1話-3
枢機卿の姿は遠くからでもよくわかる。この周辺は高い建物も多いが、それでもなお、目立つほどだ。その顔はライトの部分の目を閉じたような姿で、頭には代わりの宝石型のライトが付いている。
これほど大きな存在が通るためには、道の大きさは少し足りない。そのため、建物ごとどけて大通りを作れるようになっているのだ。ビル街や伝統的な教会が、ジョイントを元に退いていく様は、世界の終わりのような風景であっただろう。
広くなった大聖堂前の通りには、今までは何事もなく生活していたであろう機械生命たちが、てんやわんやとあちこちに散る。かわりにきっちりとした列を組んで来たのは、マシーネテスプリの信徒たちである。脇にはファンタスクの親衛であるヴェルヌ騎士団を抱え、ここに来たる大いなる影のために礼節を払う。
すると、空に装飾品のような、武器のような、種類様々のアイテムが空に舞い上がった。一つは強固なる鎧のような装備、もう一つは大いなる扇動の旗。
そして、そのギアからそれぞれ機械がぽっと出現をした。一体は旗の元に、それをギュッと握りしめるようにして現れた。もう一体はその鎧の元に、着込むようにして現れ、右手を頭に添え、それでいて気だるく見えないように背筋を伸ばした格好を取る。勝利と不屈であった。
そして、トリオンファンの旗からは、さらにふたつの影が現れる。トリオンファンが一緒に連れていたフードの2人だ。
「トリオンファン、この行事は門外不出だぞ」
「いや、でも彼らを放っておくわけにはいかなかったのです。ここ以外で待ってもらうならいいですか?」
「まあ、それならいいだろう」
「ありがとうございます! ほら、2人とも、この聖堂の一般公開のエリアなら、好きに見ていいですよ」
2人のフードはそういうと大はしゃぎで聖堂の中に入って行った。
やがて、この空間にその大いなる足を動かさず、地面を滑るように現れたのは、巨大なるロボットであった。その姿、威風堂々、聖なる紋章やステンドガラスのような色合いの腕まで、装飾は清廉でありながら輝かしかった。
この巨大なロボットがしゃがみ、他のロボットと比べても小さな影に顔を寄せる。それに対して、小さなロボットであるファンタスクたちもまた、背筋を正してこの巨大なロボットに忠義を見せる。
「お待ちしておりました、枢機卿」
「えーと、確か、忙しき中! 貴公に会えた神の思し召しに、感謝いたしますっ」
「うむ……この国の守り手として健在の姿を見られて、我も嬉しい……」
こうして、行事が執り行われている最中、ふとドリフトのように急停止急加速を繰り返て曲がり続けながら、小さな知恵の輪のような不思議なパズルがすっ飛んできた。そして、すっ飛ぶと同時に光出すと、中から一体のロボットを背負った勇敢そうなロボットが現れたのだった。しかし、これは破壊されて動けないロボットを連れていくのではなく、ただ単純に逃がさないために背負って捕まえているといった具合だ。この悪童を捕まえた側が勇猛、先ほどと違い外装は整えられている。捕まえられたのが悪意、全く反省の色を見せず、からかうように首を傾げて頭に拳を当てた。
「申し訳ございません、枢機卿! 私としても真っ先に顔見せしたかったのですが、このバカがイタズラするもんで」
「ぶぇー。でもさぁ、こんな単純な罠仕掛けられて気づかないなんて鈍すぎじゃなぁい? ファンタスクの戦闘要員の名が泣くよ?」
「うるさい! 枢機卿の前でくらい、真面目になれ!」
この仲良く喧嘩しているような様子を見て、枢機卿お付きの神官たちは手で頭を抱え、大いに嘆いた。
「全く、マラン様はいつもこの調子で」
「ファンタスクの6体の中で最年長、本来であれば畏敬されてもよいものが、情けないものだ」
その話は、マランを蔑む言葉からやがて、優秀なファンタスクの話に移った。
「しかし、テリブル様は本当に素晴らしい。製造されてすぐに法学を学び、今や恐皇の称号を得ておられる。今この時も、仕事の判事を続けておられるのだろう。もはやこの国の法政は、彼女なしにはなり得ぬでしょうな」
枢機卿は彼女らに向けて祝福の言葉を与えた。
「ル・マランよ、そなたのその罠、この国のハッカーとしては素晴らしい仕上がりだ。イタズラはほどほどにだが、この国のプログラムの管理やサイバー攻撃への対処へ尽力をしてほしい……」
「うぇへへ、やったね」
マランは頭をかいて照れているような対応をした。それを見て、オーダシューはムッと睨むようにしていたが、枢機卿はすぐにオーダシューにも声かけた。
「ローダシュー、そなたの防衛力は未だファンタスク一だ……。これからも、ヴェルヌ騎士団と共に、鍛錬に励むとよい……」
「は、はい、光栄でございます」
オーダシューは枢機卿に畏まりすぎて、縮み上がってしまっていた。続いて、枢機卿はここにも本を持って来たアンドンターブルの方を向く。その際、軋む音一つ、することはなかった。
「ランドンターブルよ、そなたの知はこの国の宝だ。書物の管理も決して怠らぬ。これからもその才を生かし続けてくれ」
「ありがたきお言葉」
アンドンターブルは、これに礼をする。ロボットのような固さのなく滑らかに行われた礼は、本で読んだ作法だろうか。
「そして、ル・トリオンファン!」
急に呼ばれたトリオンファンは、旗を離してしまうくらいにびっくりしていた。
「な、なんでしょうか?」
「そなたは未だ見習いであろう。しかし、それは何者にもなり得るということだ。彼女らから学び、そなたがそなたであれるよう、主とクオリアマギアに誓うとよい……」
「え、えっと、はい! 主とクオリアマギアの為ならば!」
トリオンファンはまっすぐ、誰よりも透き通るような目で枢機卿を見続けた。枢機卿としては、これを未来を見つめることのできる存在と考えたのか、あえて肩を軋ませ、喜んだ。
「あれ、ところで幻想お姉さまはいかがされたのでしょうか?」
「ああ、ファンティか……」
まだかの姉の仕事しているところ見たことのないトリオンファンの質問に、オーダシューは優しく答えた。
「ファンティは今、虹の上を散歩しているよ。この国の象徴としては、ちゃんと仕事してるんじゃないか」
*
この国の空の上には、魔法で浮かされた小島がいくつもある。機械は地上だけでなく、空にも棲家を広げたのだ。その小島は孤立しており、普通は飛行機を使うか、島が地面に着くのを待つことでしか辿り着けないが、その島を継いで歩く一つの機械があった。そのおみ足からは虹が現れ、踊り出すようなステップで空を歩く。少なくともそれは機械の装置だけではできないことであった。その目のライトはやや垂れた目をしており、腰はドレスのよう。頭には羽帽子のような大きな羽をつけ、まさしく空より降りし天使のようであった。彼女はなにやら歌いながら、次の島にたどり着いたようだ。
「日差しさんさん♪ こんな陽気は♪ 踊り出して外に出たいわ♪ 虹の橋を渡り空の下格別な散歩なのよ♪」
すると、この天使は人工的に出来た角ばった木の下で、右往左往に踊り出す。近くにいた機械も、これに目を奪われた。
「わたしはファンタスク、幻想のファンタスク、けどファンティて呼んでね♪ 気軽じゃないのはよくないの♪ この国のありとあらゆるとこ、ファンティにとっては箱庭♪」
歌いながら彼女は木の下の透明なゲルを取る。そして、渡り鳥が何匹も彼女の腕に止まった。その鳥を撫でながらもなおも歌い続けるが、その声は調子が落ちていた。
「けど、知りたいの、庭の外を♪ 箱の中はとても退屈だわ♪ ねぇ小鳥さん、教えてよ♪ 土のある国を、笑う人を、そして〜♪」
すでに外に行きたがるせっかちな鳥に、彼女は手を離してやった。
「君の心を〜♪」
優しく別れの一言を発すその声紋は、どこか淋しさを感じるものだった……。
*
「それでは、今回の行事はこれにて終了とさせていただく……それでは解散」
枢機卿は礼をすると、その頭の前にいたお付きのものは驚いて大きくその場所を離れる。そして、ジャンヌは彼女の送迎のため、その足に手を触れてついていく。残されたファンタスクも、もうフリーなので持ち場に戻っていった。
そのような中でも、トリオンファンは先ほど勝手に見学させた2人を改めて探さなくてはいけなかった。ファンタスク同士であれば、自ら通信を遮断していなければどこにいるかは分かりやすいが、有機生物となるとそうともいかない。
「しまったなあ、名前を聞き忘れてました。観光客さーん」
聖堂の中は教会の役割をする場所以外は案外うるさいので、このくらいの音を発してもいい。階段を登り、3階にたどり着くと、そこの聖遺物の安置所に彼らはいた。
「どうでした? この聖堂、案外開けているでしょう? この聖堂も、この国も、気に入っていただけましたか?」
「うん、この国もすごい気に入った! 住んでいいかい?」
小さい方がそうやってからかうとトリオンファンは手を前でバタつかせて精一杯それを否定した。
「ああっ、それは、ダメなんです。この国には有機生命の永住権を与えてはいけないと言う法律がありまして、残念なことに……」
「ふぅん、そうねぇ」
それを聞いたフードの2人の反応は意外にも淡白であった。そして、思いもよらないことを口にする。
「じゃあさ、この国ごと乗っ取っちゃったら、法律も変えて、住めるわけだよね?」
この瞬間、トリオンファンは彼らから明らかな異常を検知した。彼らは、ただの観光客ではない、もっと、わたしたちとも敵対する、何か……。
「この国にはファンタスクの神秘があると耳にしてねぇ、我が国のため奪いに来たのさ。そう、我らは……」
フードを脱いだ2人。その中から現れたのは鳥の頭をした女と、犬のような頭をした少年であった。
「黙示録の獣だよ!」
「ビースト……!」
ファンティ「今日のカード紹介〜。今回のカードはこれ〜」
巨漢の斧
装備アーティファクト
無属性
コスト2 速さアタッチ1
装備したチェイサーを+3/+0する。
ファンティ「シンプルな装備! 無属性だからどんなデッキでも使えちゃうねー」
オーダシュー「装備カードは出した瞬間に装備判定が存在し、自分のチェイサーに装備できるんだよな。しかも装備していたチェイサーが離れてしまっても、場に残って再装備が可能だ!」
ファンティ「ファンティたちはこの再装備を生かした戦略を得意とするんだけど……まだ説明はいいかなぁ」
オーダシュー「そして、このカードの速さのアタッチ! これはその速度に強制的にしてしまう速度表示だ! だから5だろうと10だろうと、どんなに速くしても自分の速度が1になってしまうから注意だな!」