最後の手紙
「アリス。この手紙を開く頃、あなたはきっと深い孤独の中にあることでしょう。あなたには貧乏くじを引かせてしまいました。それもこの世で一番の。あなたは強い子だから、なんてとても言えない。もういいんだよ――ほんとはそう言ってあげたい。でもね……やっぱり言えません。わたしはまだあなたに仕事を押し付けようとしています」
「伊勢谷くんの手術が成功したらその抗体で助けて欲しい人がいます。伊勢谷くんを亡くしたばかりのあなたにこんなことを頼むなんて……ひどい姉さんだよね? でも分かって――いいえ、やっぱり恨んで下さい。ごめんね」
「助けて欲しいのは波です。“第三段階”に入った波を室蘭の“センター”に移送したのは覚えていると思います。抗体をセンターに届けて欲しい。それも出来るだけ早く。センターの存在が“メジャー”に漏れた可能性があります」
「あなたは疑問を感じているでしょうね。“混乱期”の波のあの衰弱を見れば到底生きているはずはないと。確かに通常のDOTESの症例であればその判断は正しい。でも波の症例は特殊なのです。それもこれまでのDOTESの常識を覆すほど重大な……」
「すぐにでも伝えるべきだった。でもわたしは躊躇した。それは研究者としてではなくあなたの姉として。いずれ必ず伝えなくてはならなくなるとしても、あの時には言えなかった」
「波は――」