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第10話 冷蔵庫くん

 あれから、なんだかご機嫌になった天野くんに「なんか買ってやる」と言われ、私は欲しかったブーツにすることにした。

 天野くんも何足か買ってたようで、帰ってきたときには両手に袋をいっぱい持っていた。

 約束してくれた通り、天野くんは冷蔵庫くんを処分しなかった。

 ただ「次に規則を破ったらぶっ壊す」と言われ、冷蔵庫くんも青ざめているようだったけど。

「良かったね、冷蔵庫くん」

「ほんと~。サンキューで~す。プーちゅわ~ん」

 やっぱり言った。

「ご主人様にもお礼言った?」

「も~ちろん。ご主人、サンキューで~す」

「・・・うざい」

 自分で作ったくせに。

 冷ややかな目で天野くんを睨むと、「なんだ」という目で睨み返された。

「別に~」

「俺に文句言っても良いけど・・・夜、覚悟しとけよ?」

「文句なんて滅相もありません」

 どこかで見た光景とセリフ。

 私は一人、拳を静かに握りしめるしかなかった。



 今日はバイトもお休みなので、二人でお鍋を食べ、借りていたDVDを見た。

 有名な三部作の第一作目で、天野くんはドラゴンが出てくるシーンを見て、「俺に対する当てつけか?」と睨まれたけど。

 ちなみに、

「俺の国には剣はあるが、魔法はない」

 だそうだ。

 昨夜からなぜか毎日添い寝することに決まってしまったので、今夜も仕方なく私はドラゴンの抱き枕としての役目を果たしていた。

 天野くんはすぐに寝息をたて、私はなかなか寝付けずにいた。

 そんな中、どこかからギシギシという音が聞こえてきた。

 誰かが話している声も聞こえる。

 寝室からリビングへ通じる扉は閉めている。

 こちらからはリビングの様子は分からない。

ギシギシギシギシ

 なんだろう・・・

 耳元で聞こえる天野くんの寝息。

 隣の部屋から聴こえてくる囁き声。

 どうしよう・・・天野くんを起こした方がいいのかな・・・

 でも寝てるのを起こしたらめっちゃ怒られそうだし・・・

 私は意を決し、天野くんの手を私のお腹からゆっくり引き剥がし―――――――

「バカ。行くな」

「!!」

 声と同時に、天野くんがギュッと私を抱き締めた。

 動くに動けなくなる。

 てゆーか、それより・・・

「・・・起きてたの?」

「・・・あいつらがうるさいしな」

「あいつら?」

 誰だろう・・・?

 天野くんはため息をついた。

「冷蔵庫のやつが・・・・・ヤってんだよ」

「何を?」

 私の言葉に天野くんは「お前なぁ」と、また長い溜め息をついた。

「冷蔵庫と洗濯機が・・・・アレの最中なんだよ」

「最中・・・・えっ?!」

 慌てて上げそうになった声を落とす。

 冷蔵庫くんと洗濯機ちゃんが・・・?

 いつの間にそんなに良くなったんだろう?

 いやいや、そんなことよりも・・・

「・・・天野くん・・・そーゆーのも組み込んで改造したんだ?」

「するわけないだろ。あいつらがどーにかやってんだ。ま、ヒトみたいにはいかないだろうけど・・・でも、ムカつく」

「・・・なんでよ?」

 私は疑問を口にした。

 天野くんは憎々し気に言う。

「主人の俺を差し置いて、燃え上がりやがって・・・」

「天野くんだって、前、いっぱいキスマークつけて帰ってきたじゃない。やっぱ主人に似るのね」

「・・・言ったな?」

 あ、地雷踏んだかも・・・

 後悔先に立たず。

 あっという間に私は仰向きに転がされた。

 重なるように天野くんが覆い被さる。

「ちょっ・・・!重い~!!」

「柔らけーなー。お休み」

「こら!退いて!重いから!死ぬ~!」

 私は当分の間、この拷問に堪えるしかなかった。

 翌朝、洗面所の洗濯機の隣に冷蔵庫が横になっていたのは、見なかったことにしようと思った。




 天野くんと同棲?生活も2ヶ月に入った。

 添い寝をしてはいても、それ以上手は出して来なかった。

 キスも、あの初めの頃のみだった。

 たまに、葛城くんや佐伯くんたちと飲みに行ってはいつの間にか帰ってきてたりするけど、女の子を連れてくるとかはなかった。

「なぁ。クリスマスって?」

 天野くんが歩くテレビをむんずと捕まえながら、私に訊いてきた。

「クリスマス?イエス=キリストのお誕生日。そのお祝いが元で、子供たちはサンタクロースからプレゼント貰えるの」

 かいつまんで説明したはいいが・・・通じてるかな?

 夕飯の準備をしつつ、チラリと天野くんを見ると

「サンタクロースって・・・この髭のやつ?」 

 とテレビを指差していた。

「そう!白い髭のおじいさん」

「人さらい?」

「なんでよっ?!」

「怪しいだろ。赤い服着てるし」

 そこか・・・?

「ま、外国では緑の服のサンタとかもいるみたいよ。南半球のオーストリアは半袖サンタだしね」

 天野くんのとこにはそんなのないの?と聞いてみた。

 すると、

「国の創立記念日と、ドラゴン族の誕生祭と豊穣祭、収穫祭・・・・ま、あとはいろいろだな」

「テキトーに言ってない?」

「少なくとも赤いじじいはいない」

 クリスマスはないらしい。

 ま、宗教が違うからね。

 今日の夕食はチキンの照り焼き。

 天野くんの好物も段々分かってきて、基本、鶏肉がお好きなようだ。

 やはり、ドラゴンと関係があるのかは・・・・・口が裂けても(以下省力)

「クリスマスディナーも、チキンでいい?」

「は?」

 食べながら、天野くんが顔を上げた。

「なにが?」

「だから、クリスマスのとき。何が食べたい?ケーキは焼くけど」

 何を隠そう、私は料理が得意・・・・というか、好きだったりする。

 そのせいで、ポッチャリ体質なんだ・・・・とは言われたくない。

「・・・任せる」

「分かった」

 天野くんは、どーでもいいときの答えは大抵「任せる」とか「なんでもいい」とか。

 そのくせ、自分に興味のあるものだったら、俺様な性格を爆発させる。しかも命令口調。



「天野くんってさ、亭主関白よね」

「・・・・そうね」

 親友の万優子が男子と楽しそうに話している天野くんを見て言った。

「なんだかんだで、続いてるわね、あんたたち」

「・・・・お陰さまで」

 続くも続かないも・・・なんにもなっちゃいないんだけど・・・

 ま、いいか。

「ねぇ、クリスマスはどっか行かないの?」

「行かないけど」

「なんで?」

「朝から夕方までバイトだし」

 沈黙。

 なに?

 万優子の目が怖い。

「あんた、バカ?あんなカッコいい彼氏がいるなら、どっか素敵なとこ行って思い出作ってきなさいよ!例えば・・・ツリーの前でキスするとか!クリスマスイルミネーション見ながらキスするとか!」

「いや・・・しないし」

 どーでもいいが、キスから離れろ!

 妄想女はさらに暴走する。

「夜景の素敵なホテルに行って、優雅にワインなんか飲みながら『咲希、愛してるよ』『天野くんっ!』って、ベッドにダイブするのよぉ!」

「ワイン・・・飛んでいってるよ、それ」

 もうついていけない。

 私はため息をついた。と、

「咲希」

 天野くんが私を呼んだ。

「クリスマス、泊まりに行くか?」

 え~っと・・・・?

「ど・・どーしたの?」

「いや、付き合ってんなら、それが常識って、こいつらが」

「佐伯くんっ!!」

 佐伯くんは爆笑している。

 葛城くんと佐伯くんも私たちの関係は知っていた。

 つまりは身体の関係は無いと言うことを。

「清原もさ~。もういいんじゃないか?天野に食われちまえよ」

「下品な言い方やめてよね!」

 佐伯くんはニヤニヤ笑っている。

「でも今からじゃ泊まるとこないんじゃない?」

 万優子が口を挟んだ。

 そーよ!もう予約でいっぱいよ!

「僕の田舎で良かったら・・・泊まる?」

「か・・葛城くん?!」

「雪国だし・・行くまでが大変だけど・・・。友達連れて来てもいいから帰ってこいって前から言われてて・・・」

「決定だな」

 天野くんが口の端を上げ、私を見つめた。

 その目には「バイトは誰かに代われ」と書かれていた。


今回は短めでした。すみません。

かといって、結合すると長くなるし…

サクサク読んでやってください。


咲希たちより先に冷蔵庫くんたちがくっついたのって、どうなの?と思う作者でした。

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