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5話-2

「師匠、お疲れ様です!」


 サカタ以外の剣士たちは皆、彼の出現とともに彼に一礼をする。師と弟子との強い上下関係が、この一団にはあるようだ。


 危機を察したサカタはファンティらにこっそり耳打ちをした。


「人形だ。ただの人形のふりをしていてくれ」


「サカタ、あんまり騒ぐとなんだとゆうておる」


「あ、いやそのこの人形を買いまして、騒がれたら目立ってしまうと考えた次第でございます」


 サカタの明らかにその場取り繕っただけの話は、ファンティにとって笑えるものであったが、ここは辛抱をした。


 老師はその怪しい人形をむんずと掴み取り、興味はなさげに揺らした。


「かような人形が山裾に売られているとは考え難い……。通販で手に入れたのか」


「いやぁ、まぁ、そうです……ね」


「儂はいつも反対しておるのだがな。つい先ほども、"むにえる"を輸入していただろう」


「バレてましたか……しかし便利なものですよ」


「何度も言わせるない!」


 老師は一喝すると、棒の近くまで歩いて行き、刀を抜いた動作すら感じられないほどの速さで、棒を切断した。それは、まるで忠告をしているかのようであった。


「かのような便利な概念なるものは霊長種の精神と肉体の成長を妨げる。サカタ、そのムニエルとやらも没収だ! 無論、このガラクタもな」


 そうして手の上のファンタスク2体をパーツに凹みができるほど乱暴に掴み、穴倉の奥に去っていく。


「ああ、あの先はゴミ置き場じゃないか」


「見てられないわ、ここはわたしがなんとか話を……」


 頭を抱えた涼子は老師を追いかけようとしたが、その必要はまるでなかった。


「や……めて!」


 急に抱えられた機械人形は浮き上がるように蠢くと、そのままとんとん拍子で拘束から抜け出す。もちろん、共にいたケンタウロスのようなロボットも同様に。


「ファンティたちはこれでも機械なりに生きているの、仲間なの! だから、霊長種のみんなともなかよくしたいだけなのに……」


 有機生物であれば泣いているであろうように訴えかけるファンティの頭を、撫でるようするオーダシュー。彼女は自らのクオリアギア・ラディカルレフレクションを地面に突き立てた。


「よく言った、ファンティ。そして修練を積む剣士たち、仲良くしたいのは間違いないけれど……ファンティは優しすぎるからアタシから伝えさせてもらう。アタシたちは……」


「もういい、皆、修練に戻れ」


「な、なぜ!」


 話を遮り、老師は命令して軍配を掲げた。これは、絶対命令のサインであった。しかし、ほとんどの剣士は、修練の命令を渋々といった遅い足取りで去っていく。本当は不満を言いたいが、相手が師のため我慢をしているように。


「どうして、アタシたちは訳あって……」


 去らなかったのは今回の元凶であるサカタと、涼子のみだった。そして、その涼子は歯を噛み、言いたいことを言えない、という風だったが、ついにその口火は切られた。


「あなたは、それでも尊敬すべき師といえますか。機械といえど一介の女子の意見も馬耳東風で、剣士としての誇りを持てるのですか!」


「これ以上口答えをするなら破門にさせてもらおう」


「構いません! もしそのお考えでしたら、わたしは山を降り、この子たちと共に生きます! それでご満足でしたら!」


「いや、だからオレが……」


 サカタは口を挟もうとしても、涼子の剣幕には敵わない。彼女は年頃の女子らしく可愛いもの好きなことは知っていたが、ここまで本気になったのは見たこともなかった。


「そこまで、肩入れするか……いいだろう」


 老師はその本気さに頷くとファンティを指差す。


「その絡繰よ」


「ファンティって呼んで!」


「貴様は自らを生きている、生命であると言うたな。それは大きな間違いだ」


「そんなことない!」


「いずれ思い知ることになるだろう。まずはこれを見ておれ」


 ファンティはじっと老師の方を睨んでいたが、その影は急に消滅した。見渡すファンティであったが、すぐさまその脇を持ち上げられた。脇にさされたその黒き鱗のある腕と背を撫でる服の帯飾りから、後ろに師がいること、信じたくないが事実のようだ。


「貴様らには"せんさぁ"とやらがついているらしいが、背後を取られる時には如何なる役にも立たなかったであろう。それは霊長種であれど同じだ。ゐ合の本質は透き通る領域を掴み取ること。意識を純粋に近づけ、気配すらも絶ち、ここぞという場面で一閃をする。常日頃から電気などの動力の残骸を放つ、絡繰には不可能な芸当だろう」


 不可能だ、この場にいた誰もがそう錯覚していた。ゐ合の修練者はこの技術に全身の脈を操る必要があることを知っている。機械にはこのような機能は備わっていない。ただ、駆動音を静かにできるだけだ。気配を察することに長けたサカタも、消えぬファンティとオーダシューの存在感から、このような技術は不可能であると……。


「あ、出来た」


 ファンティがそう発した時、確かにそこには電気の漏れもなく、金属の冷たい感触もなかった。音も静かなのはもちろんで、おそらく前を見ずに歩いているだけでは彼女を認識できないはずだ。


「信じられない、確かにあの子、気配が消えてる……!」


「な、ファンティ、それどうやってやるんだよ!?」


「いや〜、なんとなく見えなくなれ〜見えなくなれ〜って思ってたらー、出来た〜」


 照れ照れするファンティに、絶句するのはサカタとその師匠・董仙であった。一人はあっさりと技術を再現したことによる現実逃避に、もう一人は拾い上げた石ころの才能の煌めきに。


「ありえぬ……かのようなことが……。どうせ機械的に音を消しておるだけであろう、無効だ無効!」


「こりゃあ、あの子ら、すごい才能かもね」

董仙「今日のカード紹介、さて、今日のカードはこれかの」


ゐ合の精神統一空間

アーティファクト

火属性

コスト2 速さ0

相手が自分より速い場合、自分のチェイサーは選べない。

自分はドローをスキップできる。

自分がドローしていないターンの終わりに、相手かオブジェクトに2のダメージを与える。


董仙「三つものゐ合に有用な効果を持ったあーてぃふぁくと。あーてぃふぁくと故に選ばれにくいという魅力もあるぞ」


サカタ「まず、一番上の効果、ゐ合にしては珍しく、ドローに関係しない効果。ゐ合による気配断ちを再現してますね」


董仙「二番目のどろぅすきっぷは言うまでもないだろうて、ゐ合の条件を満たしやすくする効果だ。最後はどろぅしていない番の終わりに、相手を傷つける効果! 上の効果と合わせて自己完結しておるな」


サカタ「まさに、ゐ合一閃! ってやつですね!」


董仙「皆も新弾で《ゐ合》デッキ、組むとよかろう」

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