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崖っぷち兄妹のダンジョン攻略記  作者: 生姜寧也
3章:兄妹激闘編

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第71話:望遠兄さん

 人心地つくと、今後の指針について話し合った。というのも、俺としては今日は帰ろうかと思ってたんだけど、菜那ちゃんがこんなことを提案してきたのだ。


「もう一度、遠くから観察しましょう」


 その心は。


「明日は私もどうせ休みです。兄さんの治療も終わりましたし、もう少し粘るべきかと」


「うーん」


 確かに体力的にはまだ大丈夫だし、明日は菜那ちゃんが4歳になるから、潜れないっていうのもある。攻略を急ぐ身としては、今日のうちに何か討伐のヒントくらいは、という気持ちもよく分かる。


「もう1つ付け加えるなら、さっきの様子だと、近寄らなければ攻撃されることはなさそうです」


「確かにそんな感じだったよね。仮に追いかけてこられてもフツーに逃げれそうでもあった」


 見た目通り、長距離移動には向かない様子。近距離の動きは脅威だったけどね。あの奇襲の時も、運良くスリップしてなければ思いっきり殴られてただろう。エンジェルラック様様だ。


「……」


「……そうだね。じゃあ、もう一度だけ」


 という結論を出した。


「けど、オペラグラスを取りに行こうか。あと、このグジュグジュのおじもち袋も取り替えよう」


 辛うじて、俺の服とかには付着してないけど、袋の内部にはベッタリこびりついてることだろう。クサいし。

 ということで、指針は決まり、体勢を整えに戻ることにした。


 









 二度目の大穴3層。最初にフロア鑑定を行い、ワンダリング・ガンが湧きなおしていないことを確認後、慎重に乗り込んだ。


 黙々と歩き、やがて先程の金扉が遠くに見えてきたところでストップ。岩陰に身を隠し、オペラグラスを構える。覗き込んで様子を窺うと……


「いた」


 平たい岩の上に腰掛けている甲冑。


「あれは、何をやってるんでしょう」


 何か作業をしているように見える。双眼鏡ごと顔を動かし、おデュラはんの手元を覗いた。

 焚火のようだ。木の枝を集め、それを燃やしている様子。この層は空気がすごく乾燥してるし、よく燃えるだろうな。その焚火を跨ぐ格好で、両脇の地面に鉄の棒が建っていて、その間をワイヤーが張られている。ワイヤーにはフックが掛けられていて、そこから火の上に垂らされているのは……


「アルミのお弁当箱? いや、飯盒炊飯ですか」


「そのようだね」


 懐かしい。中学の林間学校とかでやらされた記憶がある。とか思ってたら。


「私も去年の林間学校でやりましたね。変哲の無いカレーでしたが、美味しかったです」


「はは。定番だよね、カレーは」


 しかし菜那ちゃんは高校でもやったのか。ウチはなかったな。

 そんなことを1年遅れで知るとは……つい最近までそういう会話も無かったんだよなと、改めて実感する。この一連の家庭の危機がなければ、一生知ることはなかったんだろうか。


 そんな感傷に浸りかけた時、菜那ちゃんが「う~ん」と唸った。解せない、というような響きがあった。


「どうかした?」


「いえ、おデュラはんの動き、緩慢すぎるというか」


 言われて、俺も注意深く見つめる。ついグラスを持つ手に力が入って、瞼の上が少し痛くなった。

 おデュラはんは、のそのそと鉄の棒を伸ばすと、火の中に突っ込み、薪を混ぜ始めるが……確かにすごくダルそうだ。熱でもあるのか、というほどに。


「もしかして、モノグサな性格、とか?」


 今までのボスモンスターも、それぞれに個性・性格があるのを鑑定で確認している。ヤツも御多分に漏れず、ということか。だが、


「う~ん」


 菜那ちゃんは、この説には納得していないようだ。

 と。おデュラはんに動きがあった。ゆっくりと立ち上がり、飯盒の蓋を開ける。中を少し確認する間があって、次の瞬間。


「「え?」」


 兄妹でハモってしまった。なにせ予想外の光景だった。おデュラはんは飯盒を手に取ると、穴の開いた首の部分から鎧の中に、飯を流し込んだのだ。

 

 俺たちが呆気に取られている間にも、投入はつつがなく終了し、空になった飯盒を傍に置くと、おデュラはんは移動を開始する。心持ち、先ほどより動きにキレが出ているような気がする。ヤツが進む先、岩陰に大きな袋が置いてあった。


「あれは、何だろう」


「何か書いてありますね。うーん……なんとかの素?」


 袋の上部が日光の当たり具合で、よく見えない。と、そこで。縛ってある口を開き、おデュラはんが中に手を突っ込んだ。そうするとヤツの背で完全に袋の文字は見えなくなった。

 そして手に持った何かを、またも首の穴から、鎧の中へ放り込んだ。


「あられのような……ふりかけのような……そうか! お茶漬けの素ですよ! あれ!」


 なるほど。『の素』しか見えなかった印字された文字。アレは『お茶漬けの素』だったのか。

 そして鎧の中に熱々の飯、お茶漬けの素、とくれば。


「ヤカンがあるね」


 先程の焚火の傍の岩の上に、よく見れば鈍い真鍮色のヤカンが置いてあった。


「先に沸かしていたんでしょうか?」


「だろうね。60°~80°くらいに下げてから注ぐために、ご飯と時間差をつけてたんだろう」


 案の定、おデュラはんはヤカンの取っ手を持ち、先の2回と同じように、中の湯を体内へ注ぐ。


「お茶漬けの完成か」


「はい」


 そして、甲冑は勝鬨をあげるかのように、拳を突き上げた。そのまま拳法の型のような動きまで始める。そこには、少し前までの緩慢で気だるげな雰囲気は影も形もなかった。


「これは……」


「お茶漬けで回復した、ということでしょうか」


「アン○ンマンの顔みたいな?」


「その理論でいくと……」


 菜那ちゃんが顔を左右に大きく動かす。やがて「あ」と声を上げ、指をさす。俺も彼女と同じ角度にオペラグラスの照準を合わせる。そこには地面に打ち捨てられた黒っぽい米の塊。加熱しすぎたオコゲみたいな。


「ああ、そうか。さっき菜那ちゃんの炎に包まれて」


「はい。甲冑の内部温度は相当高くなってたでしょうから」


 内部では焼け付いていたんだろう。その焦げた米を(棒か何かで)掻き出して捨てた物がアレら。つまり菜那ちゃんに燃やされて焦げた分と俺に投げつけた分、それらの補填が今なされたということだろう。そしてそれを終えると元気一杯。

 以上から導き出される結論としては。


「おデュラはんは甲冑の中に適量のお茶漬けが入っていないと力が出ない?」

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