2話-3
「はっはっは! やはり空中から行けば簡単にあのでかすぎて隠せない感覚識の聖霊機構まで辿り着けるじゃないか!」
先ほど空に出たレッテーナはキリモミ回転をして空に放たれる弾幕を避けながらも、多くの鳥人仲間と共に中枢の機械へ奇襲を仕掛けた。
その遠く大聖堂にて、見逃してしまった鳥の事態の大きさにトリオンファンは頭を抱える。
「ああっ! あの時見逃していなければ。申し訳ありませんっ、お姉さま方」
「余裕そうじゃないか」
取り乱す彼女にオーパスは炎を纏わせた拳をぶつける。トリオンファンは避けるも、頭の冠のような部品が熱されて歪む。最も、ファンタスクは形状記憶魔法合金を使用しているため、形は戻るのだが、金属疲弊はじわりと忍び寄る。
「フレイムビーストである僕の拳、いつまで避け続けられるかな」
オーパスは拳に息を吹きかけ、火をゆらめかせた。
この聖堂の外へ出て大きく北へ、感覚識の聖霊機構付近、アンドンターブルは空を駆ける鳥人たちの影を見上げた。それは、先ほどのヴェルダーノたちの手を縛り上げたところである。
「くっ、迂闊だった、こちらに気を取られすぎた! 仕方ない、パージの思いだ!」
その姿を消した一体のファンタスクは、上空にジェットを使い飛行しながら出現した。さながら軍隊のPR用のアクロバット飛行隊のような華麗な動きで逃げる相手を、彼女は同じような動きで追いかける。
そうなると、縛られっぱなしなだけで放置されたのはヴェルダーノだ。相手がこちらを確認せず、周囲には機械の雑兵しかいないことを見て、黒い汗をかいて自分を納得させた。
「これ、逃げていいよな。うん、いいだろう。お前ら、逃げるも策の内だ!」
「待て、この包囲から逃げられると思うな!」
周囲を取り囲む機械兵を、ヴェルダーノは口からビームを放って薙ぎ払いながら、味方の活路を開く。その怪獣的な姿は、機械よりよっぽど生物から遠かった。
*
「大丈夫なのですか、枢機卿どの」
街並みの枢機卿の通るためだけに機械の退いた道を歩いて、ジャンヌは尋ねた。この国の主な防衛はファンタスク頼り、しかしだからといってファンタスクに全てを託すのはあまりにも無責任。ファンタスクの皆を実技指導してきた教師でもあり、彼女らを信頼しているジャンヌだからこそ、なおさら心配であった。
「問題ない……私は彼女らの凱旋を確信している……。優美なる運命は、感覚識の精霊機構の天秤の元に……」
枢機卿は巨大を壁に当てないよう慎重に歩み、ふと足並みを止めると虹のかかった空を見上げる。ジャンヌは、急に止まられたことでぶつかりそうになり、ひらりと避け、とっさに体勢を立てなおした。
空には先ほど近くの空中庭園の縁に瞬間移動したアンドンターブルが、レッテーナたちとチェイスを繰り広げる。
「近づいてきた……そろそろお縄につくといい!」
「しつこいねぇ、ファンタスクの者も。キグナス隊、やっちまいな!」
「アイレディ! バルス・キグナス、今迎撃する!」
「アルガス・キグナス、了解した! その他キグナス隊の許可を代弁し、総力迎撃を行う! 皆のもの、決して遅れをとるな!」
華麗なる白鳥の鳥人であるキグナス隊は、そんな美しき姿に見合わぬ重厚な武装をバッグから取り出す。それらはロケットランチャーからバズーカ、果ては設置して使うはずの迫撃砲まで、普通に打ち込めば反動で体を壊してしまうほどの、強烈なものばかりだ。
そしてそれらが発射されると、あまりに残酷な弾幕が空中に張られた。火中を通り過ぎた生物は、死を認識する間もなく灰になってしまうほど、残酷なものだ。アンドンターブルは弾の到達前に、地上に連絡を取る。
「地上の兵よ! 奴らに向かい弾幕を放て! 大丈夫だ、私のことは気にするな……ぐっ!」
次の瞬間とてつもないほどの弾がアンドンターブルに襲いかかった。黒い煙は彼女を隠し、何が起きているのかレンズでは把握も難しい。
「撃て、撃て! アンドンターブル様の自己犠牲を無駄にするな!」
「おお、これがファンタスクの極地! 感覚識の精霊機構か!」
地上からの弾もなんのそので避けつつ、もはやクオリアマギアの付近まで近寄ったレッテーナ。その足の付け根のあたりには普段は閉められたこの巨大機構へのハッチがあり、地上の昇降機で登って入るのだが、なぜか今回は空いている。空を飛ぶレッテーナらなら昇降機なしでもそこに突入できる状態だ。
「さて、内部にあるファンタスク最大の神秘を、いただきましょうかね」
「そこまでだよー」
もはや入口は目と鼻の先であったが、レッテーナの目の前には虹色の道が現れた。この道は先程までもそこらかしこに引かれていたのだが、あの激しい空中戦では認識も困難だったのだ。
「誰だ!」
「ファンタスク・ネームド、幻想〜。人呼んで幻想のファンタスク! あなたをこらしめにやってきたよ〜」
明るい声色でのんびりと話す彼女は、手に巨大な機械の羽を持っている。しかし、その羽の先は虹色で、まるでこれが筆で、それ自体が魔法仕掛けのようだ。
「なぜ飛べる、他の奴と違って……」
一瞬、レッテーナはファンティが抜群の安定感で空に浮く理由に疑問を覚えたが、やがて足元に虹がかかっているのを見て、全て納得した。虹だ、この虹が足場になっているのだ。
「ああ、そうかい。空中戦はお手のものってわけかい。だが、もうあたしらは止められないよ!」
迷いを捨てた隊列はまとめてファンティの横を通り抜けようと、バードストライクの勢いで突撃する。風切が荒々しい、横を通るだけで衝撃が発生するほどに。
それに対しファンティはゆったりとした動作で羽ペンを四方八方へ動かし、それに応じて羽ペンが空に絵を描く。虹色の、複雑な形をなす聖なる紋章がそらに輝く。これは、ファンティの光輪を模したものであった。
やがて、その紋章は急に崩れ去ると、その線から虹の軌跡があたり一面に広がって描かれる。軌跡は鳥人を一人、また一人と捉え、全ての軌跡が消える頃には、レッテーナ以外の鳥人のビーストをすべて捕らえてしまった。
「これで、いっちょあがりだねー」
「くっ、だが、一人でも残れば儲け物。もはや、止める術はないよねぇ!」
キリモミ回転を効かして巣窟に突撃するレッテーナ、ふと目の前に網がかかっていることに気がつく。ファンティの仕業か、いやこの網は、虹色ではない!
「誰だ!」
振り向いたレッテーナは自分が檻の中のネズミであることに改めて気がついた。そして、華麗な翼捌きの彼女を捕らえた奴の正体もわかったのだった。
「不屈……!」
そこに腕を組んだ構えで立っていたのは、先程弾幕に消えたはずのアンドンターブルであった。全身に傷こそ残るが、そこまで活動にこたえているようには見えない。
その時確信を持てる通信が、アンドンターブルのCPUに入ってきた。
「こちら、トリオンファン!」
「トリオンファン、そちらはどうだ?」
「鎮圧、終了しました。まあ、一人相手にしただけですが!」
「そうか」
アンドンターブルは地上に網に抱かれたまま落ちていったレッテーナたちを見下すようにし、優位をアピールした。
「もはや、アキラメッドには勝利の星もない。大人しく降参していただこう」
オーパス「今日のカード紹介。今日のカードはこれだ」
紅蓮王オーパス
チェイサー
火属性 種族 フレイム・ビースト
コスト4 攻撃力3 守備力4速さ+1
このチェイサーを召喚する時、相手のそのターン中に使用したエナジーを再消費して召喚できる。(1コストは支払う)
このチェイサーが出た時、相手のコスト4以下のオブジェクトを1枚、破壊する。
相手が、そのターンに2体目以降のチェイサーを出す時、自分の任意のビーストとバトルさせてもよい。
オーパス「2種の盤面制圧を行うチェイサー。僕の練り続けた闘志を表しているな」
レッテーナ「そのかわり速攻は持ってないけどねー」
オーパス「……そういうことはフェザーノイドの皆さんにお任せしますよ。それに、前紹介した《ボストロル ガリュドン》なら、僕も速攻を手に入れられます」
レッテーナ「バトルのダメージって案外蓄積しにくいけど、彼がいれば結構蓄積する……。好戦的かつ守備的なこのチェイサー、新パックで手に入れてくれよ!」