夜だけの友達part2
巫を傍の樹の近くに寝かせ俺は握り拳を強くし過ぎて血が出た手で髪をかき上げ、ルナを見る。
背後にある満月の中心を位置取るルナが狂い嗤う。
「ねぇヴァン、あなたは私のモノでしょ。なんでそんな人間に親しく呼ばせてるの?少し教育が必要よね」
「幻刀……霧常」
俺は赤い塵からできた刀を手にする。
教育?何をほざこうが知らねぇが、テメェだけは許せねぇよ。
「ねぇ、覚えてるかしら。あなたにふさわしい女は私しかいないのにあなたは私を振った。理解できるかしら夜を支配する女神がこんなことされた屈辱が」
「知るかよ、それに夜を支配する月の神はテメェじゃなくても他にいるだろ。それとそろそろ死ねよ」
俺は霧常でルナを斬る。
ルナは避けもしなければ防ぎもしない、死んだはずなのに傷一つない。
「あのね、あなたのそれはあなたの血からできた魔の力。満月の時の私には大した効力もないの」
ルナが光から作り上げた光の剣で俺を刺す。
ただそれだけで全身が悲鳴を上げるまるで存在ごと拒絶されるような感覚だ。
絶対的な力の壁を感じる、これが神なんだと理解する。
ったく昔の俺はよくあんな化物をあしらっていたよな。
……けどさ解ったろ巫、俺はお前らの掲げる神ってやつに常に狙われてた。
だから巻き込みたくなかったのになんでだろうな、お前の傍から離れないとって想いながらも……。
「……ヴァ、ン。……ぁ、ヴァン。私の……力を」
馬鹿かよ、お前……本当にさ。
ありがとう、お前の力借りるよ。
俺は霧常に流れていた巫の血を吸わせる。
すると霧常の存在が爆発的に上がる。
「なんなのだ?この力は!?」
「魔である俺の血と、巫の聖なる血。両方を取り入れた霧常の中は反撥で今にも壊れそうだ。けどな聖であり魔である、大いなる矛盾それは力となる」
一閃、ただそれだけだ、霧常が通った後に爆発が起きルナを拭き飛ばす。
次は何年かかるか、だが百年は現界できねぇだろ。
今はそれだけだ、巫を助けねぇといけないからな」
俺は巫を背負って神社に行く。
巫の住んでいるあそこにしか頼るところが無いからだ。
「ほう貴様が巫を誑かした化物か、正体は解らぬが大きな力を感じるな」
門の前で当主である巫の父親自らが出てきた。
「そんなの関係ない、今がどれだけ大変な状態か解ってんだろ」
「娘を助けたことには礼を言おう、だが金輪際会うことも許さない。今貴様を殺さないのが最大限の礼だ」
巫の父親は俺から巫を奪うような力強さで連れて行った。
最悪だなアイツ、けど巫は助かるなら俺は、巻き込むくらいなら俺はここからいなくなろう。
立ち退こうとした俺は脳裏に浮かんだ巫の笑顔に脚を止められ傍にある木から巫の霊力を頼りに助かったかどうかを探る。
巫の乱れていた霊力はどんどん安定を取り戻していった。
良かった、巫は無事か。
そして今度こそどこか遠くに行こうと立ち上がる。
「いやぁぁぁあぁ!!」
女性の声が響き渡る。
いや、嘘だろ、あの声……巫?
「俺は、馬鹿かよ」
今になって巫の現状を思い出す。
大きな力を持っている巫女としてその力を狙われ何をされるか解らない状況。
「巫ィィィ!!!!!」
俺は巫の名前を叫んで中に入ろうとするが結界に阻まれる。
チクショウさすがに戻ることを予想されていたか。
だがな、こんなので邪魔してんじゃ……。
「ねぇぇぇぇ!!」
俺は結界を引き裂いて中に入る。
声のした方へ霊力を感じる方へ走って行く。
たどり着いたそこは大きな道場だった。
「巫!!」
そこには何人かの男に両手を抑えられている巫がいた。
「テメェら巫になにしてんだ!!」
俺は男どもを殴り巫を両手で抱えながらその場を離れようとする。
だが逃場がない。
「どうって、巫には子を残してもらわなければ困るだろう。我らが月の神に手を上げた行為は罪だがその力は残さなければならない」
巫の父親が言っている、自分の子供を道具でしかないように……。
「とんだ下衆だなテメェら吐き気がする程腐ってやがる。巫がテメェらを嫌ってた理由が解ったよ。最低限の治療しかしないでそんなことをさせようとして、その上罪だ?」
俺は堪忍袋の緒が切れるなんて言葉で表せない程怒りに満ちていた。
「しかし失敗だったようだな、巫はもう使い物にならん。もう少し治療しておけば傷が開くことはなかったが」
ぽたり、ぽたりと巫から血が……命の雫が流れ落ちる。
「おい、巫……しっかりしろよ。おい!!」
「……あ、ヴァン。来て、くれたんだ」
ゆっくりと巫の目が開かれ俺を見て言う。
さっきまで怖い目にあっていたのに無理に微笑もうとして。
「あぁ、巫こんなとこから出よう、そしたらすぐにでも……」
「ねぇ、ヴァン……。恋って難しいね。私ヴァンともっと一緒に居たかった。もっとあの花畑を見ていたかった」
「何を……言ってんだ巫」
もう、見ていられなかった。
何年も苦しかったはずだこんなクズどもにいつ何をされるか解らない状況で暮らすのなんて。
なのに俺はルナを、月の神を信仰する巫を完全に信用し切れていなかった。
俺は巫に微笑みを見せてもらっては良い存在なんかじゃない。
「ねぇ、ヴァン。ずっとずっと……好きだよ」
涙を流していた俺に巫は動かすだけで痛むはずの身体を動かして俺にキスをする。
「ヴァン、ううん。ヴァンパイア……数ある吸血鬼の中その名前を持つ最強の吸血鬼。私の血を吸って」
「俺はもう百年近く血を吸ってなかったんだけどな。上手くできるか解んねぇぞ」