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3話-2

 空に浮かび上がった黒い怪物ロボット。それはまさしく平和で礼節のあるこの国にとって異物そのもの。この世の悪意をねじ込めて出来上がった闇が、空を支配していた。


 その怪物が苦しむような痙攣の動作を見せると、周囲には瞬く間に黒い霧が立ち込める。まさしくこの世の終わりを具現化したような、そのような様子であった。


「どうしたの、急に暗くなって!」

「わからない! まだ夜には早いはずだ!」

「マスター、怖いです!」


 ファンティはただ空を眺め、相手の目的や行動を考えようとしたが、全くの未知数であった。


 次の瞬間、その腕の関節からほの赤いビームが地の上に降り注いだ。壮麗な街並みに瞬く間に穴が空いてゆく。噴水の水は溢れ、トラックは中身が剥き出しになり、機械用のドレスのショーウィンドウは見るも無残になり、中には直撃して破壊されてしまった機械たちもいる。


「誰か、修理キットを! 恋人が破壊されているんです!」


「苦しい、せめて、ツギハギだけでも……」


 機械が生命の営みをするこの国にとって、この大量破壊は地獄であった。ファンティは嘆きと共に、奴に対して怒りが生まれた。


「なんで、こんなことするの! 理由のお話をしてよぉ!」


 虹を描き、空へ飛びあがろうとするも、その足ではふらつきがある。まっすぐ進むこともままならない状態で、奴に近寄る。


 すると奴はすっと、また祈るような動作で消失した。まさしく夕立のような恐るべき存在であった。


 何だったんだろうと、ファンティは不安であったが、それは現実になった。彼女にファンタスクたちで共有しているチャンネルで通信が入る。


「こちらオーダシュー! ファンタスクを模した怪ロボットと交戦中! 状況は未だ……グフっ!」



 オーダシューは、目の前にいたファンタスクを真っ二つに割り中から足を縫い合わせたような、奇妙なロボットと交戦していた。街はもはや原型を留めぬほど破壊され荒野同然で、唯一折れ曲がった鉄塔と散らかされた瓦礫、散らばる機械だったものの部品が、ここに街があったことを表している。


 しかし、そんな中、巨大鉄塔の中腹に現れたのは、先ほどの蜘蛛のようなファンタスクもどきのロボット。そいつの不意打ちにより、腹を割られてしまったのだ。


「くそっ、あいつら何者だ……」

「オーダシュー!」


 鉄塔の下を潜るように飛び、アンドンターブルが駆けつけた。奴らに壊されたその腹を鉄板で応急処置をして、奴らを睨みつけるようにライトを照らす。オーダシューは部品の落とす心配がなくなったことに安堵した。


「アンドンターブル、他の地域はどうなってんだ?」

「ああ、悲惨だった。さらにもう一体、このファンタスクもどきの仲間がいて、そいつがこの国の国土の約1割を焼き払った。たった一体でな。おそらく奴らの強さでは、1対1での戦いは無謀、各個撃破が理想だと思う。甚大な被害に目をつぶって……。できるだろうか?」

「……やるしかないんだろ!」


 拳を突き合わせ、地を足蹴にし、オーダシューは奮起した。アンドンターブルは袂から魔術書を出し、臨戦体制になる。


 すると、奴ら2体は共に消失し、どこかに消え去る。しかし、ファンタスクサーチの反応によると、どうやらまだ国土にいるらしい。そのため、2体はすぐさま自らのクオリアギアを準備する。オーダシューは名槍・ラディカルレフレクションを、アンドンターブルは着込んだ鎧、アンテットマンシェを。そして、幻想転送ファンタズムトランスファートプログラムを起動し、現場に向かった。不思議な音と共に、ファンタスクたちの姿は見えなくなる。


 現れたのは空中庭園・エイグルグラスの傘立ての側、つまりクオリアギアの傘の近辺であった。この空中庭園は最も高い位置にあるもので、鷲が空から見下ろす位置にあることからあやかってつけられた名前だ。


 普段であれば、この下から魔導飛行機が運行しており、観光地として扱われているが、今は空に現れた割れたような怪ロボットの恐怖で、運行を一時停止している。今、ここにいるのは、このロボのみのようだ。それは逆に言えば他の地域の被害は、考えることも悍ましい。


「ラディカルレフレクション!」


 迷いを振り切り、オーダシューは腕を振りかぶり勢い込めて投げつける。それと並行するように、アンドンターブルが空から突進して奇襲を仕掛けた。そして、本を開き、魔導書を詠唱するようにして、起動する。


我が光は国の魂マ・ルミエーレエストラーメデラナション……斬光波クーペ・レスヴァーグ・デ・ルミエーレ!」


 アンドンターブルの手には光の刀が握られ、奴の首筋に一撃入りそう、その瞬間に相手はギョロリと振り返り、彼女の顔面にレーザーをぶちかました。


「ぐっ!」


 しかし、ラディカルレフレクションまでは避けられない、そうオーダシューは確信していた。凄まじい勢いの槍は、怪ロボットの鳩胸を貫く。槍を投げた当人は、勝利を確信して拳を握った。


 しかし、現実は甘くなかった。自らの胸を貫いた槍を、奴は体内の機械の動きだけで抜いてしまう。抜いた穴からは黒い、余りに穢らわしい液体の濁流。そして、あっという間に胸の穴を黒い塊で塞いでしまった。これと戦う彼女らには、それは錆のように見えた、否、そう思うしかなかった。


「嘘……だろ?」

「奴は本当に機械、なのか?」


 そして、カクカクとあまりにぎこちない動きを繰り返すと、全身から全くの予備動作なしでビームを四方八方に撒き散らす。その光は闇の霧で全く弱まることなく、希望に満ち溢れた大地を空を焼き払う。地上は瞬く間に、機械すら安寧はあらぬ空間になった。


「ぐうっ……!」

「……」


 もちろんこれを間近で喰らったファンタスクたちの痛みは計り知れない。機械生命は、人より鈍いとはいえ感覚識クオリアを所持している。全身を貫かれるような妖しい光は、この国を守る聖女の身体を痛みと共に破壊し続けた。肩の部位は剥がれ、オーダシューの足は欠け、アンドンターブルの本も、焼失してしまった。ファンタスクのような常識の概念を超越した聖女ですら、一時的に機能を停止するほどの、狂気的な乱舞であった。


「Qi……」


 しかし、ビームが止んだ時、手を前に掲げて相手を睨んでいたのは、アンドンターブルだ。彼女はアンテットマンシェの鎧が、コアを護ってくれていたのだ。


「ずいぶんと派手にやらかしてくれたじゃないか怪物モンストル。お前に比べればいささか地味だが、始末させてもらう」


 すると、彼女の鎧のドレスが輝き始めた。まるで、今まで受けた攻撃に怒るかのように。そして、その全身から眩いばかりの光を放ち、集まってゆく。そしてあの怪ロボットに向け集光された光が襲いかかった。


 怪ロボットはこれをもろに喰らい、全身を爛れるほどのダメージを受ける。だが、どのみち先ほどのように再生してしまうので油断ならない。


「足りないか。だが、この国の者が受けた悲しみを返すには、足りないとは思ってた! 喰らうといい!」


 アンドンターブルは再度斬光波を握り、横に回転を加えながら怪ロボットの全身を切り裂きに迫る。しかし、その後ろでオーダシューは見てしまったのだ。先ほどの傘立てから、ここに姿を見せなかった蜘蛛の怪ロボットが現れ、アンドンターブルの背に触れる姿を。


「アンドンターブル! 後ろだ!」


 声を聞いたアンドンターブルはすぐに後ろからの攻撃があると察し、横にジェット噴射を行おうとしたが……、


「えっ……」


時すでに遅し。アンドンターブルの腹は蜘蛛の怪ロボットの鋭い刃で貫かれてしまっていた。


「ぐふっ……」

「そんな……」


 機械であれど感覚を持つその身体は、この時に限り、ひどく残酷に感じるものだろう。電気はもはや内部から漏れ、部品も次々に落下する。


「この、アンドンターブルを放せ!」


 オーダシューは地に落ちたラディカルレフレクションを呼び戻すより速く走り、ケンタウロスのような足で蜘蛛のロボットを蹴り飛ばす。しかし、それはまるで堪えてないように反応を示さない。オーダシューの援護はまるで無駄になった。


 いや、無駄ならまだ良かったかもしれない。次の瞬間に彼女のレンズに焼きついた光景は、想像を絶するものだった。何やら金属の破片のようなものが、ミンチ機にかけられたかのように目の前を舞う。今まであれほどまでに頼りになったアンドンターブル。冷静でファンタスク一番の相談役だったアンドンターブル。不屈の名の通り、しぶとく無敵で絶対に斃れることのなかったアンドンターブル。その身体が踊るように裂かれ、花びらのようになってゆく。この光景を、不用意に近づいた故に、オーダシューはレンズを拡大すらせずともわかってしまった。


「あ、ああ、ああ……!」


 力なく堕ちてゆく聖女の一人。その身体は鎧に包まれていたにも関わらず、いまや頭すらも目と顎のあたり以外ほとんど欠けてしまい、首から下は抽象彫刻のように削られてしまっていた。


「QUI、QQUEEA」

「QUE、QUI」


 こんな残虐なことした怪ロボットは、手の刃物をただ眺めると、お互いに話し合うようなそぶりを見せると、どこかに消えていってしまった。


「なんだよ、なんなんだよお前ら!」


 オーダシューは無力さを嘆きながら、怒りに打ち震えて叫ぶ……。

アンドンターブル「今日のカード紹介、今日のカードはこれだ」

モルトファンタスク Va・ブランケット

チェイサー

闇属性 種族 ファンタスク/ナイトメア

コスト3 攻撃力3 防御力2 速さ+1

ターンのはじめに、光のカードが場にあり、無防備のカードがなければ、墓地からこのチェイサーを無防備にして出す。

このチェイサーが墓地から出た時、山札の上から5枚を墓地に送る。その後、墓地から装備アーティファクトを1枚、出せる。

装備をしているチェイサーは「道連れ(倒されても相手を倒す)」を得て、攻撃中、相手は効果を使えない。

アンドンターブル「光あるところに現れ、奇襲するチェイサーだ。装備を出してくる効果、墓地に落とす効果、墓地利用戦術にぴったりといえるな」

オーダシュー「光属性を参照する関係から、案外元のファンタスクデッキに混ぜてもいいかもな! けどこいつ、今目の前にいるやつにそっくりじゃないか?」

アンドンターブル「私のかわりに、頑張ってくれローダシュー」スゥッ……

ゆっくりと消えていくアンドンターブル。

オーダシュー「待って! 待ってくれよランドンターブル!」

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