5章第12話 要塞突破
砲台には、4基の51口径41cm3連装砲が鈍く光っている。
発射する砲弾は重量1トン、音速の2倍の速度で撃ち出される為、砲弾には強大な慣性力が加わり更に威力が増す。
砲の射程距離は40km、ロケットアシスト砲弾を使えば120kmにも達する。
「ふん、この要塞に攻撃を仕掛けようとは、無駄な事を……戦車隊と航空隊で地上と上空から少しずつ戦力を削ろうという腹か……ま、狙いは悪く無いがな」
要塞内部の戦闘指揮所で司令官がそう呟く。
「戦闘機部隊にアラート!迎撃しろ」
「了解」
要塞内部の滑走路では、戦闘機部隊が離陸準備を始めた。
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砲台が国境周辺の都市の安全を脅かしていた。砲台は要塞の真ん中にあり、この要塞を破壊すれば周辺の都市の安全は保障される。
要塞攻略には地上部隊も参加するが、砲台が稼働している状態では地上部隊が危険に晒される。
まずは空軍の攻撃によって砲台を破壊、その後上空の航空優勢を確保し、空軍の援護の下、地上部隊が攻略に入る。
要塞内部の滑走路から戦闘機の迎撃が出てくる。
『こちらエターナル、要塞より敵戦闘機の出撃を確認した。各個に攻撃せよ』
『Roger』
迎撃に上がるのはMig-35とSu-33、短い距離の滑走路でも離陸可能な機だ。
『スワロー03、FOX3!』
砲台攻略の先鋒として配置されたユニス少尉は、上がってくる敵戦闘機に真っ向勝負を挑む。
後から合流するとは言え、現在ここに配置されているF-22Aは2機だけ、前回の遭遇空戦の様な援護はほぼ無い。
放たれた2発のAAM-4はグングンスピードを上げ、敵機へと突入していく。
味方機も次々とAAM-4やAMRAAMを発射し、数10発もの中距離AAMが宙を舞う。
敵機もAESAレーダーでこちらの中距離AAMを妨害しつつ、こちらに向けて中距離AAMを撃ってくる。
『シャドウ01、Music start』
空軍のEA-18GがECMをかけつつ、全力で回避機動、チャフを放出して3本の増槽を棄てる。
ECM、チャフ、急激な回避機動、そして棄てた増槽のお陰か、20発近くのミサイルが欺瞞されたりして目標を逸れ、増槽に命中、まだ燃料の残っていた増槽は派手に爆発した。
『うわぁぁぁぁ!』
『おい!ウィザード03!応答しろ!』
『くそッ!こちらランサー02!被弾した!ベイルアウトする!』
『ドラゴン04、ロスト!』
それ以外のミサイルは味方機に喰らい付き、2機のF-15CJと1機のF-15EJが撃墜された。
パイロットが脱出した大量の爆弾を抱えるF-15EJが空中で爆散するのが見えた。
対してこちらのミサイルは6発が命中、敵機の残りは14機となったが、敵は要塞に滑走路という補給元を持っている為、次々と追加されてくる。
ユニス少尉は戦闘に集中する。
左旋回、味方機を追っているMig-35を追い始める。
敵機は味方のF-2Aを追う事に夢中でユニス少尉の存在に気付いていない。
『FOX2!』
左翼下からミサイルが放たれ、光球は敵機に命中して爆散させる。
『スプラッシュ・ワン!』
撃墜を宣言した所で、新たにミサイル警報、狙われている事を認識したユニス少尉はフレアを放出して回避機動、操縦桿を捻り、シザーズ、相手をオーバーシュートさせる。
敵機はSu-33、HUDの中心に2秒捉え、操縦桿のボタンを押す。
『FOX2!』
再びAAM-3が翼下から飛び出し、喰らいつこうとするが、フレアに騙されてあらぬ方向へと飛んでいく。
『FOX1!ファイア!』
ユニス少尉は操縦桿のトリガーを引き、右翼付け根たある20mmM61A1を発射。
重い音と共に発射されたのは203発、尾翼をもぎ取り、エンジンに命中したのか黒煙を吹いて墜ちていく。
味方機が砲台を叩こうと進むが、迎撃機と対空砲火に阻まれて近づけない。
F-2Jが複数機突入、対空砲火を交わしつつAARGMを発射し、SAMサイトを破壊していくが、足りない。
とうとう砲台が火を噴き、反撃が始まった。
3機のF-2Jと、フランデンベルクのトーネードECR、レイレガリアのユーロファイターが数機が巻き込まれて空から消える。
『コヨーテ05、ロスト!』
『くそッ!喰らった!コヨーテ01、ベイルアウトする!』
『隊長ぉぉぉぉーーー!』
砲台は砲弾を対空用の榴散弾を撃ち、対空迎撃に使ってきた。
ユニス少尉は歯噛みする。このままでは攻撃部隊が殺られるし、味方の地上部隊と危険だ。
背後からSu-33が襲いかかってくる。
はっと我に返り操縦桿を操作し、ジンギングで射線から逃れようとする。
30mm機関砲が放たれ、キャノピーのすぐ側を突き抜ける。
「やばっ」
右へと機を旋回させ、射線から逃れる。
操縦桿を引いて左に倒し、スロットルを少しだけ絞る。
操縦桿の引きを強くし、バレルロールを掛けつつ降下する。
ぱぱぱっと主翼上部の気圧の変化でヴェイパーが発生する。
引き起こし、敵機をオーバーシュートさせる。
Gがかかり狭くなる視界の中、HUDのサークルの中心にSu-33を捉えて2秒、ロックオン完了。
『くっ……FOX2!』
操縦桿のスイッチを押す、翼下からAAM-3"シルバー・アロー"が躍り出た。
ミサイル内のロケットモーターの燃焼は数秒で終了しあっという間に最高速度のM2.5に達すると、切り欠きが特徴のカナード翼で方向を微調整しつつ敵機に喰らい付き、爆散させた。
『スプラッシュ・ツー……!』
ユニス少尉は砲台に目をやる。
時折炎を上げて味方の航空機を追い払っていくその砲台。
ダメかと諦めかけたその時、砲台が突如爆発、小型の爆弾が幾つも降り注ぎ、次々と命中する。
10数発命中したところで、砲台が完全に破壊される。
爆弾の弾体が内部まで貫通、砲弾や発射薬に引火して大爆発を引き起こした。
『ミーティア・リーダーより全機へ、無線封鎖解除。これより要塞攻撃に移る』
ラプターが投下したのはGBU-39、今回使われたJDAMはレーザー誘導も可能なLJDAMだが、GPSで誘導されるJDAMはこうした固定目標の攻撃に威力を発揮する。
しかも、GBU-39は滑空翼によって射程距離が伸び、50km以上の距離を飛翔する事が可能なのだ。
10km程の場所から投下された小直径爆弾は何の苦もなく砲台へ降り注ぎ、完膚なきまで破壊した。
そして更に数機のF-35AがGBU-31を投下、見事砲台周辺の対空兵器を直撃し、接近が可能となる。
『こちら空中管制機エターナル、全機へ、南側のSAMとAAAを狩ってくれ、ヘリを使って地下の管制センターに特殊部隊を侵入させる』
『Roger』
『こちらブルームーン05、ラウルだ。敵の航空戦力は排除した!』
『こちらブルームーン06、スフィア。こちらも最後のSu-33を落とした!』
上空で援護についていたF-22A 2機から通信が入り、敵機を排除した事が告げられる。
ウィザード、ドラゴン、スワローに加え、ブルームーン、ミーティア各隊は高度を上げ、上空でCAPに入る。
『こちらランサー・リーダー、対空砲を叩く。ランサー各機、俺に続け!』
『こちらマスタング・リーダー、SAMの発射機を潰す!』
『コヨーテ・ツー、レーダーサイトを叩く』
敵航空機の脅威が去ると、ヨルジア空軍が対空兵器の掃討を開始。
コヨーテ隊のF-2Jが要塞壁上にあるSAMの誘導レーダーをロックする。
『コヨーテ02、マグナム!』
コールと共にF-2Jの翼下に搭載されていたAGM-88E AARGMが放たれ、高速で誘導レーダーに直撃して破壊。
その向こうからF-15EJが迫る。
『マスタング01、Bombs away!』
GBU-16ペイブウェイレーザー誘導爆弾を投下、レーザーを照射する。
暫く爆弾は空中を飛翔し、寸分の狂いもなくSAM発射機に命中し、燃え盛る金属塊と瓦礫へと変貌させた。
『命中だ!うぉっ!』
『くそッ!AAAか⁉︎』
次々と爆弾を投下して正確にSAMを潰していくF-15EJに怒り狂った様に対空砲火が上がる。
その1基にペイブウェイが着弾、沈黙する。
『ランサー03、貰った!』
『ランサー01、レーザー照射!』
『Bombs away!』
レーザーに乗った誘導爆弾は誤差数cmで対空砲に突き刺さり、内蔵されていたTNTが炸裂して強制的に黙らせる。
そのF-15EJを追う対空砲を爆撃し、対空陣地を潰していく。
ランサー隊の攻撃により、手の届く範囲の対空砲は全滅、AWACSが特殊部隊を乗せたヘリを誘導する。
『航空隊全機へ、コールド・スチールを援護、近付く敵を排除しろ』
『Roger』
『Roger』
空軍の援護の下、コールド・スチール所属のMH-6M 4機とMH-60M 4機が侵入、城門を掌握し、門外から味方部隊を率いれる。
空軍が開けた穴を、特殊作戦用ヘリが通り抜けて行った。
MH-60M、バトラー61の機内で、エドワーズは呼吸を整える。
行きのヘリの中で呼吸を整えるのは、エドワーズにとっていつもの儀式となっている。
今回の作戦では、ブル中尉の分隊に入った。エドワーズはその補佐だ。
デリックはいつも通りでM249MINIMI Mk2を手にし、エイミーはM4A1BlockⅣとAT-4CSを担ぐ。
エメリアは分隊の擲弾手の為、ポーチには40mmグレネード弾、M4A1のアンダーバレルにはFN Mk13EGLMが装備されている。
因みに今回の作戦でヘリに乗っている分隊は衛生兵、無線兵、LMG手を合わせて12人、これが基本の構成となる。
『目標接近!』
あらかじめ降りる順番に今一度編隊を調整する。
『接近、降下ー……着陸!』
4機のMH-6Mリトルバードがシルバー・アローズを乗せて城門の上へと着陸、外部ベンチシートキットから4人の隊員が降りる。
合計16人が降り、8人は城門の上を確保、もう8人は内部へ侵入してコントロールを握る。
リトルバードが離脱すると、MH-60Mブラックホークが進入する。
2機は壁の内側へ、2機は壁の外側へロープを垂らし、隊員を次々と降下させる。
『チョーク1、降下開始』
『チョーク2、降下』
『チョーク3、降下!』
エドワーズが所属するブル中尉のチョーク4も同時に降下を開始する。
「ロープ!よし!降下!降下!降下!行け行け!」
『チョーク4、降下』
ブル中尉がロープを落とすよう指示してドア付近の隊員がロープを落とす。
中尉の号令と共にロープを伝い降下、12人のチョーク4が降下し終わるまで1分もかからない。
『バトラー64、分隊降下!警戒に入る!』
『バトラー62、分隊降下、警戒に入る』
4機のブラックホークも次々と離脱、警戒に入っていく。
降下したエドワーズは、与えられた城門の確保任務へ集中していく。
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「ばっ……バカな……」
質で数の不利をカバーして余りある活躍を見せるヨルジア軍に、要塞の地下司令部に腰掛ける指揮官は驚愕の色を隠せない。
Operation GONG以降、戦力を蓄え、訓練も重ねてきた。
旧来の砲台で現代兵器に対抗出来る術も編み出した、現に10機近い航空機を撃墜した。
しかし、砲台が爆撃によって破壊された事で戦況は変わってしまった。
「くっ!ダム方面の対空陣地は何をしている⁉︎」
「そ、それが……ダムが決壊し……」
流された、と言うのか。
おそらくヨルジア軍の特殊部隊の仕業だろう、敵は指揮官の想定より早く回っていた。
これでは間も無く敵の地上部隊が要塞へやってくる。
「司令官殿、この要塞が攻略されれば、我が祖国への侵略の糸口となってしまうでしょう」
「なっ……わかっておる」
指揮官は彼の後ろに立つ者の煽りを受け、素早く指示を出す。
それに、ここにいる限りは、大丈夫だ。
その事を再確認する。
「至急迎撃!全ての対空兵装を稼働させろ!それから迎撃機発進急げ!」
そんな指揮官の姿を見て、彼の後ろに立っていた人物は満足気に頷く。
頷いた後、その男は足音を立てずにゆっくりとその場所を離れた。
その人物こそ、テロ組織"ドラグーン帝国"の幹部なのだ。




