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第五章

「きゃぁぁぁぁぁああああ!」

 ランダムな時刻に鳴る人間目覚まし時計によって、僕と涼華の少し時間をあけた二度寝は終わりを迎えた、のだけれど。

「この声は、B子ちゃんの声か」

 ネコだけあって、うるさいったらありゃしない。僕たちみたいに気分で攻守を変えられる位のレベルにならないと、どんどん声が大きくなるんじゃないだろうか。防音室限定にゃんこ、けしからんですなぁ。

「あのロングのB子ちゃんの声だね」

 容姿について触れてなかったB子ちゃんの説明をしてくれるなんて、涼華は優しいねぇ。僕は目から目玉が落ちそうだよ。心のくしゃみだっけ?

 見に行くのもやぶさかではなくなくなくないけど、

「眠いなあ。後五時間は寝たいよ」

「寝ちゃう? 寝ちゃいます?」

 寝ようってのにそのテンションはいかがなものかと頭の片隅で小さな僕が呟いたけどそんな輩は瞬殺して、僕は涼華と仲良く三度寝へとスキップを開始。ただの死体になんか興味はありませんの。らんらんる~。

 

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン。

「ノックは三回だろうがぁぁぁ!」

 控えめに見ても二十回はオーバーしている扉を拳で打ちつける音に、僕は寝起き早々キレた。十七だし、今時の若者なのです。涼華以外に睡眠を邪魔されるのは許せませぬ。そういえば、ペンション放浪の旅を始めてから涼華の生活リズムは規則正しくなったなぁ。殺人鬼さまさまですよ。

「探偵さん、起きてください! 死体が!」

 いやいや、そんなのとっくに知ってますよぅ。

 というか、僕たちみたいに鍵をかければ中に誰も入ってこれないのがたった今実証されたんだから、ヒッキーみたいに自室で篭城してればいいじゃないですかー。今日は定休日なんで働きたくありませんよぉ。

「……ん、るさぃ」

 お、まずい。涼華が僕以外に起こされそうになって寝ながら不機嫌になってる。これでは故、前執事長の時のような惨劇が。いやあ、あれ以来執事長の条件に放任主義というのが加えられたんだよね。涼華を起こすというヒモの僕に唯一与えられた(もちろん僕も放任主義なので涼華の自主性に起床時間は委ねてますが)仕事を横取りしたんだから、遅かれ早かれ肉片にはなってたと思うんだけど。その点今の執事長は変態過ぎて(趣味はパチンコ。それも萌え台しか打たない自称乙女紳士)凶器越しの接触も避けたいくらいだもん。いつか変態が空気感染しないか昼も眠れる日々を過ごしておりました。て、手遅れだって事くらい、僕にも判ってるんだからね! ツンデレ難しい。

「…………はっ!」

 ドアに着くまでの思考にしてはやけに長いなあと思っていたら、なんと僕。いつの間にか四度寝に成功しちゃってました。あと九回で自己記録更新の予感!

「はいはーい。今行きますよ」

 ガチャリ。

「……………………」

 誰もいないじゃんよ。

 さすがにこれは僕でもちょっとムカっときましたよお?

 すぅ~。

「イヤァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 あれ、これ。僕オペラいけるんじゃない? 椿姫、なっちゃう?

 じゅーう、きゅーう、はぁーち、なぁーなぁっと。

 残りを三秒ほど残して、みなさん律儀に僕たちの部屋の前まで集合してくださいました。ちょっと呆れ顔なのがいただけないけど、なかなかのパブロフっぷりに僕はちょっとだけヒントを披露しちゃったりなんかした。

「えーとですね。オッサンの方は他殺で、不倫相手はオッサンの死体を見たショックで自殺したんだと(涼華ちゃんは。ここ重要)思います」

 みなさん目が点。女子大生AB子ちゃんたちなんかそろって口をωにしていました。涼華が起きたらペット飼っていいか聞こうかなぁ。あーでも涼華のお父さん、女子大生アレルギーだったっけなぁ。あの時の涼華のお母さんの暴走は血のつながった親子だって事をそれこそ流血で証明してたもんなぁ。お父さんを擁護した僕も微塵切りにされそうだったし。

 まあ、あれは。あまりに僕を受け入れてくれない涼華のお父さんに僕を受け入れてもらう為に、僕と涼華が手回ししたんだけどね。勿論浮気は未遂なんだけど。いやーお父さんが最後の一線踏み越えてたら年頃のとヒモの悪戯で鷲宮グループ解体されてたかもしれない。鷲宮グループバラバラ殺人事件だね。

「みなさん、自室に引き籠もって鍵でもかけて寝てたらいかがですか? ヒッキーさんあたり、そう言うのお得意でしょう?」

「俺は留年もせずにちゃんと四年間大学に行き続けたんだよ!」

 過剰な反応から察するに、彼の周囲の彼に対する認識も僕と大して変わらないのだろう。ちゃんと大学に行ってるのに引き篭もりあつかいだなんて、報われないねえ。

 僕としては吹雪が止むまで涼華とベッドの中というのは大層魅力的な意見なのだけど、そう言えば涼華は自称迷探偵で僕はその助手なのだった。となると全員が篭城して連続殺人がストップしてしまうのは都合が悪いのか。

 煽っちゃいますか。

「それとも、同室の方がそんなに怖いですか?」

 奇麗なお姉さんって虐めたくなるよね!

 危うく失禁キャラが三人に増えるところだった。虐めすぎ、よくない。

「それじゃあ、僕たちは適当に犯人の目星をつけますので、みなさん集団行動を心掛けてくださいな」

「あーあと、オーナーさん」

「は、ひゃいっ!」

 おぉ。完全にオーナーさんの手綱は僕と涼華の手中にある模様。

「朝ご飯と夕飯は当たり前ですけど、お昼ご飯今日も忘れたら……許しませんよ」

 ぶるぶるっとオーナーさんは震え上がり、失禁しそうな勢いで首を上下に激しく振った。本当に、このペンションにいる人たちは膀胱が緩々みたいですな。涙腺は嫌に硬いくせに。

「涼華、何か事件でも起きたの?」いやいやいや、さっき見たでしょ死体。

「それじゃあまた後ほど!」

 涼華が下着姿でみなさんの前に出てきそうだったので僕は咄嗟にドアを閉めた。もちろん施錠も忘れない。ただでさえ膀胱が緩いのに、涼華の下着姿なんか見たら、部屋の前が血溜まりならぬ尿溜まりになってしまう。

 ところがみなさん自分の膀胱の危機なんて微塵も感じていないようで、不機嫌を隠そうともしない足取りで下の階へと降りていった。音が和太鼓みたいだ。

「ちょっとね。オーナーさんにお昼ご飯を忘れないように」ぉおう! 

 涼華さん。下着どころか何も身に着けていらっしゃいませんでした。

 どこぞのネコタチの影響だろうか。あの二人には早々に退場願いたい。二人でいる時ならいいけれど、他人の前に涼華の肌を晒して悦に入れるほど僕は変態が出来上がっていないのさ。実はまだ二段階ほど変態を残している。変態だけに。笑う所ですよー。

「お願いしてきたところだよ」

「うむ。褒めてつかわす」

 ぎゅー、と自家製の擬音と共に涼華は僕にしがみ付いてきた。ああ、肌の感触を直に味わえないなんて、カーディガンと下着、ひいては執事長が憎い。

「むいむい」

「きゃー! くんくん」

 僕は服を脱ぐ時の擬音で最高に可愛らしいのはむいむいだと思うのですが、みなさんはどうでしょう。ああ、興味ないですか。そうですか。

 僕と涼華は午前中は変態の森へとピクニックに出かけることにした。どうか、探さないで下さい。恥ずかしいので。嘘。

やっと体調が良くなってきました。

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