第4話 エロドラゴン
「疲れた・・・」
確かに浴槽に布袋はあった。
おそらく、ワープしてきたときに持ってきたのだろう。
昨日、お風呂に入るときに気が付いて、ソファーの近くにそのまま置いといた。
中身を確認していなかったから、さっき見て驚いた。
「諭吉さんがいっばい・・・」
しかも束で。
・・・泥棒?
いやいや。彼はトリップしてきたんだし・・・向こうで泥棒して逃げてきたってのも考えられる。
でもなんたら国の通貨が日本と同じわけはないから・・・
どうしよう・・・
迷いに迷って、私は諭吉さんの束から何枚かいただき、買い物に出掛けた。
メンズショップなんて、通りすぎるだけの存在だったのに、まさか全身コーディネートを考える羽目になるとは。
ま、基本、マネキンが着てるものでいいか。
だいたい2着ずつ購入し、下着は少し多め。
って、ボクサータイプので良かったんだろうか・・・?
ま、イヤなら自分で買ってきてもらうとしよう。
パジャマ兼部屋着も買ったし。
必用最低限のは買えたかな。
大荷物でやっと家に帰ったのは夕食時だった。
「ただいま・・・何もなかっ―――――――」
玄関に足を一歩踏み入れたところで、私は固まっていた。
部屋が・・・・・どえらいことになってるんですけど?!
「おかえり」
天野くんは、ちらりと私を見ただけで、手だけを忙しそうに動かしている。
腰タオル一丁で。
「な・・・なにやってんの?」
「ん?ヒマだったから、ちょっと改造」
いや、しないでいいし!
テレビ、なんか歩いてますけど?!
窓を拭いてるあれは、なに?
掃除機?
ノズルの使い方間違ってますけど?!
「オカエリナサイ、プー」
「喋った?!しかもあだ名?!」
冷蔵庫から、機械的な声がした。
「ナニカノミマスカ?」
「いい、要らない」
「オチャガヒエテマス」
「要らないってば」
「ジュースハイカガー」
「うっさい!喋るな!」
カッとして冷蔵庫に言うと、彼(彼女?)は黙ってくれた。
天野くんがくっと笑う。
「冷蔵庫くらいでキレなくても」
「余計な機能付けないで!」
時計が空中を羽ばたきながら6時を告げた。
ア~ン ア~ン ア~ン ア~ン ア~ン ア~ン
・・・艶かしい女性の声が何故に羽の付いた時計から聞こえるのかしら?
ギギと首を天野くんのほうへ回すと、彼は意地の悪い笑みを浮かべ、
「煽られるだろ?」
この、エロドラゴンが!!
右手のグーをぷるぷる言わせてると、さらに彼は続けた。
「お前の真っ赤になった顔、見るの楽しいんだ。12時になったらどーなるかな」
と、さも楽しそうにクスクス笑う。
12時・・・12回も喘ぐのね・・・
つーか、12時になったら、ナニかあるの・・・?
ああ、あるみたいね、あの顔は・・・
天野くんは「出来た」と、やっと手を休めた。
そこには、トースターがあった。
パンが飛び出すタイプのやつなんだけど・・・なんか、形が違ってるし・・・
恐る恐る私は訊いた。
「・・・なに、作ったの?」
「ん?これ?」
天野くんは、ニヤッと笑い、
「避妊具自動装着装置」
「そんなんいるか~~!!」
私は真っ赤になりながら、手にしていた紙袋をエロ王子に向かって投げつけていた。
「怒るなよ」
「うっさい!ちゃんと元にもどしてよね!」
夕食を食べに、私たちはファミレスに来ていた。
もちろん、天野くんは私が買ってきた服を身に付けている。
グレーのパーカーにジーンズ、靴は履いてきた茶色の革靴だったけど、まぁラフな格好だった。
何を着ても様になる。
ちなみに私は、薄い緑のカットソーにブラウンのロングカーデ、ベージュのキュロットにタイツ、ブーツといった、いかにもフツーの女の子。
平日の夕食時、そんなにお客さんはいないけど、さっきから、若い女の店員さん、チラチラ天野くんを見てたりする。
そりゃそーだ。
こんなイケメンがなんで私なんかといるのよって、等の本人が一番聞きたい。
注文したハンバーグを食べる。
「旨いな」
いったい、なんたら国ではナニを食べてたの?
なんて、口が裂けても言えません。
って、前にも言ったな、このセリフ。
「なぁ、機嫌直せよ」
「・・・元に戻してよね」
「分かったって。あ、避妊具のやつはそのままでも―――――」
「ソレを一番に戻しなさい!」
クスクスと笑う見た目は王子、頭脳はただのエロ。
その名は・・・天野リュウ!
ぎろりと睨むが、天野くんは素知らぬ顔でハンバーグを食べている。
んも~・・・そういう系の話には免疫無いってのに・・・
「なぁ」
いきなり声をかけられ、私は文字通り飛び上がった。
「なっ・・・なに?」
「さっきから、なんかこっち見てるヤツらいるんだけど…」
今頃気づいたの?
私はため息をついた。
あぁ、幸せが逃げていく・・・
「みんな、天野くんを見てるのよ。私なんかとどうして一緒にいるのか、不思議なんでしょ」
「どーして?」
さも不思議そうに、天野くんは腕を組んで考え込んだ。
椅子の背もたれに体重をかける。
「・・・自覚・・・ないんだ?」
「何が?」
「いや、自分がかっこいいってこと」
天野くんは目を丸くした。
「そっち?」
「どっちよ?!」
思わずツッコミを入れてしまった。
天野くんは前髪をかきあげ、
「いや、俺が考えてたのは、お前といるのがなんで不思議なのかな~ってこと」
あ~、成る程。
それで、「そっち」か。
私は、あのね、と前置きして、
「天野くんクラスならね、フツーはキレーなお姉さまを連れてるのが常識みたいな感じなのよ」
「なんだよ、それ」
天野くんは、プッと吹き出した。
「じゃ、さ。お前クラスだったら、どういうヤツを連れてたらいいんだ?」
「えっ・・・」
考えたこと無かったな・・・
きっと地味でお世辞にもイケメンとは言えない男子なら、誰も何も文句は言わないんだろうけど、そんなんは私がイヤだ。
かといって、天野くんみたいなイケメンくんだと睨まれるし・・・
「おい。プー」
考え込んでいた私に、優しい声が降りかかった。
「な?一緒にいたいヤツと一緒にいればいーんだ。他のヤツらなんか気にすんな」
なんか、うまく丸め込まれたような・・・
でも反論も出来ないし・・・
つまり、天野くんは私と一緒にいたいんだ。
それはなんとなく伝わってきた。
「うん。そう・・・・かもね」
私は小さく頷くと、食後のアイスコーヒーを一口飲んだ。
場面転換とかもあって、短めになってしまいました。
徐々になぜだか長くなりますので。




