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崖っぷち兄妹のダンジョン攻略記  作者: 生姜寧也
2章:兄妹雪解編

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第49話:要救護兄さん

 俺が階段を上がり終えた辺りで、ギルドの建物のガラス窓からこちらを覗いてる佐藤さんの丸顔が見えた。やっぱりチラチラ確認してたか。よく言えばアットホーム。悪く言うと注目の的。今回のことでダンジョン農園が緊急避難の手段としても凄まじく優秀だということが分かったけど、戻る際は要注意だな。いっそ、転移魔法を覚えたと嘘の申告を……いや、マズイか。そんなことしたら階層を進むと例の魔石を設置してと依頼される可能性がある。当然、俺に他人を転移させるスキルはないワケで、その時点で容易く嘘が露見する。


「オワコンダンジョンって、もしかすると」


 多分だけど、探索者って結構な割合の人間が他人に隠したいスキルを持ってるんじゃないかと思うんだよな。だからこういう監視(本人たちはそのつもりはないだろうけど)の目が常に自分に向いているようなダンジョンってやりにくいんじゃないかと。隠したいスキルがダンジョン内で完結する物なら良いけど、外界に影響ある系だと相性最悪だよな。少しの変化も見逃してくれないだろうから。


「ただいま戻りました」


 自動ドアをくぐり、軽く会釈しながらギルドに入る。するとすぐに佐藤さんと堀川さんが出迎えてくれたんだけど……目を丸くして俺の腕の辺りを見ている。


「……どうしたんですか?」


「怪我!? あら、大変!」


 え? 

 俺は自分の腕を見る。正面からは分からないけど、彼女たちからの角度、横から見ると、見事に青いジャージの肘の部分が赤黒く染まっていた。更に腕を捻ると、後ろ側はもう少し酷かった。


「きゅ、救護室に! 手当てしましょう!」


 佐藤さんがカウンターの端、跳ね上げ部を持ち上げ、従業員用の通用口を開けてくれる。救護室とやらは、そっち側にあるらしい。俺は礼を言って、中へ失礼する。すぐそこの壁側に扉があり、堀川さんがそれを開けて入室を促してくる。至れり尽くせりだな。


 部屋に入るとジャージの上を脱ぐ。下は肌着代わりのボロいTシャツなので、若干恥ずかしいけど、まあ言うてられんか。傷の具合を確かめる。肘の皮がズルリと剥けていて、現在進行形でジクジクと血が滲んでる。


「痛みは?」


 佐藤さんに訊ねられる。


「なんか、ずっとヒリヒリするなとは思ってたんですけど……今、実際に傷口を見て、かなり痛くなってきました」


 アドレナリンとか、ダンジョン内では緊張の糸が張っていたからとか。そんなところだろうな。


「ゴブリンにやられたんですか?」


「あ、いや」


 まあ流石に、これは話しても大丈夫か。


「ファットボアーが出たんですよ。突進を食らっちゃって。壁に打ち付けたんでしょうね」


 あの土壇場では足がどれくらい保つか以外には考えられなかったから、正確にいつ負傷したかなんかは分からないけど。


「ファットボアー。そうですか、かなり運が悪かったですね。ゴブリンが時々、別種族と行動を共にする習性があると言っても、自分より弱いモンスター、スライムとかですね。それか同レベルくらいのキャタピラーとか、そこら辺が普通なんです。自分より強いモンスターを連れているケースはレアですから」


「そうなんですか……」


 菜那ちゃんのエンジェルラックとは対照的なバッドラック。


「まあでも、不幸中の幸いと言ってはなんですが、おかげで良い肉が手に入りましたから」


 明るい調子で言って、空気を変えようとしたんだけど。


「え!? 逃げてきたんじゃなくって、討伐されたんですか!?」


「え、ええ」


 あ、そうか、これマズイのか。2層に初めて挑む探索者のレベルだと3~4が妥当なライン。8レベルのファットボアーを倒せるのは……


「運が良かったんですよ。相手がスリップしたみたいで。あとは無我夢中でクラブを打ちつけて、なんとか」


 ということで通したい。


「なるほど。石のオブジェクトなんかも2層には転がってますから、それを踏んづけたんですかね」


「ですです! 恐らく、たぶん」


 何とかなりそうか、良かった。

 と、ちょうどその時。


「お待たせしました~。カギ持ってきましたよ~」


 堀川さんが鍵束をジャラジャラ鳴らしながら入室してくる。そう言えば、堀川さん、いつの間にか居なくなってたな。カギを取りに行ってたのか。


 救護室内の戸棚、幾つかの鍵穴を行ったり来たりして、


「確か、2番目じゃなかったでしったっけ?」


 佐藤さんがヘルプ。言われた通りに堀川さんが奥から2番目の棚の鍵を開ける。


「ああ、あった、あった。ここか」


 堀川さんは小瓶を片手に振り返る。


「ごめんなさいね~。要救護者なんて、はじ、久しぶりだから」


 初めてって言いかけたな、今。これだけ閑古鳥が鳴いてる現状は俺も知ってるんだから、見栄なんて張っても仕方ないだろうに。


「ポーション、塗りますね」


 小瓶はポーションだったらしく、堀川さんはコルク栓を抜くと、瓶の中身、青緑の液体を自分の掌の上に垂らす。そしてそれを俺の肘の傷口に塗り込んだ。


「いっ……たくない」


 触れた瞬間は確かに消毒液を塗ったように沁みたんだけど、それがすぐに引いていった感じ。塗った端から治ったってことか。改めてすげえな、ポーション。


「はい、終わりね。大きな怪我じゃなくて良かったですね」


 結局、小瓶の半分くらいを消費して、少し擦り剝いていた左腕&違和感の残る右足にも塗布してもらった。右足なんて、突進に耐えた時にミシミシいって微妙に筋が傷んだかも、くらいの曖昧な症状だったのに、普通に治ったからな。

 まあ何にせよ、これで全回復だ。午後からも頑張れる。

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