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第3話 俺、参上

「あ~、疲れた」

 大学からダッシュでアパートに帰り、そのまま逃げるようにバイトへ行った。

 シフトまではかなり時間があったけど、本屋兼ビデオレンタルショップなので店内でうろうろすることで時間を潰していた。

 そのバイトも終わり、只今、夜の10時。

 部屋の鍵を開け、いつものように電気を付けて、ベッドへダイブ。

 ちょっと固めのマットが気持ち良い。

「あいつ・・・・・・どーしてるだろ」

 ふと、大学に置き去りにした自称私の飼い主のことが気になった。

 あのままいけば、おそらくお姉さま方にお持ち帰りされるだろう。

 ま、理由は分からないけど、女の子を探してたんだし。

 目的は達成されたのかな?

「私にはもう関係無いかな」

 言うと、私はお風呂へと足を運んだ。

 身体を洗い、湯船に浸かる。

 ここから出てきたのよね~。

 しかも今朝。

 もう変なのは出てこないと思うんだけど・・・・って、もしかして・・・

 悪い予感がした。

「もしかして、もしかしなくても・・・帰るときも・・・ココから?とか?」

 壁を思わず触ったが、ひんやりしたタイルの感触しか伝わって来なかった。

 あいつ・・・・・いつ帰るんだろ。

 来たときと一緒で、唐突に帰るんだろうか。

「私がアレコレ考えても仕方ないか」

 お風呂から上がり、パジャマに着替える。

 髪を乾かしつつ、リビングへ。

 いつものように何の気なしにテレビを付け、お風呂上がりのお水をちびちびと飲み、ケータイのメールをチェック。

「ま・・・万優子から24通・・・?!」

 そういえば、大学からバイトまでチェックはしてなかったけど・・・。

 それにしても多いと思う。

 万優子は私の友達で、ゼミ仲間でもある。

 たいてい、溜まってても2~3通なんだけど・・・

 メールを開けてみた。

「咲希!あのイケメン誰よ?」

「ちょっと!あのイケメン、女の子はべらせてるけど、ダイジョーブなの?!」

「咲希!どこにいるのよ!イケメンが女の子連れて歩き回ってるわよ!」

「咲希~!イケメンが―――――――」

 もう読むの止めよ。

 つまりは、天野くんの報告?をしてくれてたらしい。

 しかも、私が連れて来たのを知ってるし。

 ・・・どこから見てたんだろ。

 こわっ。

「明日、話すから」

 簡単に返信しといた。

 でも何から話そう・・・て言うか、どーやって誤魔化そう・・・

 いくら親友とは言え、壁から出てきました!なんてことは言えない。

 なるようになる・・・といいけど・・・。

 いつの間にか時計が12時を告げた。

 歯磨きを済ませて、私はベッドに入ると瞳を閉じた。




 いつもの朝の日課|(アパートの掃除)が終わり、着替えを済ました時、

ピンポ~ン

 玄関のチャイムが鳴った。

 こんな時間に?

 母さん、何か送るって言ってたっけ?

「は~い」と声を出し、ドアへ向かった。

 チェーンを付けたままドアを開けると、

「・・・・・・入れろ」

「あ・・・天野くん?!」

 髪はぼさぼさ、目は虚ろ、服はぐしゃぐしゃの天野くんが立っていた。

「早く入れろ」

「ちょっと、待って」

 チェーンを外し、ドアを開けると、フラフラと天野くんが入ってきた。

「・・・どうしたの?てか、よく私の家分かったね」

「お前の・・・匂いがしたからな」

「匂い・・・って」

 犬じゃん。

 危うく出そうになった言葉を飲み込む。

 天野くんはフラフラと私のベッドに近づいていく。

「ちょっと!天野くん!」

「・・・寝る」

 言うや、天野くんはそのままベッドへダイブして、すぐに寝息をたて始めた。

「な・なんなのよぉ・・・」




 天野くんが目を冷ましたのはそれから4時間後だった。

 お昼にオムライスを作ってあげると、それを黙々と食べたあと、天野くんはやっと口を開いた。

「なぁ、この国の女って、さかってるのか?」

ぶっ!

 飲んでいたお水を吹き出してしまった。

「汚ぇなー」と天野くんがしかめ面をする。

「な、なんで、そう思うの?」

「あぁ?なんかみんな誘ってきたから」

「・・・あぁ、さいですか・・・」

 良かったですね、と付け加えておく。

 天野くんは、ちょっと考えてから、

「でもお前はそういうの無いな。なんでだ?」

「なんでって、聞かれても・・・。天野くんにキョーミないし」

「・・・・・」

「外見より中身でしょ。人をペット呼ばわりするヤツなんか、私はパス」

「ほぉ」

 天野くんの目が、すっと細くなった。

 私はそれを半ば無視し、

「どっちかっていうと、天野くんのほうがペットよね」

「はぁ?」

「だって、ここは私の部屋だし。勝手にお風呂から出て来たのはそっちでしょ?部屋の主人は私だし」

「で?」

 天野くんは、持っていたスプーンをふりふりする。

「なんでそれで俺がお前のペットなんだよ」

「だ・だって、ご飯だって、私が作ったし・・・」

「だから?」

 い・・・威圧的・・・。

 私は手をグーにして、力を入れた。

 ここで負けるわけにはいかない!

 そんな気がした。

「じゃあ、なんで私のとこに帰ってきたのよ?それって、犬とかの帰巣本能とかいうやつじゃないの?」

「あぁ?!」

「飼い主のとこにちゃ~んと戻ってくるなんて、おりこうなワンコよね。それに、さっき、あんたも言ってたじゃない。『私の匂いがした』って。鼻が良いこと」

「・・・・・・」

「それにチヤホヤされたいんなら、綺麗な女の子のとこにいれば良かったものを。な~んでわざわざここに来るかな~?それくらいちっこいトカゲでも分かりそうなもんなのに」

「・・・今、なんつった?!」

 天野くんの声のトーンが変わった。

 急激に温度が下がった気がする・・・

 でもでも!私は気力を振り絞り、

「何度でも言ったげるわよ!どーせ、脳ミソは小さいトカゲサイズなんでしょってこと!」

「てめぇ・・・・・・!!」

 地獄の底からの声って、こんななんだと思うほど、天野くんは激怒していた。

 か・・・かなり怖いんですけど!!

「よりにもよって・・・この俺とあんなヤローを一緒にしやがって・・・!!」

 天野くんはかなり立腹してらっしゃるご様子。

 いきなり、 ギロリと睨まれた。

「ひっ・・・」

 思わず口から悲鳴が洩れる。

 天野くんの瞳、金色に光ってる・・・

 怖い。

 思わず後ずさる私と、仁王立ちになった彼。

 彼の黒髪が風もないのに、さらさらと舞い上がっていく。

 それは段々伸びて、天井付近まで到達した。

ゴゴゴゴ・・・・

 地震のような振動。

 その発生元って、やっぱりこいつ?!

 つーか?ナニもんだ、コレ?!

 天野くん(らしいもの)は次第にでっかくなっていき、ビリビリと服を引き裂いて・・・ って、ちょっとヤバくない?!

 あ~!ズボンが破けたって!

 いやいやいやいや、あかんでしょ!

「あ・・天野くん!ごめんっ!私が悪かったから!謝るから!もう落ち着いて~!」

 私は彼の足にすがった。

 こんなシチュエーション、ドラマの中だけだと思ってた。

 まさか、私がするなんて!

 金色の瞳が光った。

 うわっ。なに?

 ビームでも出す?

 私、死ぬ?

 つーか、どっちにしろ、殺されそうだし!

「天野くん!天野リュウ!目を冷ませっ!」

 もはや体長は天井にまで達していた。

 でかいっ!!

 つーか、全身黒いぞ!!

 足をゆさゆさと揺する。と、

「・・プー・・・・・?」

 やや穏やかになった声がした。

 見上げると、瞳は黒色に戻っている。

 それからは、あれよあれよと言うまに、巨大化していた身体は戻り、髪の毛も元に戻った。

 ボサボサだけど。

「・・・あ・・・悪ぃ・・・」

 寝起きのように、彼は頭を掻きながらポツリと言った。

「ちょっと・・・・・キレた」




 リビングのテーブルの上に暖かいココアを置く。

 私はいつものコーヒー。

 洋服がぼろぼろズタズタになってしまった天野くんは、上半身裸で、腰にはバスタオルを巻いている。

 もう、ほとんど真っ裸です。

 パンツ?

 巨大化したら、なんだってビリビリでしょ。

 アニメくらいよ、下着だけやけに伸びる生地でできてるのは。

 先ほどの出来事に悪びれた様子のあまり無い天野くんは、思い出すのも腹立たしいとでも言うように、大きく息を吐いた。

「・・・あのあと、大変だったんだ」

 そう切り出し、教えてくれた。

 私が猛ダッシュして逃げたあと、葛城くんとしばらく茫然としていたらしい。

 すると一人の女の子が寄って来たと思ったら、とたんに集まってくるわ、集まってくるわ。

 それは凄まじいまでの女の子の数だったらしい。

 いつの間にか葛城くんとは別れ(ってか逃げられ?)カフェへと場所を移し、あれやこれやと聞かれ、遊びに行こうと無理やり誘われ・・・。

 やけにくっついてくる女の子たちから逃げようものなら、回り込まれて腕を引っ張られるわ、どっかに連れ込まれるわ・・・。

 って、きっちりやってらっしゃるんだから、お互い様だと思うんだけど・・・

 口に出しては言えません。

「それで、女たちが寝てる隙にこっそり出て、お前の匂いを嗅ぎ付けて、帰ってきたってわけ。ま、どっかでゆっくりしたかったのもあるしな。一晩中、するのも疲れるし。寝たかったし」

「女たち・・・っ・・・て・・・。ま、まぁ良いけど・・・」

 同時に一体何人とヤったんでしょう?

 知りたくありません。

「で、寝起きにお前がヤイヤイ言うし、挙げ句の果てにはあんなヤローなんかと比べられるし。そりゃ誰だってキレる」

 キレるって・・・。

 キレかたが尋常じゃないんですけど・・・。

「ねぇ・・・嗅ぎ付けてって・・・私、香水とか付けてないよ?」

「ああ。だから、お前は臭くない」

「くさっ・・・って、あのね~」

 私は苦笑した。

「まぁ、香水の匂い、ダメな男いるしね。私もキツイのはイヤかな」

「で、いろいろあってキレた。・・・・・泣かして悪かったな」

「・・・・‐・もういいし」

 天野くんの変貌ぶりに、私はいつの間にか泣いていたらしい。

 それすらも気づかなかったなんて、我ながら情けない。

 てか、恥ずかしいからもう言わないで。

「つーか、ニンゲンの女って凄いな」

 その言葉に、私は思い出した。

 まじまじと隣のイケメンを見る。

 そして、今まで聞かないでいた質問を口に出した。

「・・・・・・あなた、何者?」

「あれ、言ってなかったか?」

 天野くんは、さらりとこう言った。

「俺、ドラゴン族だけど?」

 しばしの間。

 遠くで救急車のサイレンの音がしている。

 物干し竿を売っている車がアパートの前を通り過ぎた。

 あんなの売れるのかな~。

 確かなぜ売れるかっていう本があったよな~。

 どれくらい現実逃避してたんだろう。

「おい。プー」

 気がつくと、天野くんが私の顔の前で右手をヒラヒラしていた。

「俺、ドラゴン族」

「あ~分かった。分かったから」

 私は大きく頷いた。

 冷めたコーヒーを一口すする。

「で?それってなに?もしかして・・・もしかしなくても、やっぱ異世界から来た・・・とか?」

「そ。ギャリックシュロス星のダランジード国のリュッセル・・・・」

「あ~、もういいわ」

 頭の中がカタカナばっか。

 何がなんだか・・・

「で?なんで、ドラゴン族のあなたがこんなとこへ?」

「兄貴たちに、ハメられたっつーか、騙されたっつーか・・・」

「ふ~ん。で、何のためにこんなとこへ?女の子探してたのと関係ある?」

「・・・ま、な。でも今はあんまり言いたく無い」 

 言うと、天野くんはまたココアを一口飲んだ。

 これで、分かった。

 天野くんが日本も知らなかった理由。

 大学も知らなかったところを見ると、天野くんの国にはそういうものが無いらしい。

 どんな国なんだろう?

 私は単純に天野くんのなんたら国が気になっていた。

 日本までワープできる装置みたいなのがあるってことは、ここより発達してるはず。

 でも、言語や服、顔形は日本人のものだし・・・って、もしかしてそれも魔法か何かで変身してたら・・・

 想像するだけで、おもしろかった。

「ねぇ、もしかしてさ。こっちにワープするときに言語や服も装置で変えた、とか?」

「よく分かったな」

 目を丸くする天野くん。

 私は少し自慢気に言った。

「だって、そんなヘンテコな星でなんとか国って言われたら、絶対日本語なんて話せないはずでしょ?しかもドラゴン・・・なんでしょ?・・・本当の姿がドラゴン?」

「ばか。んなわけあるか」

 ・・・なんかバカにされたんだけど。

 小首を傾げていると、天野くんはくっと笑った。

 なんか久しぶりに見た気がする・・・天野くんの笑顔。

「本来の姿は今みたいな感じだぜ?ま、親父はめんどくさいってだけで、ずーっとドラゴンのままだけどな」

「お父さんがドラゴン・・・なんだ・・・。へぇ~・・・」

 想像したら、なんだか凄い。

 寝転んでテレビを見てるドラゴンの父。

 その側には片付けをしている母ドラゴン・・・

 お・・・面白すぎる・・・

「おい・・・・・・またナニ考えてるんだ?」

 はっ。

 またトリップしてた。

「お前な~・・・ったく」

 小さく舌打ちし、天野くんは「ジャマ」と言いソファーにごろりと寝そべった。

 天井を睨む。

「ま、お前で良かったかもな。しばらくここにいるから、よろしく」

「は?」

 目が点になった。

 あの、今、なんと・・・・?

「あ、金ならあるから。風呂に置いてなかったか?あれで俺の服、買って来い」

 命令かよ?!

 一方的に言うと、そのまま目を閉じた。

「じゃ、疲れたから寝る」

「あ・・・天野くん?!」

 起こそうにもほぼ全裸の男を触れるはずもない。

 スースーと気持ち良さそうに眠る男は、ドラゴンと言うよりもほんとに王子様で、思わず見とれてしまうほど。

「ちょっと・・・どーすんのよぉ・・・」

 私の独り言は、王子様の寝息に吹き飛ばされていった。





サブタイトル、考えるのが結構めんど・・いや、大変。

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