3章第4話 BMD
あけましておめでとうございます!
今年も、別世界の現代戦をよろしくお願いします!
ラグランデ地方、首都島沖200マイル
16:10
人工衛星、"ローマット"は本土の東2800マイルの場所から発射された複数の弾道ミサイルを探知。
すぐさま各艦隊司令部は付近で哨戒中のイージス艦にBMDアラートを発令、陸軍は各師団の高射部隊にTHAADとPAC-3の展開を命じた。
最初にそれ捉えたのは第2艦隊所属の駆逐艦"たにがわ"
「艦長!弾道ミサイル捉えました!」
CICに降りて来ていた艦長にCIC員が報告する。
報告は続く。
「DF-21です、数は6…8…増加中!」
艦長は歯噛みしながら命令する。
「捉えたものから迎撃始め!周辺の各艦にも伝えろ!」
「アイサー!」
同じく近海に展開していた巡洋艦"ヘラクレス"、BMDシステムは搭載していないがSM-3を予備に搭載していた駆逐艦"つるぎ"、更に離れたところに居る駆逐艦"レイヴン"にもC4Iを通じて目標情報を送信する。
命中率を高める為に1つの目標に2発で対処し、撃ち漏らしは陸軍で対処する。
イージスシステムにより目標の振り分けが終わり、砲雷長がCIC員に指示する。
「ターゲットA、B、C、D、E、F、G、H!CIC指示の目標、撃ち方始め!」
火器管制のCIC員が目標を設定、ミサイルへ送信する。
「コメンス・ファイア!サルボー!」
隊員がパネルの発射アイコンをタップした。
同時に甲板では垂直発射装置からRIM-161 SM-3が発射される。
主砲後部艦橋前のVLSから1発、ヘリコプター格納庫上のVLSから1発だ。
第1弾を発射した1秒後、またもVLSからSM-3が発射され、轟音と共にどんどん上昇して行く。
250マイル離れているイージス巡洋艦"ヘラクレス"と駆逐艦"つるぎ""レイヴン"も、同様にSM-3を発射して行く。
=========たにがわCIC=========
「SM-3、エンプティ!撃ち漏らし40発、首都島へ向かいます!」
本来搭載してあった16発のSM-3を全弾撃ち尽くした。
"ヘラクレス"にも20発、"レイヴン"には16発、"つるぎ"に至ってはイージス艦ですら無い為、8発しか搭載していない。
どんどん増えていく弾道ミサイルに、途中から弾道ミサイル1発に対し1発で対応したが、ミサイルが外れたりして命中精度が落ちる。
計60発のSM-3が52発の弾道ミサイルの迎撃に成功し、撃墜した。
しかし、発射されたMRBMの総数は89発、37発の撃ち漏らしが出た。
「頼むぞ……」艦長はレーダーに写る撃ち漏らしを悔し気に見つめながら、陸軍の迎撃成功を祈った。
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陸軍第1師団第1高射連隊
首都防衛を担う第1師団では、アラート発令後すぐに民間人を地下シェルターに移送して市街地全ての道路を封鎖、THAADと空軍のPAC-3部隊が展開し迎撃態勢に入る。
「第1射、てぇぇー!」
指揮車両の中で射撃隊長の指示と共に操作員が発射キーを回し、スイッチを押す。
封鎖され無人になった街の交差点に配備されたTHAADの発射機からミサイルが発射された。
既にイージス艦からの情報により弾道弾の落着予想地点が首都島に限定されていた為、首都島各所に合計16基のTHAADが設置されている、その16基の発射機が一斉に火を噴いた。
白煙を伴い16発のTHAADミサイルが弾道ミサイルを目指して飛んでいく。
上空でTHAADの先端が外れ、キネティック弾頭が放出される。
キネティック弾頭はMRBMを赤外線シーカーで捉え、外周に配置された10個のスラスターで姿勢と軌道を調整しつつ、M7.6という高速で弾道ミサイルの弾頭を直撃、破壊する。
後続のミサイルも最終段階に入ったMRBMの弾頭を次々と破壊していく。
第1射で迎撃出来た弾頭は12発、残りの25発に向けて第2射が地上から発射される。
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晴れた空に迎撃され爆発していく弾頭が時折チカチカと光る。
それに向かうように新たなTHAADが発射されて行く。
第2射が命中したのか、またチカチカと空が光る。
それを追う様に今度は8つの光が白煙を引き空へ登っていく。
空軍のPAC-3が発射されたのだ。
PAC-3もTHAAD同様、開けた交差点に8基が配備されている。
PAC-3の最大射高は約20000m、破壊され、散らばる破片が肉眼で見える距離だ。
「……綺麗……」
避難中の人々が空を見上げる。
迎撃され、爆発していく光景はまるで花火だ。弾頭が青い光を纏って真っ直ぐ落ちてくる光景は余りにも幻想的で、避難の足が一瞬だけ止まる。
その一瞬の間に、
THAADとPAC-3の迎撃をすり抜けた弾頭が数発、死を乗せて地上に降り注ぐ。
閃光
轟音
丁度避難中の民間人が密集している場所に着弾した。
その他にもTHAADの発射機に直撃、周囲を巻き込み破壊する。
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「被害報告!」
指揮車両の中で指揮官の怒号が飛び、被害を報告する声が続く。
「市街地に落着!死傷者不明!」
「THAADの発射機1基、沈黙!」
「被害甚大!」
指揮官は苦虫を噛み潰した様に顔を歪めた。
守れなかったという、自責の念が彼の心中に渦巻く。
だが彼は、切迫する状況で全高射部隊を指揮し、最後まで諦めなかった。批判の対象は死傷者が出てしまった事に関して集中するだろうが、指揮と精神は評価されるべき点だろう。
この状況下で不謹慎だが、落着した弾頭が、核弾頭で無くて本当に良かったと思えた。
もし1発でも核弾頭があれば、死者・行方不明者はもっともっと増えていた筈だ。
とにかく、上官の動揺は部下に大きく影響する。後で考える時間はたっぷりある。
自分にそう言い聞かせて気持ちを切り替え、指揮に戻った。
RIM-161 スタンダードSM-3
弾道弾迎撃ミサイル。
SM-2スタンダード対空ミサイルの発展型。
THAAD地対空ミサイル
終末高高度防衛ミサイル(Terminal High Altitude Area Defense missile)の頭文字をとってTHAAD。
射程距離200km、最大射高150km
弾道弾迎撃ミサイルだが、航空機の迎撃にも使用可能。
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