孤独な胎
カチン……カチン……カチン……
鉄の触れ合う無機質な音が岩屋の壁に幾つも跳ねる。わたしは小ぶりの自動拳銃に弾丸を込めていた。優作にも内緒でノーマがわたしに握らせた黒く冷たい人殺しの道具。それが彼女からわたしへの唯一の形見分けだった。
「ひどい姉……」
独りごちて足を投げ出すと空になった缶詰を蹴り飛ばしてしまった。岩屋に乾いた音が響く。診療所を出る時に持ち出した非常食を波と半分ずつ食べた。二人とも食欲はなかったが励ましあいながら無理やり喉に詰め込んだ。安全装置をかけて銃をしまう。ふと目を上げると膝を抱えた波がじっとこちらを見つめていた。
「もう少し寝なさい。次に目が覚めたら出発するわ」
「うん……」
波は素直に頷く。でも横たわろうとはしなかった。
「あのね……」
「ん?」
「先生のお傍で寝てもいい?」
「……いいよ。おいで、波」
「うん」
微笑んでやると波は白衣を引きずって傍にやってきた。そしてわたしに凭れかかって身体を丸める。わたしがそっと耳を撫でてやると波はすぐに寝息をたてはじめた。
「…………」
無防備なあどけない寝顔。この幼い少女が母になり、子を産もうとしている。わたしの愛した優作の子を。この子はなぜ波のお胎を選んだのだろう……どうしてわたしではなかったのだろう。あの人との子を宿せるなら……“猫”になることなど一瞬だって迷わなかったのに。孤独な胎を撫でるたび悲しみとも怒りともつかない感情が渦を巻く。優作、あなたはどうしてわたしには何も残してくれなかったのですか? 波、あなたはどうしてわたしの大切な宝物を持っているのですか? 空しい問いかけは虚空に滲む。