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WHAT A WONDERFUL WORLD  作者: うつろあくた
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万事休す

 崖を這い上がるとまだその場に男たちは駐留していた。車を回すように無線で連絡を取っているようだ。車に乗りこまれたらおしまいだ。だが逆に波を取り戻し車を奪うことが出来れば……。わずかなチャンスだろうと賭けるしかなかった。わたしは茂みの中に身を隠してその時を待った。幸い敵にはわたしが生きていてあまつさえ奇襲をかけようとしているという考えはないらしい。男たちは作戦の成功を確信し煙草をふかして談笑していた。当然だ。彼らはプロであり、わたしは取るに足らない素人なのだ。そしてその油断を利用するしかわたしに手はない。


 しばらくすると軽トラックが到着した。元からいたのは5人。運転席から降りてきた男を加えて6人。彼らがすぐに車に乗り込もうとしなかったことは幸運だった。わたしは波の位置を確認しつつ、行動のシミュレーションを走らせる。波だけは先に車に乗せておこうとしたのか、男の一人と波がグループから離れる。これが唯一のチャンスだ。そう感じた瞬間、わたしは茂みを飛び出していた。身体をかがめ一気に距離を詰めた。一発目! 当たった。銃弾は波を連れていた男の頭を撃ち抜く。波を呼ぶ。波に向かって走り出す。男たちが気づく。相手が銃を構える前に波を確保できるか、そして何人まで減らせるか。二発目! ハズレ。三発目! 一人の腹に命中。四発、五発! 別の男の足、腹。そしてわたしは波に到達する。


「迎えに来たよ、波」


「先生、先生ッ!」


 腕の中の波を確かめる。銃で敵をけん制したままゆっくりと後退する。このままトラックまで行ければ。すでに3人は倒している。残りは3人。波とこれだけぴったりとくっついていれば撃てやしないだろう。波を盾にする。相手の狙いはこの子だとはっきりと分かっている。卑怯に見えようとこれが二人が助かるオンリーワンの作戦なのだ。銃口を相手に向けたままちらりとトラックの運転席を見る。ありがたいことにキーはついたままだ。


「波、ついてくるのよ」


「は、はい……」


 波の震える肩を掴んでゆっくりと下がる。あと3メートル。勝った!


 ガーン!!


「えッ!?」


 ふとももに激痛が走った。わたしは波ごと道路にひっくり返った。トラックの荷台から小銃を構えた男がゆっくりと身体を起こすのが見えた。

「そんな……車にもう一人いた!?」


 穴の開いたふとももを引きずって後じさりする。みるみる身体が鉛のように重くなっていく。荷台の男は銃を構えて慎重に近づいてくる。こちらの銃はわたしの足元にあった。身体を起こせば手が届く。しかしその瞬間に頭を撃ち抜かれるだろう。万事休す、なのか? ここまで来て? わたしは唇を噛んだ。


「あっ!?」


 銃を小さな手が取り上げた。


「せ、先生に近づくなッ!!」


「波ッ!?」


 波が銃を構えて立ちはだかっていた。その膝はガクガクと震えている。


「おい、その銃を渡せ」


「……いや」


 男は銃と逆の手を差し出して命令するが波は首を横に振る。事態が膠着こうちゃくするうち、別の男たちもこちらに集まってきた。状況は悪化するばかりだった。


「手か足なら撃っても構わん」


 男の一人が叫んだ。わたしを撃った男が頷き小銃を構えなおした。


「あ、あああ……」


 波の怯えが引き金にかかる指に力をこもらせるのが分かった。


「ダメっ!!」


 ガーン!!!


 ノーマの形見のピストル。その最後の弾丸は大地を撃った。銃身を押さえ込むわたしの手からは焦げた匂いがした。


「せん……せい……?」


「ダメだよ、波。お母さんは……人を殺しちゃダメなんだ……絶対に、絶対に」


 波の手から空っぽの銃が滑り落ちた。


「ノーマ……ノーマがね、そう言ってたんだよ?」


 わたしは波の頭を胸に抱き寄せた。もうそこまで男たちは近づいていた。今度こそもうおしまいなんだ。


「姉さん……これが正しいんだよね?」


 男の手が伸びてわたしから波を引き剥がそうとした。その時だった――


 ギャアアアアアアッ!!!


 鋭い咆哮とともに黒い影が飛びかかり、男を引き倒した。しかも影は一つではなかった。飛び出した影たちは次々と男たちに襲い掛かっていく。


「ネコ……ミミ?」

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