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第6話 エセプリンスの本名

「なに・・・これ・・・」

 朝イチでケータイショップに行き、私が二台目を契約することで、天野くんのスマホはゲットできた。

 その間、天野くんは部屋で静かに待っているはずだった。

 でも、やはりといってはなんだけど、またやらかしてくれてた。

部屋を見るなり、私は何度目かのフリーズをした。

 ソファーに座る天野くんは優雅に紅茶を飲みながら、さも当たり前のように「改良した」とほざいている。

「・・・元に戻してって・・・言ったよね?」

「そうだっけ?」

 手に持っていたカップをソーサーに置き、天野くんはそ知らぬ顔をした。

「俺、待たされるの嫌いなんだ」

 トースターは、あの改造されたままの姿だった。

 そして、さらに

「おっかえり~、プーちゅわ~ん。オレの茶でも飲む~?」

 冷蔵庫がチャラ男になってますけど??

「洗濯機ちゅわ~ん。ほら、こっちおいでよ~」

「わたくし、チャラい男とはお付き合いしたくありません!」

 ・・・前まで喋らなかった洗濯機までも話してるし・・・

 女なんだ、しかも・・・

「わん!」

「へ?」

 犬の鳴き声に足元を見ると、ドライヤーがコードをフリフリしている。

 どうやら、尻尾らしい。

「わんわん」

「・・・機能的にどうなの?コレは」

 無意味だと思うんだけど、と付け加えると、

「ヒマだったから」

 王子様はそうお答えになった。

 ・・・要らんもんが増えてる気がする・・・

「それ、電話?」

 天野くんは、私の手の中の紙袋を見付けると、もぎ取った。

 すぐに操作し始める。

「あ、まだ充電が――――――」

「くれ」

「・・・・・・・」

 手を出され、私は紙袋から充電コードを取り出した。

 今のところスタンドはいらないかな。

 天野くんはコードを差して、何やらやってる感じ。

「お昼どうする?なんか作ろうか?」

「それでいい」

 何も言ってないけど・・・?

 ま、何ても良いってことなんだろう。

 さっさと食べて、また大学に置き去りにしちゃえ。

 内心、そう決意していたら、キッチンに向かう私の背に、悪魔の声が降りかかってきた。

「また俺を置き去りにしようとでも考えてないか?」

ぎくっ!

「えーっと・・・ラーメン作ろうかな~」

「次はベッドでも改造しようかな」

「ごめんなさい。もう置き去りにしません」

「分かればよろしい」

 言って、くっと笑う。

 くそぅ!

 このエロ王子にベッドなんか改造された日にはお嫁になんか行けなくなる!

 すでに迎えは来ないって?

 ほっといてくれ。

 ラーメンを食べて、私たちは大学に行った。

 万優子にまだ天野くんのことは話してない。

 さて、何て言おう・・・

「おはよー・・・」

 気のない返事をして、いつものように授業を受けるべく教室に入る・・・と、

ざわわっ

 どよめきが波のように立った。

 なんでかって?

 決まってる。

 原因は私の後ろに立つ見た目は王子、頭脳はただのエロこと天野リュウ!

「あー!咲希!やっときた!」

 私の友達の酒井(さかい)万優子(まゆこ)が、私を見るなりそう叫んだ。

 ストレートの長い髪にメガネ、しかもスレンダー。

 美人なのに、ちょっとオタクなのがたまにキズだった。

 そういう私も結構なゲームマニアだったりするけど、今は好きなゲームが出ないのでしていない。

「えっとね、彼は――――――」

「こいつの飼い主の天野です」

 私の頭越しに天野くんが自ら名乗った。

「えっ?!」

 万優子が目を丸くした。

 飼い主って・・・・・私は犬ですか・・・・

 そんな私の批難の視線に気付き、 天野くんは私をぎろりと睨んだ。

 ・・・・だから、怖いって、それ。

「咲希・・・・・あんた、そ~ゆ~趣味なの?」

「・・・どういう意味よ?」

 首を傾げる私に代り、天野くんが口を開いた。

「そ。さすが、よく分かってるな」

 再び、万優子が息を飲むのが分かった。

 天野くんはフフンと笑い、

「ということでよろしく。 メガネが可愛いお嬢さん」

 万優子がエセプリンススマイルに悩殺されたのは言うまでもない。



「ねぇ、咲希、どこで知り合ったの?」

 授業中、万優子が興味津々といった顔で聞いてきた。

 天野くんは葛城くん含む男の子たちと話している。

 なんでもいいけど、馴染むの早すぎ!

 私はちょっと考えてから、

「バイトで、ね」

 と答えておいた。

 お風呂の壁から出てきました!なんて、口が裂けても・・・って、もういいや。

「バイト?咲希のバイト先ってレンタルビデオショップでしょ?あ、わかった!彼がお客さんで、常連になって、いろいろ話すうちに・・・ってやつでしょ?きゃ~、ステキ~!」

 一人盛り上がってますけど・・・

 ははは、とから笑いをし、「まあね」と頷いた。

 大学の広い講堂の後ろの一角に座り、授業を聞いていたのだが・・・天野くんたちが気になって全く集中出来ない。

 彼らはケータイを取りだし、何か楽しそうにこそこそ話してる。

 変なこと言ってなきゃ良いけど・・・

 と、思っているとケータイが震えた。

 誰かな、と思いメールを開けると、

「今日、こいつらと飲みに行くから」

 とだけあった。

 差出人はもちろん、天野くん。

 私のメアド、どうやって知ったんだろう・・・

 聞くのも恐ろしいので、私は「リョーカイ!」と返信した。

 ついでに天野くんのメアドを登録する。

 名前は「エロドラゴン」

 我ながらうまいと思う。

 午後の授業が終わり、何故かみんなでお茶でもしようとファミレスに行くことになった。

 メンバーは、私と万優子、天野くん、葛城くん、そして、なぜか天野くんと意気投合してる佐伯(さえき)宏樹(ひろき)

 茶髪の短めの髪にワックスを付けて立たせている。

 左耳にピアス。

 顔は・・・まぁ、かっこいいほうじゃないかな?

 性格は軽いけど・・・

「天野ってさ、デブ専?」

 ブッと出されたお水を吹き出したのは、私と万優子と葛城くん。

 ほ・・・本人目の前にして言うセリフか・・・?

 私を挟んで万優子と天野くんが座り、向かい側には葛城くんと佐伯くん。

 葛城くん・・・またフリーズしちゃってるけど・・・

「デブ専って?」

 きょとんとした顔で聞く天野くん。

 えっ・・・知らないの?

 佐伯くんは、にやりと笑い、私を指すと

「清原みたいな子がタイプ?」

 言うねぇ~・・・佐伯くん・・・・

 ほら、葛城くんがひきつってるよ。

 本人目の前なんですけどねぇ。

「あ~。そういうこと?」

 天野くんは、な~んだ、と頷くと

「柔らかい咲希がタイプ」

 ・・・・・・・・なに、言っちゃってるの?

 しかも名前、呼ばれたし・・・・

 覚えてたんだ・・・

 絶対忘れてると思ってたのに・・・・

 私と天野くん以外はフリーズしてた。

 天野くんは口の端を上げ、

「咲希って、どこもかしこも柔らかいんだぜ。ま、俺以外触らせないけどな」

 ・・・・だから、なに言ってるのよ。

 みんな、誤解するでしょうが・・・

 ちらりと目の前の葛城くんと佐伯くんを見ると、「こいつら、マジでヤッてんのか」的な顔をしている。

 いや、してません。

 な~んにもしてませんから。

 ギギッと隣の万優子を見ると、

「天野くんのベッドシーン・・・・どんなにエロいのかしら・・・・」

 あっ・・頭の中で、妄想中?!

 しかもベッ、ベッドシーン?!

 昼からハード!

「あ・・天野くん・・・」

「ん?」

 チーズケーキを食べる彼の肘を、私はつついた。

「あの・・・誤解を招くような言い方、やめてくれない?」

「あぁ?だって、お前、柔らかいだろ。ベッドの中だって」

『!!』

 決定打。

 自爆した。

 もう真っ赤を通り越して、どす黒くなってるんじゃないかな、この顔!

 もはや、前も横も見れない・・・

 一人クスクスと笑っているエロ王子。

 くそぉ・・・なにか、仕返しを考えなきゃ・・・でもぶちギレられると死ぬほど怖いし・・・

「あ~あ。昼間っからのろけちゃって。カ~暑いね~」

 佐伯くんが冷やかす。

 天野くんは「羨ましいだろ」とさらりと受け流している。

 あ~・・・やっぱりまだまだ慣れない・・・

「清原さん、大丈夫?」

 優しい声に顔を上げると、心配気な葛城くんと目が合った。

「ゴメンね、佐伯のこと」

「えっ?いいよ、別に・・・。こっちこそ、天野くんが変なこと言ってゴメンね」

「それは良いんだけど・・・清原さん、なんか困ってるみたいだから・・・」

 確かに本気で困ってるのよぉ!

 このエロドラゴン王子をどーにかして!

「ね、ねぇ。今日って皆で飲みに行くんでしょ?天野くん、注意しといてね。その・・・怒らせないでね?」

 ドラゴンになるから、と心の中で付け加えておく。

 葛城くんはちらりと天野くんを見た後、

「心配なんだね、清原さん」

「えっ・・・」

「天野くんのこと」

「いや、そうじゃなくて!」

 彼はなんとかって国のドラゴン族で、なんかするために日本にやって来たんだけど、どーゆーわけか、私のお風呂場にワープしちゃったんです!

 ただの事故なんです!

 そーなんです!

 って、力説したい。

「へぇ、俺のことが心配なんだ?」

 隣の天野くんが私を覗き込んだ。

 だから、そんな風に私を見つめるなっつーの!

 また顔が熱くなってきたのが自分でも分かる。

 ダメだ・・・免疫無さすぎ・・・

「朝帰りはしないけど、先に寝てろよ」

 言うや、あろうことか私のほっぺに軽くチューをした。

 をいをいをいをいをいをいをいをい!

 なっにをやっとんじゃ~~!!

 ちらりと隣の万優子を見ると、良いもんを見た的な顔でニタニタしている。

 あぁ、きっと、彼女の妄想はどえらいことになってんでしょうね・・・

「な?可愛いだろ」

 エセプリンスが何故か皆に同意を求めてる。

 私はもう・・・・・貝になりたかった。



 バイトから帰り、私は簡単にシャワーだけ済ますとリビングのソファーに座った。

 はぁ~とため息をつく。

 ファミレスでおやつを食べたあと、天野くんたちとは別れた。

 万優子と私は再び大学へ。

 天野くんたちは、どこかへ遊びに行ったようだった。

 ま、カラオケかなんかだろう。

 それにしても、天野くんはどうして私をからかうんだろう?

 ただ単に面白いから?

 あっちの国では、私みたいな女の子がもしかしたらいないのかもしれない。

 それだったら、話の辻褄つじつまは合う。

「そうよね。私みたいなのにキョーミ持つはずないし」

 独り言をいい、コーヒーを一口。と、

「プーちゅわ~ん。どしたの~?」

 冷蔵庫くんがテテテと寄ってきた。

 うお。

 いつのまにかコードレス!

「な~んか元気な~いんじゃな~い?」

「そんなことないよ、ありがと」

 つい、にっこりと笑いかけてしまった。

 相手は冷蔵庫だというのに・・・

 端から見たらなんて虚しい絵なんでしょう。

「洗濯機ちゃんてばさ~、オレのことキライって言うんだよ~。いやんなっちゃう」

「冷蔵庫くんは洗濯機ちゃんが好きなんだ?」

「そうだよ~。くるくる回って可愛いだろ~?」

 ・・・いや、洗濯機はくるくる回るものだろう?

 なんて、言えません。

「羽時計ちゃんがあんな声出すからさ~、オレたまんなくて~」

「そ、それは天野くんに言わないと」

「天野くん?って?」

「は?」

 冷蔵庫くんは扉をパタパタと開け閉めしている。

 冷気が逃げるからやめて、節電しなさい!

 私は、ちょっと考えてから

「あなたを改造した人よ。あれが、あま――――――――」

「あ~、ザイツァル?」

 ・・・・・・・・・・・・・だれ?

「なに?プーちゅわんには、『あまの』って名乗ってんの?おっかし~!」

 言うと、冷蔵庫くんはまたパタパタと扉を開け閉めする。

「ざ・・・なに?」

「ザイツァル。オレら作るときってさ、作った人の名前の登録とかするんだよね~」

「ザイツァル・・・」

 それが、天野くんの本名。

 そう言えば、向こうでの名前も聞かなかった。

 カタカナばっかのややこしい大陸や国の名前で、頭が混乱してたし・・・

「ザイツァルか・・・」

「帰ってきたら、呼んだげれば?」

「そだね。そうしてみようかな」

 ちょっと反応が楽しみだった。

「洗濯機ちゃんと仲良くなれればいいね」

「さんきゅ~で~す」

 ・・・軽い・・・

 それをどーにかこーにかしたら、きっと彼女も振り向くと思うのだが・・・

あ~ん あ~ん あ~ん あ~ん あ~ん あ~ん あ~ん あ~ん あ~ん あ~ん あ~ん イク~

 12時の時計が喘いで果てた。

 昨夜、初めて聞いたときは顔が真っ赤になって、天野くんに食って掛かったけど、心構えがあるのとないのではかなり違う。

 そういや、あいつ、朝帰りにはならないとか言ってなかったっけ?

 ま、男同士、どっかほっつき歩いてるんだろう。

 あわよくば、お姉さまがたにお持ち帰り願いたい。

 でも、街中でドラゴンなんかに変身しちゃったら・・・・・

「やばくない?!」

 私はソファーから立ち上がった。

 ドラゴンなんか出た日には、絶対街は大パニックだ。

 警察や果ては自衛隊とかも来るんじゃ・・・

 つーか、フツーはお風呂に変な男がいたら、警察に通報・・・だよね。

 あ~、でも事情聴取されたら、嘘ついてると思われること間違いないし・・・

 でも証拠も無いわけだし・・・

「・・・通報しなくて、正解だったかな・・・」

 再び腰掛け、ケータイのメールをチェックする。

 メールでダイジョーブか聞いてみよう。

 それくらいならいいかな・・・

 でもなんか心配してるみたいに思われるんじゃ・・・

 そしたらまたからかわれるし・・・

「どうしよーかなー」

 ソファーに横になると、ドライヤー犬がすかさず飛び乗ってきた。

 それを抱っこして瞳を閉じる。

 冷蔵庫くんが洗濯機ちゃんをデートに誘ってる声が聞こえる。

 デート・・・って、どこ行く気なのよ。

 喋って歩ける機械ってだけで、大騒ぎよ。

 でも、そんな機械を簡単に作っちゃう天野くんって凄いと思う。

 それともそれだけ文明が発達してるってことかな?

 皆、あんなふうに改造なんか出来るのかしら・・・

 それともコレも魔法かなにかの力だったりして・・・

 睡魔が襲ってきた。

 あ~・・・私、このまま寝ちゃいそう・・・

 ドライヤー犬の寝息を聞きながら、私も夢の中へと落ちていった。




 夢を見た。

 黒いドラゴンの背に乗っていた。

 見たこともない景色が広がっている。

 街は遥か下に見える。

 でも、不思議と恐怖は感じなかった。

 風と一体化したような爽快感。

 そして、ドラゴンに守られているような安心感。

 私は、このドラゴンの名を知っていた。

「・・・ザイツァル」

 私を振り返ったその瞳は美しい金色だった。




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