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[6話] 天使とは

 天使と言われて想像するのはなんだろうか。

 真っ白の羽を生やした聖母のような者。

 少なくとも俺はそういう印象を抱いている。

 では、天使とは何をして生きているのだろうか?


「人間って本当に愚かですね~。わたしたちのことをなんだと思っているのです~?」


 ケラケラと隣で笑うピンクの天使は、俺の知っている天使ではない。


「じゃあ教えてくれよ。お前たちのことを」


 俺は睨むようにして天使を見上げる。

 エレナは俺の肩を噛みたいのか俺の腕の中で暴れている。

 俺はエレナが逃げないようにしっかりと抱きしめる。だけどエレナは俺の腕から飛び出す勢いで暴れ続けた。

 エレナはいつの間にバカ力になったんだろうか。


「ふふっ、あなた面白い人間ですね~。いいですよ~教えてあげます~」


 妖し気に目を細めてから、天使はしゃがんで俺と視線を合わせた。

 可愛らしい笑顔は天使のようにも、悪魔のようにも見える。


「天使っていうのは、人間の身体をお母様にお運びするのが役目です~。でも最近人間の血が混ざった天使が生まれるようになっちゃったんですよね~」


 それが天使病なのだと瞬時に理解した俺は、エレナを見る。


「ッ!? お前ッ、エレナをどうするつもりだッ!?」


 いつエレナを奪ったのだろう。エレナに何をしたのだろう。俺の横でエレナを抱えながら見下す天使を睨んだ。

 天使にお姫様抱っこされたエレナは眠るように意識を失っている。


「なにもしませんよ~」

「じゃあどうしてエレナは寝ているんだよ!?」

「疲れちゃったんでしょうね~。だから安心できるように魔法をかけてあげたんです~」


 催眠術でもかけたのだろうか。

 エレナが無事であればそれでいい。だから返してほしいんだが。

 俺が睨み続けても顔色1つ変えない天使は、少し空中に浮かぶ。


「さあ、お母様に会いに行きましょう~」

「お母様……って誰だ!?」

「お母様はお母様ですよ~。ああ人間は神様って呼ぶんでしたっけ~」


 ケラケラと笑って天使は飛んでいく。

 飛んでいくのは自由だけど、エレナが一緒なら俺には阻止する権利がある。

 だから俺は、手を伸ばして掴む。


「きゃーーっ、女の子の足を気安く触るなんてっ、本当に失礼な人ですね~」


 俺の頭くらいまで飛んだ天使の左足を必死に掴む。

 遊ぶように足を前後に動かす天使を逃さない様に、右足も掴む。

 絶対に離さないと天使を睨みながら、様子を伺う。


「メルル……ぼくをおいていかないで」


 それは突然俺の隣に立って、俺の手を掴んだ。

 反射で俺はそれを見る。


「ラズちゃん~迷子になってませんでしたか~?」


 知り合いなのだろうか。心配しているようには思えないほど能天気に笑う声が上から聞こえる。

 俺の手を掴んだそれは、俺より少し背が高い青年。パステルブルーの髪が目を隠すように伸びている。よく見ると左右で目の色が違う。フリルの付いたシャツとは正反対にロックなパンツを履いている。背中にはパステルブルーの翼が生えていて、天使だと理解できた。

 天使の青年は恐る恐る視線を上げて、眠るエレナを見つめている。


「それ、さがしもの?」

「そうですよ~。だけど邪魔する人間がいるんです~。そうだラズちゃん、相手をしてあげてください~」

「ええ……いやだけど」

「ラズちゃんはまだまだ赤ちゃんですね~。でもお母様も待っているので、あとは任せましたよ~」


 ラズと呼ばれる青年に気を取られていたら、メルルと呼ばれる少女を逃してしまった。

 追いかけようにも、俺には翼がない。


「はぁ……いやだ……よのなかいやなことしかない……」


 俺の手を離して、青い天使は絶望したように両手で顔を覆う。


「いやだ……いやだ、こんなせかいより、ぼくのすきなせかいにする」


 青い天使は前髪をかき上げて、目を見開いた。濃い赤と青の瞳は先ほどとはまったく違う雰囲気を醸し出す。


「だからさぁ、オマエのあいてはオレ様だッ!!」


 空中から双剣を出した青い天使は、まったく違う人物のように見える。

 ああこれ二重人格ってやつか。

 なんて考える余裕はあるが、俺には武器がない。だから逃げるしかないのだが、ただ逃げるだけじゃ意味がない。


「ひとつ、聞きたいことがあるんだけどさ」


 振り下ろされた剣を避けて、青い天使の背後に回る。


「アア? テメェちょこまかとウゼェんだよッ」


 きっと回転する様に攻撃してくるだろうと思ったので、攻撃が当たらない様に俺は地面に這った。

 悪いな、俺の勘はけっこう当たるんだ。


「なッ!?」


 そのまま転がって、距離をあけて起き上がる。

 ああ、すごく怒った顔してるな。だけど俺の方が怒ってんだよ。


「俺と友達になってくれよ?」


 俺が睨むと青い天使は怯えた声を漏らしながら、双剣を構える。

 人間はな生まれた時から武器になるものを持ってるんだ。


「ハァ? イヤだ!!」


 意味が分からないと怒っている青い天使は、双剣を俺に向けて構える。


「残念だな。友達になれば家に連れてってくれると思ってたのに」


 俺は青い天使に向かって走って行く。


「テメェのかんがえるコトなんておみとおしなんだよッ!!」


 青い天使は双剣を握り直して俺に向かって走り出す。

 真正面からじゃ俺は負けるだろう。相手は天使だから。


「じゃあちょっと、話し合おう」

「なっ、とんだ!?」


 俺は地面を蹴って、跳んだ。

 運動神経は良い方だし、別にこれくらい大したことじゃない。

 だけど人間が『とぶ』ことができるなんて、天使は知らないんだろう。

 呆気に取られている青い天使の上に落ちて行く。人間は翼がないから必然的に落ちるもんなんだ。


「ッテェ!?」


 両手を蹴って双剣を落としてから、地面に両腕を押さえつけて動きを封じ


「アガッ」


 そのまま俺は頭で思い切り顔を殴った。そう頭突きだ。

 身体は鍛えれば武器になることを天使は知っているだろうか。

 目の前で目を回している天使は知らなさそうだけど。


「なあ、お前らの母親ってどこにいるんだ?」


 青い天使の上に乗ったまま、俺は見下す。

 今にも泣き出しそうな顔で俺を見ているが、悪いのはエレナを奪ったお前たちだろう。


「ごめん、なさい……ごめんなさい、ゆるして……お母ちゃんのいるばしょは……」


 泣きながら青い天使は左手を伸ばして草原の先を指す。

 草原は永遠と続いていて、ここからだとどこを指さしているのか分からない。


「ハハッ!! ひっかかってやんのッ!!」

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