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第2話 パラレル天野くん大学へ

 女の子の多いところ・・・ってことで、私は自分の大学に天野くんを渋々連れていった。

 これだけのイケメン、やはり通りすぎる女の子たちから黄色い歓声(らしきもの)が上がる。

 それとともに、私に突き刺さる冷ややかな視線。

「だれ、あのデブ」

「なんであんな子があんなイケメンを連れてるワケ?」

「あり得ないんだけど~」

 などなど。

 ま~、女子の妬みってば凄い。

「へぇ。ダイガクって、女が結構いるんだな」

 自分への視線を全く気にもとめず、少し楽しそうな天野くん。

 あ~失敗したかな~・・・

 私は今更ながらちょっと後悔していた。

 大学に行こうと言ったのは私だった。

「ダイガク?なんだそれ?」

「え~っと・・・勉強したりするところ、かな」

 彼が大学を知らないことには驚いたが、聞いてはいけない気がした。

 だって、お風呂の壁からこんにちは!したヒトだよ?

 恐らく摩訶不思議な答えが返ってきそうで・・・。

 それで私は無難な答えを言った。

 そうそう。大学につくまでにも恐ろしいことを言ってたっけ。

「なぁ。・・・ここ、ドコ?」

 Unbelievable!

 まさか、まさかの質問に、私はひきつりながらも「日本だけど」と答えた。そしたら、

「ニホンってナニ?」

 吐血しそうになった。

 こいつ・・・ほんとに頭の中がパラレルワールドなんじゃ・・・?

「に・・・日本って、島国の名前よ。聞いたこと・・・ない?」

「無い」

 即答しやがった!

「じゃ、じゃあ、トーキョーとかは?知らない?」

「知らないもんは知らない。ま、島国ってことだから小さい国なんだな?」

 私は頷く。

「兄貴がテキトーに決めたみてーだからな。ま、しょーがねーよ。出口もお前んとこの風呂だったし。まず、ありえねーけど」

 うまく話が飲み込めないのは、私の気のせいでしょうか?

 いろいろツッコミたいのをなんとかこらえ、大学の門をくぐると――――――

「あれ?清原さん?」

 やんわりとした声がどこからともなく降ってきた。

 ああ、この声の主は・・・

「葛城くん・・・」

 葛城崇(かつらぎたかし)

 私と同じ三回生。

 サラサラヘアーのメガネ男子。

 頭脳明晰、優しい物腰、顔もなかなかで女子からも人気が高い。

 なぜ、私の名を知ってるのかというと、同じゼミの同じグループだからである。

 たた、それだけ。

 葛城くんは、私の隣を歩く見慣れない黒い男を見つけ、あからさまに眉を寄せた。

「清原さん、この人は・・・?見たこと無いけど・・・」

「あ、うん。このヒトはね、」

「なぁ、このメガネ、ナニ?」

 !!!

 いや、ちょっと!

 葛城くん、固まっちゃったし!

 マネキンみたいに、一歩踏み出したとこでフリーズしちゃってる。

「かっ葛城くん?コレ、天野リュウっていって、私の親戚みたいなー」

「親戚?俺の前で裸でうろうろするヤツが?ま、それならそれでいいけど」

 !!!!! 

 もはや、口から音が出ない。

 私は金魚のように口をパクパクし、天野くんを見上げた。

 すると、意地の悪そうな笑顔を張り付け、私を見下ろしていた。

 こいつ・・・私で遊んでやがる・・・

「えっ?清原さんの・・・・・・彼氏?」

 フリーズした葛城くんが解凍し、解答した(私に、座蒲団一枚!)。

 私は慌てて大きく首を横に振る。

「ぜっったい、断じて、全くもって違いま――――」

「彼氏っつーか、飼い主?」

 ニヤリと、天野くんは笑った。

 その矛先は葛城くん。

「えっ・・・。飼い主って、清原さんはペットじゃ・・・」

 私と視線が合う。

 ほら、すっごい困った顔してんじゃん。

 例えて言うなら、某CMの潤んだ瞳のワンコみたいだ。あ~、かわいい。

 私が葛城くんをそんな瞳で見つめているとは知らず、頭の上から低音ボイスが響く。

「そ。ココにいる間は当分、俺のペット」

 言い終え、私の頭をポンポンと叩く。

 あ~、でっかい手だな~・・・

 って、今、さらりとなんて言った?!

 あまりにフツー過ぎて、一瞬分かんなかったけど・・・当分、ここにいる?

 ここって・・・もしかして、私の部屋?!

「あ・・・天野くん?な、なにいっちゃってくれてんのかな・・・?」

 ギギィと彼を見上げると、鋭い黒い瞳とぶつかった。

 睨んでるし・・・

 これは拒否できないんじゃあ・・・?

「だよな?」

 か・・・確認?!なんのよっ?

「き・・清原さん・・・、それ、ほんと・・・?」

 葛城くんまで、訝しげに聞いてくるし!

 いや、私の方が聞いて回りたいんだけどっ!

 もう、頭の中が真っ白。

 早く帰りたい・・・

「わ、私、レポート出してくるから、二人でテキトーにやってて、じゃ」

「あ、おい!」

 天野くんがなにか言ってるが無視。

 葛城くんが私を呼んでるが、それも無視。

 あんなとこにいたくないっつーの!

 私は猛ダッシュで、その場から逃げたのであった。



 



「なんなのよ!っとに」

 先ほどの天野くんに私は腹が立っていた。

 カッコいいから何でも許されると思ったら大間違いだ。

「なにが、飼い主よ!人を何だと思ってるんだ?!」

 午前は授業は取ってなかった。

 なので、レポートなんてものは無い。

 学食に行こうか迷ったが、図書館で時間を潰すことにした。

 私が大学にアイツを連れてきたもう一つの理由。

 それは、「置き去り」にできるから。

 あのルックスなら、他の可愛い女の子にお持ち帰りされるに決まってる。

 つーか、そう切に願ってる。

 だから、私は彼のパラレルワールドをほぼ無視し、我慢していたのだ。

 あんなのに付きまとわれたら・・・って、考えただけで寒気がする。

「ま、貴重な体験にはなったかな」

 お風呂から、あんなイケメンくんが出てきました~なんて誰に言えよう。

 いや、言えない。

 図書館が見えてきた。

 オープンカフェも隣接してるため、人だかりができている。

 うん?なんで、あんなとこに?

 食券を売る自販機は建物の中にあるし・・・。

 なんで、カフェの一角にあんな何かに群がるアリンコのような人だかりが・・・?

 よくよく見ると、みんな女の子。

 キャーキャー言ったり、笑ったり。

 すっごく楽しそうな・・・って、まさか・・まさかね・・・。 

 そっと、輪の外から中心を覗いてみて、固まった。

 いた。

 ヤツが。

 なぜか、不機嫌な顔してるけど。

 でも、それが返って渋く見えるというか、クールに見えるというか・・・。

 ま、なんにせよ、かっこいいのだ。

「ね、天野くん。一緒にご飯行こうよ」

「カラオケとかさ~」

 お~お~。逆ナンされちゃって。

 でも、大学って、あんた何しに大学来てるの的な女の子って結構いるもんなんだな~。

 お化粧バッチリのモデルさんみたいな子たちに囲まれて、男冥利に尽きると思うんだけど・・・。

 ま、他の男子からはすっごい冷ややかな目で睨まれてるけど。

 あからさまに「よそでやれよ」オーラが出てますよ、君たち。

 置いて帰ろ。

 一人ほくそ笑んで、そっとその場から立ち去ろうとしたとき、

「おい!」

 低い声がした。

 振り向くまでもない。

 今、振り向いたら、殺される。

 そんな予感がした。

 だから私はそのまま無視を決めつけ、トンズラした。

「あんな子ほっときなさいよ~」という女子の声を聞いた気がする。



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