A tale is not finish. It started now…
サーチライトの強烈な光に白樺の輪郭が弾けた。枯れ枝を砕くブーツの重く乱暴な足音がすぐ近くをうろついていた。幹の幅に肩を竦めて灼けた息を押さえ込むと、たちまち胸は張り裂けそうになる。激しい脈動にこめかみが震え、視界に膜がかかるようだ。――気を失う。そう感じた瞬間、森の外から集合を命じる声が響いた。男は命令に応えてすぐに駆け出す。足音は遠くなり、森は再びわたしたちだけになる。
「はぁ……はぁっ……はああっ!!」
限界まで膨らんでいた肺から呼吸が逆流する。背中が幹肌を滑り落ち、わたしは根元の下生えにへたりこんだ。
「ふ、ふぅ……ふうぅ……」
冷たい夜の空気が焦げた気管にひりひりと沁みた。でも出来るだけ早く息を整えなければ。追手はまたすぐに戻ってくる。あちこち悲鳴を上げている身体を引きずり、あの子を隠した茂みへと向かう。わたしは一人ではなかった。茂みを掻き分ける。うずくまる小さな人影。呼吸のたび華奢な肩がわずかに上下していた。安らかな寝顔。夢でも見ているのだろうか。
「マ……マ……」
哀しい寝言。やりきれずわたしは強く唇を噛んだ。
「ナミ……」
手を伸ばして触れた少女の頬は温かかった。