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崖っぷち兄妹のダンジョン攻略記  作者: 生姜寧也
3章:兄妹激闘編
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第62話:移籍否定兄さん

 群馬第3ダンジョン、通称オワコンダンジョンにやってきた。自動ドアをくぐると、いつものように女性職員2人が出迎えてくれる。

 だが俺は中には入らず、入り口近くのパネルを操作して番号札を発券。堀川さんが「あれ?」と不思議そうな声をあげた。


「番号札1番でお待ちの新田さ~ん。1番窓口へお越しくださ~い」


 佐藤さんも少し首を傾げつつ、いつもの事務対応。俺はリュックから薬草とキャタピラーの糸を取り出した。大穴ダンジョンでゲットしていた8束分だ。


「これ……え? どうされたんですか?」


「いえ。実は伊勢崎に行ってみたんですよ。それで薬草の方は運良くスライムがドロップして、糸の方はキャタピラーから普通に」


「あ、あー……」


「伊勢崎に……」


 ん。2人とも微妙な顔をしてる。他のダンジョンで手に入れたアイテムは、ここで売っても2人の査定アップには繋がらないのか? そんな心配を始めたところで、


「新田さん! ウチは3層から。3層から良いモンスターが出ますから! ライバルも少ないから、攻略しやすいですし!」


「そう! それに伊勢崎は盗難とかも多いの! その点、ウチは去年の盗難事件はゼロ! 治安完璧! ね?」


 2人が早口で捲し立てる。ああ、なるほど。微妙な顔してたのは、俺が移籍するかもと心配になったからか。思わず苦笑してしまう。


「大丈夫ですよ。メインはこっち。気持ちは変わってませんから」


「新田さん……!」


 感激! みたいな様子の2人。まあこっちとしても人の多い場所は嫌だし、ウィンウィンなんだよね。


「それで、査定をお願いしたいんですけど」


「あ、そうでしたね。少々お待ちください」


 佐藤さんがアイテムを自分のデスクに移して、査定を始めた。残った堀川さんが、


「キャタピラー、よくゴルフクラブで倒せたね~」


 なんて世間話を振ってくる。


「いやあ、妹の炎魔法に助けられっぱなしで。どっちが年長か分かったもんじゃないですよ」


「あはは。まあパーティーってそういうモンよ。得手不得手、敵によって対処しやすい人が戦う」


「なるほど」


「新田さんみたいに基本ソロなんて、そうそう居ないから」


「あ、そうなんですね?」


 そう言えば菜那ちゃんが見た上級者らしき探索者パーティーを筆頭に、結構つるんでる人が多そうだったな。


「それかソロでやってる人は、何かのモンスター専門ね」


 堀川さんが、ピンと人差し指を立てた。


「例えば、それこそ伊勢崎の2層、キャタピラー狩りの人とか」


「ああ。見ました、バラバラになってテリトリーごとに木を燃やしてる炎魔法使いたち」


 堀川さんはウンウンと頷いた。


「でも気を付けて。あそこはソロと見せかけて実は軍団でした、ってケースも多いから。軍団員は気が大きくなってて、初心者のドロップをコッソリくすねたりするからね」


「うわあ」


「え?」


「まさにそれっぽいのに遭遇しましたよ。多分、半分くらいは盗られたんじゃないかな」


 あの天パ青年。なるほど、軍団員だったか。抗議したら、周りから仲間がやって来て、盗んでないと証言するんだろう。最悪はリンチかも。泣き寝入りみたいで気分は悪いが、授業料と割り切っておいて良かった。

 そういう事情も話すと、堀川さんは大きく頷いた。


「それで正解。今後も突っかかっちゃダメだよ? 妹さんも居るんだから」


「はい。分かってます」


 やっぱり、あんな所に若い女の子を連れて行くのは避けた方が良いか。


「やっぱり妹と一緒に安心して潜れるのは、ここだけですね」


「うん! だから今後とも御贔屓に」


 おどけたように笑う堀川さんの向こうから、佐藤さんが戻ってくるのが見えた。

 2番窓口へ移動して出迎える。


「お待たせしました。査定が終了しました」


「はい」


 印字された査定票を受け取る。買取価格は伊勢崎と同じ。薬草が52000円、糸束が12000円で計64000円。10パーの控除が入って57600円頂戴できる。


「いずれも満額査定となっています。こちらで大丈夫ですか?」


「はい。お願いします」


 またも銀行振り込みを選択。つつがなく売買は終了した。


「新田さん、今日は潜って行かれるんですか?」


「ええ。3層に行ってみようかと……ああ、そうだ。レベルが上がって、脚力強化、腕力強化のスキルも覚えましたよ」


「あ、申告ありがとうございます」


 これくらいの情報は出しとかないとな。レベルが上がってるハズなのにダンマリじゃ信用を失う。まあ当然、ダンジョン農園とかは申告してないから、アレなんだけど。


「それじゃあ、ちょっと行ってきますね」


 手を挙げて挨拶とし、ロッカールームに移動する。買ったばかりのツナギを着て、リュックを背負い(これも、もっと高品質な物に買い換えたい)、いざ出陣。じゃなかった。そうだった。転移魔法が込められているという魔石を買わないと。

 受付に戻り、佐藤さんたちに購入の意思を伝える。


「はい。それでは番号札をお取りください」


 めんどくせ。まあ言っても仕方ない。言われた通りにする。すぐに5番窓口から呼ばれたので、そちらへ。


「3000円、お願いします」


「安いですね」


「まあ高く設定しすぎると、じゃあ歩くわって人が多いので」


 なるほど。まあ需要との兼ね合いで価格が決まるのはダンジョン用品も同じだわな。


「それじゃあ、カードで」


 会計を済ませ、


「あ、そうだ。ダンジョンに入ってから使ってくださいね? 地上では魔素はないですから」


 佐藤さんの忠告を受けて、頷いた。

 

 ギルドの建物を出て、第3ダンジョンへの地下階段を下りる。ツプッと膜を破るような感覚を経て、1層の迷路に入る。そこで、


「ええっと。転移魔法発動」


 水色の魔石を握り込む。

 するとグニャッと立ち眩みのような、或いは飛行機の離陸時のような、嫌な感覚がして。次の瞬間には、景色が変わり、俺は3層への階段の中腹に居た。

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