれ、再び4機のF-35Cがカタパルトへ誘導されていく。
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「ん……」
甲板下の航空機乗組員のロッカーで、スズネ・シンガイ中尉は準備を行っていた。
フライトジャケットの上から救命ベストを身に付け、下半身を圧迫する耐Gスーツを装着。
自身のTACネームである"RIN"の文字が刻まれたヘルメットと、酸素マスクを手に取り、ロッカールームを出る。
今日の出撃は厳しいものになりそう……そんな事を彼女は考えていた。
「シンガイ」
ロッカールームを出ると、パイロットであるカンタ・タカハシ中尉が待っていた。
彼はスズネの乗る複座のF/A-18Fのパイロットだ。
スズネは後席でWSO______兵装システムオペレーターを務める。
飛行機を空中で操るのは2人の息の合ったコンビネーションが必要とされるが、2人は特別な関係という訳では無い。
2人とも、仕事と割り切っており、双方に恋愛感情は無い。
「オルカの連中が防空網に穴を開ける、そうしたらその穴を広げて飛び込むぞ」
「ん、分かってる」
階段を上がり、空母の甲板の外側をなぞる様に存在するキャットウォークを歩く。
飛行甲板に出ると、丁度格納庫から引き出されたスズネ達の搭乗機がエレベータで上昇して来たところだった。
整備士がかけてくれたタラップを上り、コックピットの座席に座る。
座り心地はそれなり、良くも悪くも無い。
戦闘機であるから当然なのだが、贅沢を言えばもう少し座り心地の良い椅子が良い。
そんな事を考えている内に、発艦準備は進む。
外部動力を借りてスターターを回し、エンジンが目を覚ます。
エンジンに燃料を流し込み、点火、エンジンが自律回転を始めると、外部動力を切る。
エンジンの暖機運転をしている間に整備士がタラップと輪留めを外し、カンタ中尉が整備士の対して合図を出すと、カタパルトへと誘導される。
そのカタパルトでは、たった今対空戦闘装備を整えたF/A-18Eが発艦していった。
前席に座るパイロットのカンタ中尉がスロットルを少しだけ開き、エンジンの推力を増やす。
航空機についているタイヤ______ギアには動力は無い為、エンジンの推力で前進する事しか出来ない。
カンタ中尉はノーズ・ギアのステアリングと連動しているラダー・ペダルを左に踏み込んで、機体を左へ。
そのままゆっくりと進み、4番カタパルト、もっとも左端のカタパルトへと誘導通り進んだ。
『リン、風防を閉じてくれ』
ヘルメットに仕込まれた無線機からカンタの無線が聞こえる。
言われた通り、スズネは風防を閉じるスイッチを押す。
ポリカーボネートの風防は完全に閉じ、密閉される。
続いて動翼のチェック、スズネがチェックの為に後ろを向くと、確認の為にカンタが操縦桿を動かす。
補助翼と全遊式の水平尾翼がパタパタと動く。
続いてカンタがラダーペダルを左右に踏むと、垂直尾翼が左右に動く。
続いてスズネがメインとなって兵装、そして火器管制システムのチェックをする。
スズネ達の乗るF/A-18Fの兵装は、翼端のレールにAAM-3短距離空対空ミサイル、その内側にはAIM-120D AMRAAM中距離空対空ミサイル、そしてレーザー誘導爆弾であるGBU-16ペイブウェイを2発と、AGM-65マベリック空対地ミサイルを2発。
胴体中心線のステーションには増槽を、胴体側面の2箇所のステーションにはスナイパーXR目標指示ポッドと、AIM-120D AMRAAMが1つずつ装備されていた。
そんな大量に爆装したF/A-18Fが、発艦待ちに甲板を並んでいる。
兵装と火器管制システムのチェックが終了すると、いよいよ発艦シーケンスに入る。
カンタがフラップを下ろし、ジェットブラスト・ディフレクターが起き上がる。
電磁カタパルトのボルテージが上がっていき、発艦の準備が整う。
『ラフライダー2-4、4番目だ。続いて発艦しろ』
『了解、行くぞリン、準備は良いか?』
『ええ、いつでも』
『そりゃ良い』
『ラフライダー2-1、Air bone』
前方、艦首右端のカタパルトから、最初の爆装F/A-18Fが射出される。
続いて2番カタパルトから、ラフライダー2-2が射出される。
隣のカタパルトからも、ラフライダー2-3が射出された。
発艦要員が右手を高く掲げる。
そんな彼らに感謝を込めつつ、スズネは顔の横で右手の親指を立て、続いて敬礼をする。
それを見たカンタはスロットルを全開、アフターバーナーにも点火する。
そして無線に向かってこう叫ぶ。
『ラフライダー2-4、Air bone!』
それを聞いた発艦要員の腕が振り下ろされ、大きくしゃがんだ後水平を示す。
ガクンという衝撃の後、機体が力強く引かれて強力なGを生む。
2秒で285km/hまで加速した機体は、電磁カタパルトによって大空へと放り出された。
爆装したF/A-18Fの全8機が甲板を蹴って飛び立つ。
空母航空団の半数を送り出した空母"ずいかく"は、腹の中の艦載機の装備を再び整え始めた。
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強襲揚陸艦"きたかみ"艦上。
2本ある発艦レーンに沿って、上陸する海軍海兵隊の近接航空支援に回る為にAV-8BJ+ハリアーⅡが甲板を走って発艦していく。
ヨルジア海軍で採用しているハリアーⅡは、俗に"海兵隊型"と呼ばれるタイプで、翼端には短距離空対空ミサイルを搭載し、機関砲はGAU-12U 25mmイコライザー機関砲を装備するタイプだ。
ヨルジア海軍ではAIM-9サイドワインダーの代わりに、AAM-3短距離空対空ミサイルを搭載する。
他の武装は、AGM-65Hマベリック対地ミサイルが2発と、LAU-16C/Aランチャーに搭載された70mmロケット弾、全38発だ。
一方、より強固な目標の攻撃に回るF-35Bの武装は、機内搭載のAIM-120D AMRAAMが2発と2000ポンドJDAMであるGBU-31を2発。
そして今回の作戦ではステルス性をかなぐり捨てて兵装搭載量を重視、主翼外側のパイロンにはAAM-5短距離空対空ミサイルを搭載し、内側の2つにはGBU-16ペイブウェイを2発ずつ、計4発携行している。
海軍海兵隊航空部隊所属のF-35Bは近接航空支援を重視したためステルス性を犠牲に搭載量を増やした。
『マンティス1、Air bone』
AV-8BJ+が全機発艦した後、爆装したF-35Bが次々と発艦していく。
3ベアリング回転ノズルの角度を少し下に向け、リフトファンを吹かして短距離で発艦する。
爆装して機体が重いはずだが、それを感じさせない程強力なエンジン出力で軽々と甲板を蹴って飛び上がる。
海軍航空隊、海兵隊航空隊の各機種が8機ずつ、空へ上がっていった。




