4話-2
ここはトリアルザ国際貿易センター。トリフルールの最東端に存在する、他の国との様々な貿易を行う場所。深夜にも関わらず、ここはフル稼働だ。
「わあっ、すごい壮観だねぇ」
「しっ! 静かに……」
道にはベルトコンベアが埋め尽くすように敷き詰められ、それぞれが別の国への輸送のための車に乗せられてゆく。この車も、ほとんどは感覚識を搭載した機械生命だ。
ファンティたちはそのベルトコンベアの近く、ダンボールを被って潜入していた。これで、センサーに頼らないまぬけな機械のカメラは欺ける。
「けど、こんな目立つことをしちゃあ、枢機卿がだまってないと思うよー。ファンタスクはみんな枢機卿に場所がバレてるからねー」
「大丈夫、それはファンティが居ることで解決する」
オーダシューが言うには、アタシひとりで潜入するとなると、何か企みがあると勘付かれる。しかし、ファンティが居ることで、彼女の散歩に連れて行かれたのだと思われると考えていたからだ。
ダンボールはコソコソと移動し、とあるベルトコンベアの前に向かう。もっとも、このベルトコンベアがどこに行くのかなんてことは、彼女らの知るよしもない。
「む! 誰だ!」
まずいことに、とある一体のロボットが警報を鳴らした。多くのロボットがわざわざ持ち場を離れてファンティらの近くに集結する。彼女らはできる限り駆動音を響かせないよう、スリープモードのようにして身を潜めた。
「なんだ、何かあったのか?」
「そこに、確かに動く影が!」
「どれどれ」
もう一体のロボットが近寄るキャタピラの音がする。少しずつ、少しずつと。そして、ファンティの近くで止まった。
「ただの荷物じゃないか。それも、有機生命の食物の。食物は我らも専門外だからな。向こうに見てもらおう」
「ううん、心配なんですけどねぇ」
どうやら、危機は去ったようだ。
わずかな景色を頼りに、監視の目を盗んで段ボールを動かし、コンベアの前に向かう。このコンベアに乗ってしまえば、いよいよトリフルールともお別れだ。
「ファンティ、そろそろ国の外に出るぞ」
「けど、いきなりファンティたちの反応がなくなったら、みんな心配して探しに行っちゃうんじゃないの? ファンタスクバリアをとおったってこともわかっちゃうよ」
「バレない方法がある。ファンタスクバリアを通る前に、一度全身を分解してしまうんだ」
「えっ、けどそれって、だれかが組み立ててくれないと、そのままなんじゃ」
「そうだ。だからこれは賭け! もしこのまま部品のまま生涯を終えたら、それも運命よ!」
「ええー」
しかし、これ以外にこの国を出てバレないという保証はない。現にオーダシューは自らを持ってきたラディカルレフレクションで崩し続けている。頭は取れ、手足はもげ、胴体も複数のパーツに分けられていく。
「なんだ、ネズミか?」
「生物なら焼却しなきゃなあ!」
可能な限り静かに崩していたが、周りからは続々とこちらに集まりつつあり、もしかしたら箱を開けられてバレてしまうかもしれない。
「んーやるしかないかぁ」
仕方なく、ファンティは自らの部品に力を入れ、各部位を切り離した。
「あっ、やっぱり、みえなくなって……怖……」
人工意識はゆっくり途切れていく。目の前には槍のラディカルレフレクションもまた崩されていく姿が見えた。もはやここにあるのはただのガラクタだけだ。
「よっこいしょっと、ふーやれやれ。なかなか重いな。部品が軋むわ」
段ボールはコンベアに乗せられ、どこかの異国に運ばれていく。その行き先は、しっかりと箱に記されていた。
【マレイド山脈行き】
作業員ロボット「今日のカード紹介。今日のカードはこれらしいぜ」
倉庫作業ロボ ヴィル・リュギュー
チェイサー
闇属性 種族 メカ・ワーカー
コスト4 攻撃力2 守備力2 速さ-1
ターンのはじめに、自分のメカが3体以上あれば、墓地のカードを1枚手札に戻す。
スレイヤー(相手と相打ちになる)
作業員ロボット「墓地回収により堅実な戦いができるチェイサーだな。スレイヤーのおかげで強気に攻めることも可能だ。そして、この墓地回収、なんとスペルも拾える! これで《不気味な瘴気》を使い、何度も手札を破壊してやれ! さてと、俺は仕事に戻りますか」