1話-1トリフルールのファンタスクたち
見切り発車シリーズ。さてさてどうなりますことやら……
照りつける太陽、大理石で出来た街並み、巨大な空へ伸びる曲がった棒のようなオブジェ、暗い青と鈍い赤でアクセントを添えた魔法陣のような紋様の描かれた交差点。それでいて、空には白い道路が行き交い、景観を崩しつつも景観を保つ不思議な空間。ここは、まさしく神聖なる空間であった。
それでいて、その街並みを行き交う人々は皆、人ではない。それどころか、生命的な肌すら持ち合わせていない。すべての街人の身体がツヤのある光沢を放つ金属の身体をしており、その形は人に似たものから犬のようなものまで、人型でも純粋に人間に似た服を着たものから、目をライトで作り、全身の曲線帯びた一色の肌を見せるようなまさしく皆の思う機械人であり、それでいて愛嬌のあるものもおり、或いは本当に皆が思うロボットであり、角ばった動きの固い古めかしいものまでいる。この国は機械の街でもあるのだ。
そこに二人、小さなフードを被る影が、この神聖な世界に驚嘆しつつも、遠慮がちにこそこそと日の当たらないところを闊歩していた。
その日の当たる場所には一体の機械の少女が、周囲の皆に挨拶をしていた。その見た目は小柄な彼女に似つかわしくないほどに大柄な羽と明るいトリコロールを含む服装を象った胴体をしており、その足元の鋭利なショートスカートから出る腿の部位が活発な印象を与える。そして、彼女の頭には、三又の冠のような美しさの身体と同じパール色のパーツが、頭を囲っていた。
「おや、観光客でしょうか」
その機械少女はフードの彼らに向かい真っ直ぐにゆったりと近づいて来て、彼らの前で手を合わせて祈る。
「ようこそ、トリフルールの国へ。わたしはこの国のファンタスクの一体、勝利のファンタスクです。まだ見習いですけどね。気軽にトリオンファンとお呼びください。この国は、初めてですか?」
「ファンタスク……」
フードを被っているうちの背の少し高い方は、後ろの背のやや低い方にこっそりと耳打ちをした。そして、この案内をしてくれるらしい一体の少女にあいさつがわりのお辞儀をした。
「はい、この国のことはよくわからないんです。よければ、教えてくれませんか?」
「もちろんです!」
トリオンファンは何の迷いもなく彼らの頼みを承諾した。そして彼らの前に立ち、彼らにこの機械の国のガイドをはじめた。
「まず、トリフルールは宗教国家となっています。よく見ずとも、厳粛で、神聖な雰囲気が漂っているでしょう」
歩いていると、フードの彼らは色々と風景に目移りする。確かに宗教的なオブジェが多く、全身を羽で覆ったようの奇怪な謎の機械の像や、教会などが多く並んでいた。道端では説教を行う機械の牧師や、祈りを行う者たちの姿が見えた。
そして、トリオンファンは彼らが気になっていたであろうあの禍々しいまでの像を解説した。
「あのまさしく大いなる母と言える美しき像は、感覚識の聖霊機構を象っているのです。わたしたちの信仰対象は、多くの国と変わらず主ですが、かつてこの地を切り拓いた機械でおられる、かのクオリアマギア様もまた、信仰の対象となっておられるのです。今はもう動かれませんが、今もその身をこの地に埋めておられるのですよ」
そして、トリオンファンは彼らには向かい直ると、太陽のような模様の胸を拳で叩く。
「そしてわたしが! この国の公認の聖女であるファンタスク! なのです! この国にも信仰のため祈りを捧ぐシスターや、素晴らしき伝承の聖女は数多けれど、生まれながらの聖女として作られたのは、わたしたちくらいのものです」
それは、確かに自分の立場を誇りに思っている、自信にあふれた言葉だった。しかし、これを聞いたフードの彼らは、どうにも訝しく見ていた。
「ほんとに? ただの変なロボットじゃないの?」
「そうです、わてしが変なロボット……ってそんなわけないでしょう! これを見てもらえれば、信頼していただけると思います!」
明るい声でノリツッコミしつつも、すこしムッとしているのか頭から煙を出したトリオンファンが何やら目のライトを消すと、ふっと彼女の頭に光が差した。その模様は曼荼羅のようでも、紋章のようでもあり、イメージとしては花のような模様を尖った線が繋いで菱を作るような形をしていた。
「これがわたしの光輪です。ファンタスクに任命されている者は皆、これを出せるのですよ。もちろん、我らファンタスクを治める、枢機卿も!」
「枢機卿?」
「ああ、この国では法皇を補佐する役職である、枢機卿が最も偉いのです。枢機卿はとても大きな方で、なかなかこちらにも参られないのですが、お優しい方ですよ」
そうして、トリオンファンは街の中心を外れ、機械の樹並木のある外れの商店街に向かった。ここなら、きっと良いおみやげも見つかるだろうと考えたからだ。
商店は店員も機械とは思えないほど活気に溢れ、フードを被った有機生物の姿、そしてこの国の象徴でもあるファンタスクの姿にさらに湧いた。
「よっ、観光の方かい! どうだ、このミニロボットは。電気さえあればそんなに手もかからないよ!」
角ばっているどころかモノリスのように真四角いロボットの店員はそう言って、端から出したアームで小さな人型ロボットを優しく掴む。売りに出されていたのは、まさに伝説のピクシーやブラウニーというべき、可愛らしいロボットであった。しかし、観光の2人は気になったことをトリオンファンに聞いた。
「これって、なんか思うことないの?」
「何がですか?」
「ロボットが売られてるんだよ! 貴女もロボットの一体なのに」
「気にしたこともないですね。むしろロボットは対象が同じロボットにしろ、使われるものです。仮に一回払いで買われても、毎日の飲食も保証されてますし、悪く思うこともないんじゃないか、って思います!」
トリフルールはそういう文化だと、知らぬ人には驚かれるかもね、と聖女は彼らを納得させた。
「そうだ、飲食といえば……」
カード紹介
トリオンファン「今日のカード紹介っ! 今回はこちらです!」
――
ファイアボール
スペル
火属性
コスト2 速さ+2
相手かオブジェクトを選ぶ。そのオブジェクトに2のダメージを与える。
――
トリオンファン「シンプルにダメージを与えるスペルです。スペルは使い捨てのカード。一回使うと墓地に送られます」
フードの2人「それで、速さってのは?」
トリオンファン「実はこのゲームは、同時に行動するんです! 最初は速さ3、これで同時にカードを伏せて、公開!」
――
ファイア・スーパー・ドラゴン 速さ0 結果3
VS
ファイアボール 速さ+2 結果5
――
トリオンファン「これで速さ5のファイアボールから効果を処理し、相手にはチェイサーがいないのでプレイヤーに先制攻撃! 相手の体力を削ります。そして、速さ3のファイア・スーパー・ドラゴンが出て、そのラウンドは終了です。ちなみに速さは累積します」
フードの小さい方「速さが同じならどうなるの?」
トリオンファン「その場合、勝負は次のラウンドに持ち越しになります」
フードの大きい方「速さ勝負に勝って、魅力はあるのか?」
トリオンファン「速さ勝負に勝つと、勝ったプレイヤーから順に優先権が発生します。ターンの終わりなんかの処理で先に行動して有利になったり……ならなかったり」
フードの大きい方「確かに、先ほども速さで勝たなければドラゴンの守備力を大きく削れていたね」
トリオンファン「鋭いですね、このカードのダメージはチェイサーにも与えることができ、体力の代わりに削るのは守備力です」
フードの小さい方「コストはどう支払うの?」
それはまた次回!