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6話-1 山頂の戦い

 山の高きは昼となり、光が差そうとあまり暖かくない。過酷な丘は草すらもまばらで、木も低木しか存在していない。


 殺風景なこの空間に描かれたひとつの虹。これは右へ左へ線を広げてゆき、高速道路のジャンクションのようになった。ファンティが自らのクオリアギア、エタンセルによって描かれた虹だ。


「ああ、村から出てきてよかっただ、こんな綺麗なもん見れるなんて」


「まさしく彼女そのものが幻想、というようでござるな」


 白昼の幻想風景、それに刀の柄で地を突き怒りを示したのは老師・董仙だ。


「あまり浮かれるでないぞ、これから行われるのは神聖なる決闘なのだからな」


 そうして老師は弟子に命令すると、人間の身長ほどの木の杭を4つ打ち立てた。その中はまさしく決戦のリングといったところだろう。


 ほどなくして老師はその中心部に向かった。一呼吸おき、澄んだ空気が流れた後、一喝する。


「ただいまより、決闘を行う! 対するは狼藉なる異邦絡繰! 今から指名せしものは、決して逃げぬよう!」


 この時、彼女らの身を案じていたサカタは安心しきっていた。あれほどの実力を持つオーダシュー、師匠には及ばずとも死闘でないのなら、万が一の勝ち目はあるはずだ。師匠の動きを読んでそのまま場外に押し込んだりすれば、なんだかんだ言って師匠も負けを認めるだろう。


「指名するのはお前だ」


 そうして指差した先にいるのは、虹を描いて遊んでいたファンティだった。このことを知らずか、今だに地上で呑気に剣士たちに絵を描いて見せている。


「ファンタスク! 今ここに直れ!」


「ちょっと待ってください老師! これはあまりに不当です!」


 無茶な要求に怒りに震える涼子、その剣幕は師に対しても臆することはなかった。


「何が不当なものか。彼奴らは所詮0か1でしか考えられぬ絡繰よ。人の気が分かるような素振りを見せているだけの、ガラクタに過ぎぬ」


「だからと言って、ファンタスクちゃんのような、何も知らない女の子相手に……」


 何度も訴えかける涼子を、董仙は睨みつける。もはや何の手出しもするなという無言の圧に、涼子は悔しそうに拳を握ってファンティに歩み寄り、両肩に手を乗せる。


「ファンタスクちゃん、師匠から決闘の申し出よ。けど、無茶しないで。もし怖かったら、無理だと思ったら、いつでも棄権して。その後のことは、なんとかするから……」


「ふぅん、決闘かあ〜」


 そう聞いたファンティはなんの緊張もなく董仙の元に向かっていく。その足取りはまるで喫茶店に行く時のような軽やかさだ。


「師匠さん、できればね〜、戦いたくないのだけど〜」


「今更受け入れるか、そのような戯言」


「じゃあ〜よろしく〜」


 何の臆面もなくおじぎをしたファンティ、それに似つかぬように太刀を構えた師、これをオーダシューはサカタの隣で勝ち誇ったように眺めていた。


「とんだ節穴だよ、あの師匠弱そうだからファンティを戦わせたみたいだけど」


「えっ、でも君が戦ったほうが良かったんじゃないか?」


「いや、ファンティは、アタシよりはるかに強い!」


 次の瞬間、戦いの火蓋は董仙の一閃によって切られた。刀の切先は凄まじく、その太刀筋が見えるかのよう。しかし、ファンティはすでに空を悠々蹴り、虹の足場を作ってハシゴのように登っていく。


「ほう、貴様には飛行能力があるのか。これはちと厄介よの」


 董仙は指で長い髭をかくと、刀を空へ振り放つ。往復する刃の斬撃は、やがて実体を持つかのように飛んでいった。


「とんでもない技術、師匠はこんなものを隠してたのか!」


「これこそゐ合の奥義、乱気龍斬(らんきりゅうざん)よ!」


 空の上のファンティは、飛ぶ斬撃に一旦は驚いたが、まずは足の先の虹で一蹴、次に筆で鮮やかに虹の壁を張り、全ての斬撃を無効にした。


「今度は〜こっちから〜だよ〜」


 筆は空に紋章を描く。ファンティの得意技、光輪の権能グローリー・キャプチャだ。やがてその紋章は崩れ、董仙の右を左を、天女のぬさが絡むようにして取り囲む。


「此れを斬るは難そうだな。だが、なれば!」


「どうしたんだろ……」


 師はまるで戦いを放棄したかのように立ち尽くす。まるで眠っているかのような様子にファンティは心配をしていたが、姉妹機であるオーダシューが感じていたのは恐怖であった。なんて、なんて澄んだ威厳の仁王立ちなのだろう、と。


 次の刹那、リボンの如くの虹は四方から董仙を襲う。群れた線の集まり、その中で董仙は目をかっ開いた。その紐は知恵の輪のように絡まる。しかしそこには無の空間が必ず生まれる。それを狙うように董仙は繊細な動きで抜け出した。これを眺めた弟子の一人はふと感嘆を漏らす。


「まるで、これは、龍……」


 そこには、鱗のある龍が確かに空を泳いでいたのだ。やがて地から舞う土埃が、何事もなく捕縛から逃げたことを表している。


「隙を見れば回避は容易い、これぞゐ合・武翔天龍(ぶしょうてんりゅう)!」


「すごぉい、やるねぇ〜」


 ファンティはいまだに余裕そうに宙を歩いている。この安心感は、この空が実家だというかのようだ。


 ふっと皆に手を振ったファンティは、続いて手の筆を地面に投げつけた。しかし、筆の虹はいまだ出っ放しで、そのまま線が引かれてゆく。


「ほう、取物を手放すか。それは悪手なり!」


 この筆を破壊してしまえば、戦況は董仙の有利に傾くことだろう。彼は走って筆の柄を壊すように剣を振る。


「ハマったな……」


 オーダシューが意味深に呟いた次の瞬間、そこにはファンティが無防備にも手を広げて出現していた。幻想転送ファンタズムトランスファートプログラムにより、この筆のクオリアギア・エタンセルを媒介に現れたのだった。不意を突かれた董仙は僅かな隙が生まれる。


 しかし、その後のファンティの行動はさらに不可解だった。なんと、そのまま董仙に抱きついてしまったのだ。まるで、自身に血の通った体温でもあるかのように。


「……! なんだ貴様は!」


「ハグ、体温の感じ合い、欲しかったんだよねぇ。うんうん」


 あまりにふざけた言動に、董仙は自らの腹を波立たせ、一筋の切先を作る。


「ふざけるな、ゐ合・我体刀也(わがからだかたななり)!」


 こうしてファンティの体には傷がついたが、魔法金属によってすぐに治療される。ファンティはそのまま次の斬撃を避けるため後退する。その時、師はついに攻撃を相手が仕掛けていることに気づく。そう、さっき虹を出しっぱなしにしていたのは、ここで裏に虹を回すためであった。


「これで終わらせて、のんびりしたいなぁ〜」


 ファンティは彼の背後からエタンセルの筆を引き寄せ、虹のレールを空に描かせた。それに引っ掛けられた董仙は虹のレールに乗せられ、高速で場外にまで連れて行かれる。振り解こうとしても、抜けられる気配はない。


「小癪な!」


 ふと、刀を抜いた師はこうなればと、自らの鱗のついた肌に近づけると、


「師匠、何を!」


薄く、薄く切断した。鱗が数枚剥がれ、それと共に空から血に叩きつけられようとする。しかし、師は相変わらず余裕そうだ。


「ゐ合・風切羽(かざきりばね)!」


 地面スレスレになった時、彼が顔を血に向けそこを切る。すると、どうにも空間が歪んでいる、そう錯覚するほどに落下がゆったりとなった。そして、浮き上がったその体で体制を整え、ギリギリ杭の内側に入り、何事もなく厳しげにしてみせた。


「戦線変わらず、というところかの」


 金龍のような荒くれ剣士は心の中で狸ジジイめ、と思った。そうでない剣士たちもきっと、師匠、それは無理がありますと思っていただろう。かなりギリギリの状況を切り抜けたのはお見事だが、それでもギリギリであったのにかも平然とするものかと。


「すごいなぁ、こんな技、見たことないやぁ」


 それに対してファンティは機械的な鉄面で余裕そうにしているが、同じ機械であるオーダシューは僅かな発音の違いでその異変を察していた。


「ファンティ、だいぶ追い詰められてるな……」

キンリュウ「今日のカード紹介! 今日のカードはこれだぁ!」


ゐ合・乱気龍斬

スペル

火属性

コスト3 速さ0

このスペルは手札に加わる時、かわりにコストを支払わず唱えられる。そうしたら、このターンの終わりまでドローできない。

相手のチェイサーに3ダメージを与える。


キンリュウ「ゐ合の秘技の一つ! なんと手札に加わる時にタダで使えちまうんだ!」


キヨヤス・ゲンベエ「この効果で唱えると、手札に加わった扱いにならない。前準備なしでドローを封じられる手段としては最高峰でござるな」


キンリュウ「ドローしねぇことがゐ合においてどれほど重要かは、知っての通りだろ? これでいざという時もゐ合空間に入り逆転しなぁ!」

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