第8話 人間カイロになっちゃいました
「なぁ、お前と寝たいんだけど」
「なっ?!」
12回も喘いで果てた声を聴いた後、天野くんはそう私にポツりとこぼした。
「なっ・・・なっ・・・」
私はというと、言葉にならなかったりする。
場所は二人掛けのソファー。
フツーの恋愛漫画とかだったら、もう後ろに薔薇やらハートやらなんやらが飛び交っていてもおかしくはない状況。
しかし、私たちは違った。
「一人は寒いから。抱いて寝たい」
え~っと・・・・・
Thinking Time!!
このエロドラゴン、私をからかいはするものの、今んとこ私には無害。
つまりは、
「私を抱き枕か湯タンポかなんかと思ってない?」
「ん?人間カイロ」
「同じじゃ!!」
ケラケラ笑う天野くん。
ほんとに、私で遊んでるわ・・・・
「もう、そんなことは他の女の子に言ったら?すぐに裸で暖めてくれるって。またキスマーク付けてもらえば?」
「あれは襲われたんだ」
「へぇ~知らなかった」
意地悪く言うと、天野くんが険しい顔をした。
な、なによぉ・・・・
「前にも聞いたろ。ここの女が盛ってるんじゃないかって。ま、ちょっとは相手してやったけど、どれも似たり寄ったりだったしな。言い寄ってくる女なんか、どこの国も同じなんだよな」
「へぇ!なんたら国でもモテたんだ、天野くん」
「まぁまぁかな。兄貴たちもいたからな。ま、それだけじゃねーだろうけど・・・」
少し言い淀んでいる。
なにか他の事情もあるのかもしれない。
「ならさ、なんでわざわざ日本なんかに来たの?女の子探してるなら、別に自分の国にいれば良かったのに」
「・・・そういう訳にもいかないんだと」
そして、天野くんは話してくれた。
ドラゴン族は女性が少ないらしい。
そのため、外部からの血を入れないと濃くなるそうだ。
だから、毎年ワープ装置を使って様々な国の女性を探しに行っているらしい。
「一番上の兄貴はちゃんと見つけて帰ってきたけど、ディ・・・あぁ、三番目の兄貴がさ、面倒なことしやがって・・・」
面倒なこと?
何があったんだろう?
「でもさ、女の子見つけてどうするの?食べるの?」
「・・・なんでだよ」
天野くんはため息をついた。
「お前・・・・・なんで今の会話からそうなるんだ?」
「天野くんなら、食べちゃうんじゃないかって・・・」
「ほぉ・・・なら、お前を食べてもいいんだな?」
天野くんの目がすっと細くなった。
あ、まずいこと言ったかも・・・
「おいしくないので、遠慮しときます」
「遠慮するなよ。俺がおいしく頂いてやるから」
ソファーの上で一進一退の攻防が繰り広げられる。
と、やおらエロドラゴンが口を開いた。
「じゃあ、選べ」
唐突のことに、私はキョトンとする。
「俺と寝るか、俺に食われるか」
「・・・食われるって・・・なにするの?」
「決まってるだろ」
天野くんは口の端を上げた。
「あのトースターを使って――――――」
「寝るのは?寝るだけ?」
天野くんが言わんとしている言葉を遮って、訊くと「まぁな」と返された。
・・・究極の選択なんじゃあ・・・?
でも食われたくはないし・・・
寝るだけなら・・・ダイジョーブかな・・・?
つーか、考えたらこれしか選択肢無いんじゃ・・・?
私はジロリと天野くんを見た。
目の前のスウェットを着たイケメンは「どうする?」と、ニヤニヤ笑っている。
こいつ・・・初めから選択肢を潰して私と寝る気だったんじゃあ・・・?
「・・・何にもしない?」
「ああ」
「ほんと?」
「抱きたいだけ」
・・・その言い方が恥ずかしいって・・・
「真っ赤だぞ?」
「うっさい!」
私は天野くんを見ずに立ち上がった。
すでに歯磨きも終えている。
くそぅ!
このエロドラゴンがっ!
「・・・・・・じゃあ、先に寝てるから」
「了解」
クスクスと笑う天野くんをリビングに残し、私はベッドに潜り込んだ。
天野くんの方を見ないように、背中を向ける。
一緒に寝るだけ・・・ダイジョーブ・・・だと思う・・・
リビングの電気を消した音が聞こえた。
続いて冷蔵庫くんのおやすみの声。
次第に足音が近づいてくる。
心臓が異常なほど速くなっている。
くそぅ!
なんで私がこんなに緊張しなくちゃいけないんだ~!
あのエロドラゴンめっ!
いつか仕返し・・・って前にもやったな、この下り・・・
掛け布団がめくれ、ベッドの中に入ってきたのが分かった。
まだ身体は触れてはいないが、息遣いが物凄く近い。
「咲希」
名を呼ばれただけで、肌が泡立った。
どうしよう・・・
どうにかなってしまいそう・・・
「・・・いいか?」
なにがだよ、と一応心の中でツッコミを入れておく。
私が何も言わないのをどう捉えたのか、天野くんはそっと私の肩に触れた。
思わずびくりとして、身体が固くなる。
天野くんがくすっと笑った気がした。
「何もしねーよ」
耳元でそっと囁かれ、そのまま後ろから抱きしめられた。
右手が私のお腹あたりに当たってる。
ついでに、天野くんの脚が私の脚に絡まっている。
な・・なんか、すっごいイヤらしいんですが・・・
「すっげー柔らかい。暖かいし気持ちいい・・・」
私の首元に顔を埋めているみたい。
「ありがと・・・・ごめんな」
囁くと、私の首にキスを落とした。
何に対して謝ってるんだろう。
天野くんのワガママに付き合ってあげたから?
それなら「ありがとう」だけでよさそうなのに・・・
規則正しい寝息が聴こえてきた。
・・・て、寝るの早っ!!
私って抱き枕としての機能、バツグンなんじゃ・・・?
お腹にある天野くんの手に触れてみる。
大きくて、骨太で・・・男らしい。
なんとなく守られてる気がしないでもない。
不思議と嫌悪感は無かった。
私は天野くんのさっきの話を思い返してみることにした。
女の子探し・・・・つまりはお嫁さん探し、だと思った。
好きな女の子を自分の国に連れ帰ることが、天野くんの目的。
だから、初めは「女がいるとこ知らないか?」と聞いてきたのだ。
でもいつの頃からか、それもどうでもよくなってきている節がある。
もしかしたら、イヤイヤこちらに来たのかもしれない。
あぁ、そう言えば「兄貴のやつ・・・」っていつか愚痴ってたっけ。
きっとお兄さんに無理矢理飛ばされたんだろう。
「出口が風呂なんて有り得ない」って言ってたような気もするし。
なら、フツーはどこに通じるんだろ?
にしても、天野くんのお兄さんって、天野くんよりも怖いってこと?
もしくは、力ずくで?それでも天野くんより強いことには変わりないし・・・
考えたら恐ろしくなった。
思わずギュッと天野くんの手を握ってしまう。
少し天野くんが身動ぎしたような気がして、慌てて手を離した。
規則正しい寝息が聴こえている。
起きなくて良かったと胸を撫で下ろした。
でもまだ何か引っ掛かる。
天野くんは兄たちが女の子を「見つけて」来たと言っていた。
「見つける」と言うことは、何かしらの目印があるはず。
それとも、ドラゴン族特有の電波とかで探知するんだろうか。(こんなこと言ったら何されるか分からないから絶対言えない)
でも飛ばされた国にその女の子がいるという可能性の方が低い気が――――――あぁ、ワープ装置で探すのかな。
でも日本のどこにいるとかまでは分からないみたいだし・・・
結局のところ、私にはな~んも分からなかった。
背中の暖かさが心地よく、いつの間にか私は夢の世界へと誘われていた。
ちょっと短めでした。
次の更新は間が空くと思います…。
予定は…土日くらいかな?