5章第8話 チャスタイズⅡ作戦
リドリスの山奥から爆撃機の出撃が確認された。
爆撃機を中心とする編隊と交戦し、連合軍は全機を撃墜したが、今まではこんな事は無かった。
爆撃機の出撃出来る基地は限られており、連合軍の航空優勢が確保されている範囲にある基地は全て排除、もしくは制圧して前線基地として利用している。
その為、敵が何処かで秘密裏に航空基地を建設、もしくは空中給油を行ってきた可能性が高いと見た。
後者は防ぎようが無いとして、前者であれば、何処かにあるはずだ。
ヨルジア連邦情報局によって情報収集を行った結果、とんでも無い事が発覚した。
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連合航空部隊の総指揮官からのブリーフィングが行われている、ガルシア島飛行場のブリーフィングルームだ。
「今回の作戦は、陸軍と海軍海兵隊、そして我々空軍の合同作戦だ。作戦の規模は今までの作戦よりも大きく、そして重要度も高い」
この国の軍の再建も進み、ヨルジアがリドリスから撤退出来る日も遠くは無い。
そんな中での大規模な作戦、パイロット達は何かあったのだろうかと騒めく。
「爆撃機が確認されて以降JFIAが調査を行ったところ、面白い事が判明した」
総指揮官はプロジェクターでリドリスの山の中を写した衛星写真を投影する。
その中に映し出されていたのは、森の中に存在する1本の滑走路だ。
それを見て、騒めきが一段と大きくなる。
「奴らは我々に隠れ、滑走路を建設していたようだ。駐機場はこの様に、一部を除いてカモフラージュされている」
写真には迷彩塗装の施されたコンクリート製の滑走路と、同じ塗装が施された駐機場がある。
「この滑走路は実際に使われている、だが、これはダミーだ」
指揮官は上に画面をスクロールし、ダムを映す。
幅50、堤頂長400mにも及ぶ重力式コンクリートダムの堰堤だが、そこには戦闘機の姿があった。
「このダムの堤頂が、滑走路に使われている。よって今回の作戦では、このダムとダミーの滑走路を破壊し、敵の航空戦力進出を食い止めなければならない」
そして更に上流には砲台と要塞が設置され、ダムの近くの町の安全を脅かしているという。
つまり今回の標的は、滑走路、ダム、砲台の3つだ。
しかも砲台を攻撃する為には、このダムの下流に仕掛けられた地対空ミサイル及び対空砲陣地を通らなければならない。
その為、大規模な編隊が侵入する事は不可能。
何度か航空攻撃で各国が破壊しようと出撃したが、鉄壁の守りで結構な被害が出ている。
そこで、陸軍特殊部隊と空軍によって外と中からダムを破壊し、下流の地対空ミサイル及び対空砲陣地を押し流す。その後、砲台を攻略、破壊するという作戦を立てた。
滑走路の攻撃任務は、フランデンベルグ空軍とレイレガリア空軍に任せる事になった。
滑走路を攻撃すれば、自ずとダムから戦闘機が出撃する。
のこのこ出撃して来たところをヨルジア軍が叩くのだ。
「……何か、俺達ばかり良い顔している様で気が引けるな……」
「大丈夫、レイレガリア空軍とフランデンベルグ空軍はこの滑走路の攻撃が終わったら砲台攻略に向かうって聞いたから」
フリーダム___ヒロキ中尉の独り言に、TACネーム"カノン"ことミラー少佐が答える。
「先遣隊はヨルジア空軍のステルス機部隊が務める、ライガー、レオン、バロン、スカイ、カノン、フリーダム、ブラン、フェネック。この8名でダムの破壊に向かってもらう。ラウル、スフィアは攻撃隊の援護に回ってくれ」
いつの間にか作戦の説明は直属の上官にバトンタッチし、指名される。
要は少数で斬り込む前衛が俺達……か。とヒロキは考える。
F-35Aの部隊も後から合流する為、攻撃隊の戦力が低下する心配は無いだろう。
既に陸軍や海軍海兵隊の機甲部隊や砲兵部隊など大掛かりな装備を持つ部隊は、秘密裏に要塞近くまで進軍している。
「作戦開始は3日後だ、各自、作戦までに飛行ルートをじっくり練ってくれ。この作戦が上手く行き、要塞が陥落すれば、ドラグーン帝国は勢いを失うだろう。幸運を祈る!」
指揮官がそう締めくくり、ブリーフィングが終了する。
パイロットや指揮官が席を立ち、普段の喧騒が復活する。
「さっき呼ばれた8人は集合、飛行プランを立てるわ」
「「「はい」」」
ミラー少佐は立ち上がり、ステルス隊のメンバーを別の作戦室に呼び出す。
その中にはあの2人も居た。
ここに来てから何度か話したが、2人とも気さくで良い人だ。
ミラー少佐は別の作戦室のテーブルに作戦地域の地図を広げる。
それを皆が覗き込む様な感じで作戦会議が始まった。
ミラー少佐がダムを指差す。
「ターゲットはここ、この渓谷を通らないとターゲットまでたどり着けない」
ダムに置いた指をその渓谷をなぞる様に指す。
「対空陣地はこことここ、そしてここ」
少し離れた開けた場所にある対空陣地を指差す。
対空陣地は渓谷の底に1箇所、上に2箇所存在する様だ。
「うへぇ……こりゃ大変だ……」
ハルトマン大尉が戯けた様に手をひらひらさせる。
「対空陣地に引っかからないルートは?」
「ほぼ無い、どこを通っても確実に狙われる。特に渓谷の上なんか飛んだら、渓谷の中と上とで3箇所から狙われる事になる」
バルクホルン大尉の問いにミラー少佐がそう返す。
つまり、ダムを破壊しない限り、後続が中間の対空陣地に必ず狙われる、という事だ。
「なるほどね……どちらにせよ、ダムから砲台までは渓谷を縫って飛ぶしか無いのか」
「谷攻めだな!」
カラカラと渇いた笑いを上げるハルトマン大尉。
出来るだけ少ない抵抗の場所を飛び、後続の攻撃を助ける。
それがステルス隊の役割だ。
F-22がレーダーで捉えられる距離が10nm以下、渓谷に入れば岩盤の影響でさらに短くなる。
そこでスーパークルーズを使い、アフターバーナーを焚かずに超音速で飛行すれば、それだけ早く離脱、通過出来る。
GPSの航法装置を使えば、レーダーとリンクして誘導が可能だ。
「う〜ん、でもやっぱり対地攻撃に不安が残りますね……」
「将軍にF-35の部隊が回せないかちょっと後で聞いてみよう」
着々と、ルートが固まりつつあった。
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作戦前日。
レギュラス空港は、作戦前の喧騒に包まれていた。
「お前も出撃かクリストフ」
「あぁ、まぁな。聞いて驚け、チョーク4だ。ブル中尉の2-5だ」
「本当か⁉︎」
事務所にて、クリストフと呼ばれた男と、レンジャーの事務員リョウ・アンダーソンが話していた。
リョウは自前のミルとサイフォンでコーヒーを淹れる、彼は戦場でもコーヒーを飲む筋金入りのコーヒー好きだ。
「いいなぁ、俺も出撃してえよ……」
「まぁ、お前にはお前の才能があるだろ、戦闘以外にな」
「まぁ、そうだろうけどさ」
外の飛行場をMV-22Bが離陸、何処かへと飛び去っていく。
「ま、俺も必要な時は呼ばれるだろうしな、早く呼ばれたいぜ」
「そのうち呼ばれるだろ、何時になるかは分かんねーけどな」
笑いあうアンダーソンとクリストフ。
戦場の中で、少しだけのんびりとした時間が流れていた。




