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第7話 やっぱりドS!

 目が覚めるとベッドの中だった。

 一瞬、訳が分からなくなる。

 私、昨日は・・・・どうしたっけ?

 ソファーで寝ちゃったような気がするんだけど・・・

 モソモソと起き、洋服に着替え、リビングを横切る―――――と、スースーと気持ちの良さそうな寝息が聞こえてきた。

 ソファーを見ると、天野くんが昨日の服のまま、ぐでんと寝ていた。

 長い手足が二人掛けのソファーからはみ出している。

 長い睫毛(まつげ)、口は少し開いている。

 ・・・にしても、

「キレーな顔・・・」

 ふと、その額に触れたい衝動にかられ、伸ばしかけていた手を慌てて引っ込めた。

 反射的に天野くんを見ないように、くるりと後ろを向く。

 危ない危ない。

 もし触れて天野くんを起こしちゃったら、それこそ、何を言われるか・・・!

 再び天野くんを見ると、まだ寝息を立てていた。

 私は肩にそっと布団をかけてやる。

 起こすのも何だし、私は彼をそのままにしておいた。

 一応、おむすびを二つ作っておく。

 今日は午前中の授業なので、手紙を置いておくことにした。



天野くんへ

おはようございます。

昨日は楽しかった?

おむすびを二つ作っておいたので、よかったら食べてね。

私は大学に行ってきます。なにかあったら、メールしてね。

あ、できたら、あの改造したトースターを元に戻しといてね。

よろしく。

咲希より



 よし。こんなもんかな。

 ダイニングテーブルにおむすびと手紙を置いて、私はそっと部屋を後にした。

 小さな声で冷蔵庫が「いってらっしゃ~い」と言ってくれたのがちょっと嬉しかった。




「おっはよ~」

 万優子がニヤニヤしながらやって来た。

「あんたのせいで、昨日はニタニタしっぱなしだったわ」

「・・・妄想しすぎだから」

「だって、あの天野くんがご主人サマなんでしょ?んもぉ~、たまんないわっ!ヨダレもんよ!」

 をいをい。

 朝っぱらからイヤらしい妄想、止めてくれ。

「で?今日は?あんたのご主人」

「違うって。それ。天野くんはまだ寝てた」

「寝て・・・・って、同棲してんの?!そういや、昨日も『先に寝てて』って、チューしてたし・・・」

 しまった!

 自分で墓穴掘ったようなもんじゃない?!

 私は慌てて付け加えた。

「ち、違う違う!いつもメールで、おやすみするのよ。朝もメールしたら返信なかったから、寝てるんだな、って」

「あ~や~し~い~」

 あからさまに疑惑の眼差しを向けられる。

「じゃあさ、久し振りにあんたんとこ、行って良い?」

「ダメ」

 即答した。

「なんでよ。別にやましいことなんて無いんでしょ?」

「そうだけど、ダメ」

 だって、冷蔵庫とか洗濯機が喋るし、テレビ歩くし、時計は空飛んで喘ぐから・・・なんて言えません。

「どーしてよぉ!」

「どーしても!」

「 じゃ、今度天野くんとの初体験話しなさいよ」

「は・・・?!ちょっ・・・!まだだし!ってゆーか、そういう関係じゃないし!」

「え~?!うっそ~!!だって、天野くん、あんたが柔らかかったって嬉しそうに言ってたじゃない」

 嬉しそう・・・って・・・

 私は興奮状態の万優子をドウドウとなだめ、

「あれは、私をからかっただけで・・・。お腹つねっただけよ」

「・・・そうなの?」

「そ」

 モミモミしてたけど・・・

 ま、そこは言わないでおこう。

 万優子は「そっか~」と呟いてから、

「佐伯くんと葛城くんもまだ来てないみたいだし。昨日は夜遅くまではっちゃけてたんだろうね」

「だろうね」

 私の相槌に万優子は、少し驚いた様子で

「あんた、心配じゃないの?」

「なにが?」

「天野くん。浮気とかしてたらイヤじゃない?」

「あ~・・・」

 私はポリポリと鼻の頭を掻いた。

「今んとこ、全く気にしてない」

 きっぱりはっきり言うと、万優子は何故か大きく頷き、

「・・・それだけ愛されてるってことね」

「・・・・・違うから」

 無限ループに陥りそうで、私はもうこの話題を打ち切った。

 午前の授業をそつなくこなし、万優子とお昼をどうしようかと話していると、ケータイにメールが届いた。

「俺も出掛ける。飯、美味かったよ」

 差出人は、もちろん、天野くん。

 そのまま「いってらっしゃい」と返信した。

 よし。

 ふと、万優子と目が合った。

 すっごいニヤニヤしてるんですけど・・・

「今の・・・天野くんでしょ」

「なんで?」

「だって、あんた、すっごい嬉しそうだったから」

 マジか~?!

 いや、確かにおにぎり美味かったっていうのは、嬉しかったけど・・・

 それ以上は特に何も・・・

「いいな~。あんな彼氏。私も欲しいな~」

「・・・アニメ好きじゃないとね」

「一緒にコスプレしてコミケとか行きたいのよね~」

 そんなヒトいるんだろうか・・・

 探せばいる気もする。

 がんばれ、万優子!

 大学を出ようとしたところで、ばったり葛城くんに会った。

 眠そうに目を擦っている。

「あ、葛城くん。おはよう。・・・ダイジョーブ?」

「清原さん・・・。うん、ま、なんとか」

 言うと、優しく微笑んだ。

 癒されるわ・・・

「あれから、葛城くんたち何時くらいまで遊んでたのよ?」

 万優子が面白半分で聞いている。

 葛城くんは、やや困った顔を私たちに向けながら、

「2時・・・くらいかな。あんまり覚えてないんだよね。僕も佐伯も天野に世話になったから」

 あ、いつの間にか呼び捨てする仲になってる。

「・・・飲んでたの?」

「あいつ、ザルだよ」

 そんな感じはするけど。

 なんせドラゴン族だし?(意味ないって?)

 万優子は「へぇ!」と何故か感心している。

 葛城くんは、小さなため息をついた。

「凄いよ、天野。僕たちが飲んでたら、女の子グループに声かけられてさ。佐伯は喜んで相手してたんだけど・・・天野ってああ見えてっていったら清原さんに悪いかもしれないけど、女の子にはドライなんだよね。言い寄られてもうまく受け流してたし。凄い慣れてるなぁって・・・」

「へぇ、意外」

 言ったのは私、だった。

 それに驚く葛城くんと万優子。

「えっ?ちょっ、なに?」

「女の子にドライなのが意外ってだけ。天野くん、結構女好きだと思うのよね。前もキスマークとか付けてたし・・・・・って、どうしたの?二人とも」

「咲希と天野くんの関係ってさ・・・どうなの?」

「僕も同じこと考えてた・・・」

 万優子と葛城くんが、私を変なものでも見るような目で見ていた。

 なに?

 私は未確認生物かなにかですか?

 確かにあだ名はプーですけど。

「だから、私と天野くんは単なる知り合いだってば」

「でもねぇ、天野くんはあんたを気に入ってそうよ」

「飼い主、らしいからね」

 クスリと笑う葛城くん。

 なにか、あいつが喋ったのだろうか・・・

「・・・昨日、なんか言ってたの?」

「ん?ま、男同士の話だから」

 ・・・言ってたんだな・・・

 私はため息をついた。

「天野くんがどう言おうと、私たちは付き合ってないんだから。分かった?」

「はいはい。了解しました」

「僕も」

 クスクス笑う二人。

 ほんとに分かってくれたんだろうか。

 葛城くんとはそこで別れ、私と万優子はランチを楽しみ、お互いのバイトの時間までショッピングをした。

 ほとんどが「見てるだけ」のショッピングだったけど・・・

 でも久し振りに女子トークに花が咲いたというか・・・恋愛話になったというか・・・

 まぁ、面白かった。



 バイトも終わり、「お先に失礼します」と夜間の引き継ぎの男の子に挨拶し、私は夜道を一人歩き出した。

 と言っても、大通りにあるため人通りは結構ある。

 これが田舎だったら、こんな時間に女の子の一人歩きなんて危険すぎる!とかなんとか言われるかも知れないが、それは今のところ杞憂に終わっている。

 ま、こんな子に声をかける変なおっさんもそうそういないだろ。と、思う。

 大通りから、奥へ入り、突き当たりを左に曲がると私のアパートだ。

 ダッシュしたらものの数分。

 街の明かりで星も見えない夜空を見上げていたら、道の先の電信柱の後ろに誰かいることに気が付いた。

 道の端っこで何してんだろ?

 私はその人とは反対側を歩く。

 と、その人も向かい側の電信柱に移動した。

 えっ・・・

 思わず足が止まる。

 何だろう・・・

 偶然かもしれないと、反対側へ歩いた。

 すると、向こうの人影も反対側へ―――――つまりは、私の前方へ―――――と動く。

「?!」

 込み上げてきた感情は恐怖そのもの。

 引き返そうかと、右足を一歩後ろに出し―――――

 そいつが私に向かって走ってきた。

 右手にキラリと光る刃物らしきものが見えた。

「ひっ・・!!」

 一瞬遅れて、私も走る。

 すぐ目の前は大通り。

 ここまで来れば、さすがに人の目を気にするだろう。

 きっと大丈夫!

 あと一歩で、大通りに出るというところで、私はいきなりぐいっと手を掴まれた。

 もう追い付いたの?!

 そう思ったのも一瞬で、私は掴まれた反動でその人にぶつかった、というより抱き止められた。

「はっ・・・放してくださいっ!この・・・放せっ!」

 もう無我夢中だった。

 相手が何か持ってるのとか、何か言ってるのとか、もうワケわからない。

 ただ、じたばたともがいていた。

 すると、

「咲希!」

 その低い声に私はやっと顔を上げた。

 見ると、困ったような天野くんが私を見つめていた。

「あ・・・まの・・くん?」

「だから、さっきから名前呼んでただろ。気付くの遅すぎ」

 言い、口の端を少し上げる。

「遅いから待ってた。ちょっと脅かしてやりたくて・・・ごめん。やりすぎた」

 言うと、私の頬に触れた。

 そっと涙を拭われる。

 また、いつの間にか泣いていたらしい。

「ごめんな」

 今度はぎゅっと抱き締められた。

 天野くんの黒いニットに涙の跡がついていく。

 私は無言でただ抱き締められていた。

「また泣かせちゃったな・・・」

 小さく息を吐く天野くん。

 ほんとに、怖かったんだから!

 言葉の代わりに涙が静かに流れていた。



 テンションがた落ちの私は、天野くんに手を握られなから家路に着いた。

 もうほとんど飼い主でもなく、保護者って感じ。

 手を繋いでることも、私を安心させるためということも分かっていた。

 帰り道は会話もなく、ただ私の鼻をすする音のみしていた。

「・・・ごめん」

 家に入るなり、天野くんが口を開いた。

「そんなに怖がるとは思ってなかった」

「・・・もういい。分かったから」

 繋いでいた手を離そうとしたら、逆にギュッと握りしめられた。

「ほんとに?」

 言いながら、顔を覗き込んでくる。

 涙でびしょびしょの私は思わず顔を背けた。

「もういいって!言ったでしょ?!」

「じゃあ、こっち見ろよ」

「イヤ」

「なんで」

「イヤだから」

 ほんとは泣き顔を見られたくなかったんだけど、嘘をついた。

 天野くんは、小さなため息をつく。

 と、

「おっかえり~。プーちゅわ~ん」

 冷蔵庫がまたテテテとやって来た。

「あれ~?泣いてるの~?泣き顔もまた萌えちゃうね~」

「・・・お前が言うな」

 やや不機嫌な声で天野くんは冷蔵庫に言った。

 冷蔵庫はフフンと笑う。

「そうそう。ザ・・・ご主人がご飯作ってくれたんだよ~。プーちゅわ~んのために~」

「えっ?」

 思わず天野くんを振り仰ぐと、彼は「やっとこっち見たな」と笑った。

「エサで釣れるんだ?」

「・・・違う。ほんとに作ったのかなと思っただけ」

「ま、いろいろ改造したけどな」

 その言葉に、私は思い出した。

 そうだ。

 トースター!元に戻してくれたかな・・・

「天野くん、トースター・・・」

「脚下」

 なんでよ?

 ジロリと睨むと、天野くんが繋いでいた手をやっと離してくれた。

「いつか要る時がくるんだよ」

 言うやいなや、私を軽々と持ち上げた。

 つまりはお姫さま抱っこされちゃったのだ。

「ちょっ・・・!天野くん!重いから、いいってば!」

 恥ずかしいなんて、考えてなかった。

 ただ、重いから相手に悪い。

 それだけ。

 だって、ぎっくり腰とかになっちゃったら、シャレにもならないし。

「天野くんっ!」

「は?重くないぜ?昨日は葛城と佐伯運んだし」

 そういや、世話になったって言ってたっけ?

「プーは柔らかいし、気持ちいいな」

「その表現はイヤらしいから止めて!」

「真っ赤だぞ」

 間近で言われ、ますます私の顔は熱くなった。

「どこに降ろす?ベッド?」

「だ~~!!もうここでいいっ!」

「ベッドだな」

 靴を脱ぎ、一直線に寝室へ。

「ちょっ!ちょっと!!」

 ゆっくりとベッドへ降ろされたと思ったら、天野くんが覆い被さっていた。

 両手を私の顔の両側について体重をかけないようにしてくれてるけど・・・

 これって・・・・・襲われてる?私。

 天野くんは私をまっすぐに見つめて、ささやいた。

「あのトースター、使ってみるか?」

 あのトースター・・・・・・・って、アノ・・・?

「だ、だれが使うか~~!このエロドラゴン!!」

ごすっ

「ふごっ?!」

 私の頭突きはもろに天野くんの鼻に当たり、天野くんはおよそイケメンからは想像つかないような声を出してぶっ倒れたのだった。

 ざま~みろ。



「フツー、頭突きとかするか?」

 天野くんが自動調理マシーンで作ってくれた唐揚げを食べつつ、私は先程の文句を聞いていた。

「もうちょっと、マシな断り方があるだろ」

「・・・あんなこと言うからでしょ」

「ふぅ~ん。俺がキレても良かったわけだ」

ぎくっ!

 私は小さく震えた。

 確かに・・・そこまで考えてなかった・・・

「んじゃ、キレたら良かったな」

「ごめんってば。それだけは止めて」

「次は断るなよ」

 ・・・次は・・・って、次もあるんだ・・・?

 唐揚げが喉を通らなくなった。

 天野くんは固まってしまった私を見て、一人でクスクス笑っている。

「バカ。冗談だ」

「じょ、冗談?!なに、それ!ひど~い!」

「お前、反応、面白すぎだから」

 今度はゲラゲラと笑いだした。

 失礼にもほどがある!

 人をなんだと思ってるんだ?

 おもちゃじゃないぞ!

「もういい。先にお風呂入ってくる。片付けは後でやるから置いといてね」

 言い、立ち上がると、

「んじゃ、俺も入るかな」

「いい!やめて!」

 クスクスと笑うエロ王子。

 っとに、私の身にもなってみろ!

 頬をプーと膨らませていると、

「元気になったかな」

 すれ違い様にポンと頭に手のひらが置かれた。

 ・・・確かに元気にはなったけど・・・

「んじゃ、先に風呂行ってこいよ」

 言うや、自分は歩き回るテレビを呼ぶと何かの番組を観始めた。

「じゃあ、お先に・・・」

「ど~ぞ」

 ?

 なんかちょっと笑ってない・・・?

 あまり考えないようにしながら、パジャマと下着を持って、お風呂へ足を運んだのだが―――――――――


「天野くんっ!なによっ!アレはっ!」

 肩でゼーゼーと息をしながら、私はパジャマ姿で天野くんに迫った。

 天野くんは「お前、ああいうの好きそうだったから」と、さも楽しそう。

 こ~い~つ~は~!!

 絶対からかって遊んでる!

 私が困るのが楽しいんだ!

 ドSにもほどがあるっ!

「全身くまなく洗ってくれただろ?」

「うっさい!」

 お風呂に付加されていたのは、全自動洗浄マシーン―――――――つまりは、壁からニョッキリ手が生えてくるのだ。

 それも十数本・・・・

 もうくすぐったいの、くすぐったくないの・・・・

 もはや入る気になれない・・・・

 天野くんは、私がゲッソリしてるのを見て、一人ニヤニヤし、

「ん?イった?」

「誰がイくかーー!!」

 私の絶叫は、艶かしい時計の声と不協和音を奏でたのだった。



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