表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WHAT A WONDERFUL WORLD  作者: うつろあくた
6/13

孤独な胎

 カチン……カチン……カチン……


 鉄の触れ合う無機質な音が岩屋の壁に幾つも跳ねる。わたしは小ぶりの自動拳銃に弾丸を込めていた。優作にも内緒でノーマがわたしに握らせた黒く冷たい人殺しの道具。それが彼女からわたしへの唯一の形見分けだった。


「ひどい姉……」


 独りごちて足を投げ出すと空になった缶詰を蹴り飛ばしてしまった。岩屋に乾いた音が響く。診療所を出る時に持ち出した非常食を波と半分ずつ食べた。二人とも食欲はなかったが励ましあいながら無理やり喉に詰め込んだ。安全装置をかけて銃をしまう。ふと目を上げると膝を抱えた波がじっとこちらを見つめていた。


「もう少し寝なさい。次に目が覚めたら出発するわ」


「うん……」


 波は素直に頷く。でも横たわろうとはしなかった。


「あのね……」


「ん?」


「先生のお傍で寝てもいい?」


「……いいよ。おいで、波」


「うん」


 微笑んでやると波は白衣を引きずって傍にやってきた。そしてわたしにもたれかかって身体を丸める。わたしがそっと耳を撫でてやると波はすぐに寝息をたてはじめた。


「…………」


 無防備なあどけない寝顔。この幼い少女が母になり、子を産もうとしている。わたしの愛した優作の・・・子を。この子はなぜ波のお胎を選んだのだろう……どうしてわたしではなかったのだろう。あの人との子を宿せるなら……“猫”になることなど一瞬だって迷わなかったのに。孤独な胎を撫でるたび悲しみとも怒りともつかない感情が渦を巻く。優作、あなたはどうしてわたしには何も残してくれなかったのですか? 波、あなたはどうしてわたしの大切な宝物を持っているのですか? 空しい問いかけは虚空に滲む。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ