第66話:メモ書き兄さん
岡部さんいわく、あの入れ食いワームは人間界のミミズとはモノが違うとのこと。そうなると、今度は俺も売らずに農園に撒いても良いかなと思う。売っても大した儲けにはならないし、何より、ああも目の前で利ザヤを稼ぐところを見せられるとね。まあ他の客が居ないからワンクッション置きようもないんだろうけどさ、もうチョット配慮が欲しいよ。
そしてついでだから、岡部さんにクルミの苗木とシイタケの栽培方法についても聞いてみた。クルミはフォックスベアーで販売しているとのことなので後で寄らせてもらうことに。シイタケの方は、やはり今はブロックタイプの栽培キットが主流らしく。ホムセンでも置いてあるとのことで、そちらを買うように勧められた。
岡部さんと別れ、俺の方はもう一度ダンジョンに潜る。今度は転移の魔石は使わず、徒歩で下りた。9000円足らずの稼ぎのために、3000円のアイテムを毎回使ってたらキツイ。
3層まで15分くらいで到着。慣れると意外に早く来れた。流石にリポップが追い付いてないかな、と不安だったけど。
――ボコボコボコッ
ワームが土中を蠢く音を聞いて一安心。フロア鑑定をすると、3匹が復活しているらしかった。狩ってる間に残り3匹も復活するかもだけど、取り敢えず入れ食いワームの性能が知りたいだけなので、1匹倒してドロップを得たところで退却。
ギルドに戻ると、職員2人が目顔で買い取りかと訊ねてくる。俺は苦笑しながら首を振り、
「このワームは自分用です。家の庭で色々と栽培してみようかなって」
本当は庭じゃなくて、ダンジョン農園だが。
「逆に少し買いたい物がありまして……炎の魔石を2つほど」
「あ、はい。ありがとうございます」
番号札→窓口の不毛なルーティンをやってから、魔石を譲ってもらう。
「15万円になります」
キッツ。ただ銃が手に入りそうとなれば、払う価値はある。それにもう1つは菜那ちゃんの護身用に持たせておいてあげたいし。
「……しかし、炎の魔石、転移魔法の魔石と比べてやたら高くありません?」
クレジットカードをリーダーの挿し込み口に入れながら愚痴ってしまう。
あの水色の石っころが3000円で、この赤い石っころが7万5000円は納得いかんのよな。さっきの件を引き摺るワケじゃないけど、ギルドがぼったくってるんじゃねえだろうな、と。そんな勘繰りまでしてしまう。
「これね……魔法の相性があるみたいなんですよ。転移魔法は比較的、低レベルの使い手でも魔石に魔法を込められるそうなんですけど……水とか炎とかは難しいみたいで」
佐藤さんが申し訳なさげに説明してくれる。
「人工的に作れない分は、モンスターから採るんですけど、そのモンスターが、また強くて」
なるほど、そういう事情が。しかし実際問題としてあまり気安く買えない物だから、本当にここぞという時のために取っておかないとな。
家に帰り、農園の土にワームを放すと、ようやく昼休憩。家屋に入り、レトルトの親子丼を頂いた。サトーのごはんは菜那ちゃんに隠されてしまったので、米を炊くしかなく、出来るまでの間に腹が鳴って仕方なかった。
昼食後はフォックスベアーを訪ね、岡部さんと先程ぶりの再会。クルミの苗木を買ってトンボ返り。時計を見ると、ちょうど菜那ちゃんを迎えに行く時間になっていた。ナイススケジューリング。こういうの何かやたら嬉しいよね。
校門前で妹を拾うと、まずはホームセンターに立ち寄った。ジョウロとシイタケ栽培キットを購入。ジョウロはステンレスの丈夫そうなヤツ、シイタケの栽培キットはネットの評価が一番高いものを選んだ。
「まあ正直な話、脂とシイタケの交雑なんて、あまり良い物が出来そうなビジョンは湧かないんだけどね」
優先順位としては、銃の方が遥かに高い。
「とは言え、おじもちの例もありますからね。作っておいて損はないかと」
「確かに」
あれもクサいだけのゴミだと思ったけど、見事ファットボアー撃破の立役者になってくれたからな。
「あとはリュックも丈夫なのに買い替えようかとも思ってるんだよね」
そのファットボアーの突進と壁に挟まれた時、あと少し押し込まれてたら、中に入れてたポーションのビンとか割れてたかもだし。まあその前に俺の膝の皿が割れてた可能性もあるけど。
「あと、ゴルフクラブのバッグも検討しませんか? 銃が作れたら、一緒に入れておけるようなヤツを」
「ああ、そうか。それもアリだね」
欲しい物を思いついたら、携帯のメモ帳にでも書いておくクセをつけないとな。やらなきゃいけないこと、買わなきゃいけない物が多すぎて、忘れそうだし。
俺はスマホを取り出し、メモ帳を起こすと……
『大穴ダンジョン3階層:出会い頭にワンダリングガンの襲撃を受け、時間遡行。3階層突入時は慎重に!』
と、あった。
「ん? あっ」
思い出した。そうそう、俺が撃たれたんだよね。どこ撃たれたか覚えてないけど、致命傷だったのかね。巻き戻したくらいだもんな。
「……」
マジで危ないな、これ。本当、遡行関連はキチンとメモしておかないとマズイ。同じ轍を踏んで、同じところで何回も繰り返してたらアホすぎるし、菜那ちゃんの反作用という借金も膨らむばかりだ。
「どうかしましたか?」
「あ、いや。えっと……盾みたいなのも欲しいよね」
「盾、ですか?」
少し訝しげな菜那ちゃんに3層の話をした。彼女も半分くらい忘れかけていて、聞いてるうちに思い出した模様。必要性を理解してくれた。
「ただ恐らく、ダンジョン鋼の良いヤツは高崎か、大宮の専門ショップでしょうね」
「だねえ」
服もツナギじゃ本当に繋ぎだし、防具新調も含めて一度行かないとかなあ。




