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第3章 証人喚問と裏切り



王宮の裁定室は、先日の魔法筆跡鑑定の騒動から一変して、張り詰めた緊張感に包まれていた。

この日は、証人喚問が行われる日。両陣営から選ばれた証人たちが、真実を語る場となる。


最初に呼ばれたのは、リリアーナ=エデルミーナだった。

小柄で華奢な彼女は、絹のドレスを揺らしながら、薄く震える声で証言台に立つ。


「私は……アリア様からひどいいじめを受けました」


声はか細くも、確信に満ちていた。


アリアは冷静に彼女を見つめる。


「具体的にはどのような行為ですか?」


リリアーナは一呼吸おき、演技じみた涙を浮かべながら続けた。


「お洋服に傷をつけられたり、噂話を流されたり……」


アリアは即座に矛盾を指摘した。


「それはいつの出来事ですか?」


リリアーナの答えは曖昧だった。


「……ええと、数週間前から……」


しかし、アリアは手元の証拠書類を示す。


「その期間中、私は遠方の別邸に滞在していました。侍女たちが証言しています」


会場にざわめきが起こる。


次に証言台に立ったのは、かつてアリアに仕えていた侍女の一人だった。

彼女は緊張しつつも、事実を語り始めた。


「リリアーナ様に強要されて偽証をしました……」


その告白は、場を凍りつかせた。


侍女の声は震えていた。

「私は……リリアーナ様に命じられ、アリア様が侍女たちに嫌がらせをしたと偽って証言しました。しかしそれは嘘です」


法廷の空気が一変した。

貴族たちのざわめきは、驚きと動揺に満ちていた。


リリアーナは青ざめ、顔を強張らせた。

「そんなこと、言わせないでください!」


しかしアリアは静かに制した。

「真実は必ず明るみに出ます」


彼女は侍女に向け、優しくうなずいた。

「ありがとう、あなたの勇気に感謝します」


次にアリアは王太子セドリックの証言に移った。

彼の顔には追い詰められた表情が浮かんでいた。


「私は……リリアーナを信じていた」

「だが、今回の裁定を通じて、自分の判断の誤りを痛感した」


言葉は弱々しく、弁明とは呼べなかった。


アリアは言った。

「貴方の不作為もまた、共犯の一端です」


ユリウスは冷静に続きを促した。

「今回の証言を踏まえ、さらに証拠を精査し、真実を明らかにしましょう」


裁定室は次の局面へと動き始めた。


裁定室の空気は、一層緊迫していた。

リリアーナの表情は次第に硬くなり、視線を泳がせている。

周囲の貴族たちも、その変化に気づきざわめいた。


アリアは静かに立ち上がり、優雅ながらも鋭い口調で言った。

「リリアーナ嬢、その手紙の筆跡偽造について、あなたの関与は否定できませんね?」


リリアーナは一瞬、口を開きかけたが、結局沈黙した。


その瞬間、廷臣の一人が証言台に急ぎ立った。

「申し上げます。実は私も、あの手紙の偽造に関わりました」


場内が騒然となる。


「貴族社会のしきたりに縛られ、真実を語れなかった私たちの罪をお許しください」


彼の言葉に、アリアは静かに頷いた。

「真実が明らかになれば、すべてが変わります」


王太子セドリックは顔を覆い、苦悩の表情を見せた。


「これが、私たちの罪の全貌……」


その時、密かに動く影があった。


その日の証人喚問は、さらなる波紋を呼んだ。

廷臣の告白が、貴族社会の暗部をあぶり出したのだ。


アリアは冷静にその証言を整理し、真実の輪郭を浮かび上がらせた。


「皆様、この裁定は単なる婚約破棄の是非を問うものではありません」

「貴族社会に蔓延る偽証と陰謀を、白日の下に晒す戦いでもあるのです」


リリアーナの背後から、静かに一人の若い侍女が立ち上がった。

その目は強い決意に満ちていた。


「私も嘘を強要されました」

「ですが、今は真実を語ります」


証言は連鎖し、次々と嘘の網がほどかれていく。


王太子セドリックは言葉少なげに、しかし重く告白した。

「私も、真実から目を背けていた」


アリアは声を張った。

「それが罪ならば、共に償いましょう」


彼女の言葉は、法廷の空気を一変させた。


証言が重ねられるたび、貴族社会の闇が次第に剥き出しになっていった。

偽証を強要された侍女たちの涙と決意が、裁定室を満たす。


リリアーナはついに追い詰められ、声を震わせて叫んだ。

「そんなこと……許せませんわ!」


だが、もはや誰も彼女の言葉に耳を傾けなかった。


王太子セドリックは深く頭を垂れ、アリアに謝罪した。

「私はあなたの名誉を傷つけた。許してほしい」


アリアは毅然と答えた。

「許しは簡単には与えられません。だが、これからは法の下で正義を貫きましょう」


裁定官としての彼女の決意は、揺るがなかった。


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