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崖っぷち兄妹のダンジョン攻略記  作者: 生姜寧也
2章:兄妹雪解編
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第46話:罪悪感兄さん

 鑑定が終わるや、ゴブリンは俺めがけて、猛ダッシュで詰め寄ってくる。とは言え、足も短いからか大した速度ではない。ヤツが持ってる棍棒の射程より外側から、偏差撃ちの要領でタイミングを計って……


 ――ヒュン


 クラブを振り抜く。棍棒を持ってる右手側を避け、左側を狙った一撃。ゴブリンは咄嗟に左手で頭の付近をガードする。そこに遠心力の乗ったクラブのヘッドがぶつかる。


 ――ゴキッ


 嫌な音、嫌な感触。小さな体が吹き飛び、壁に激突、バウンドして少し戻ってくる。俺はそこに詰め寄り、


「ぎぎゃあ、ぎゃあ」


 苦痛に歪むゴブリンの顔を見てしまった。俺の方も気付けば顔をしかめていた。止まっちゃダメだ。躊躇って勢いが死んだら、振り下ろせなくなる。本能が理解していた。


 ――ヒュン


 もう一度、シャフトがしなる音。


 ――ゴキッ


 もう一度、肉を撃ち、骨まで砕く音。


「……ぎぃぃ」


 やがてゴブリンは小さな鳴き声を残し、絶命した。


「……」


 罪悪感が結構すごい。殴ってみて分かったんだけど、体のサイズ感が菜那ちゃん(4歳)とほとんど同じだ。端的に言ってキツイ。正直、エリア踏破まで、まだ複数体は倒さなくちゃいけないワケで……


「いや。これは」


 思えば、今までガチの殺生の生々しさは感じずにきた。スライムは柔らかボディにヘッドを沈めて、それが当たったコアが割れると、勝手に液状化して死亡。キャタピラーは遠くから燃えてるのを見ていただけ。言ったら、どこか他人事というか。


 だが今は。生物を殺めた感触が、シャフトの震えを伝って、掌、体中に駆け抜けた。ズンと鉛を飲んだように気分が下がってる。


 と。目の前でゴブリンの体が煙のように立ち消える。少しホッとした。

 農園ダンジョンでは殺めたモンスターの死体がしばらく残ってたけど、ここのような普通のダンジョンだと消滅も早い。


 モンスターを構成するのはダンジョンがプールする魔素マナという名のエネルギー。定説ではそうなっている。そしてモンスターの死体は、ダンジョン内に留まる限り、還元の作用が働くため、魔素へと変じ、プールに戻るという話だ。これをダンジョンマナ循環説というらしい。信憑性のほどは知らないけど、まあ今のを見たら、確かにそうかもとは思う。


「……」


 消えた後、鈍色の石が落ちていた。ダンジョン炭、だろう。ちなみにコレも拾得しないまま、しばらく経つと消えてしまうのだそう。


「鑑定、鑑定っと」


 わざと軽い調子の声を出して、胸中に渦巻く罪悪感を吐き出しながら。




 ====================


 名前:ゴブリン


 レベル:3


 素材:なし


 ドロップ:ダンジョン炭(中~高確率)


 備考:多くのダンジョンに生息する小型のモンスター。主に2階層に出現する。身長はおよそ100センチ程度。時折、別の種のモンスターと行動を共にすることがある。


 戦闘:武器の棍棒を使って攻撃してくる。だがその小さな体躯ゆえ膂力りょりょくがなく、さしたる脅威とはならない。またリーチも短いため、ある程度の長さのある打撃・斬撃武器なら十分に対応可能。更に遠距離武器には無防備。


 ====================




 1体倒したので、戦闘スタイルの解説も載った完全版となった。

 そして、ダンジョン炭の方。




 ================


 <ダンジョン炭>


 文字通り、ダンジョンで採れる石炭。人間界の漆黒より、少しだけ灰色がかった色をしている。エネルギー効率が人間界の物より優れており、燃焼時の二酸化炭素排出量も僅少である。

 売値:70円/1キログラム


 ================




 いや、儲け渋いな。多分だけど、現状は安定供給からは程遠い、普通の石炭よりチョット良い品質って感じなんだろうな。扱いには困るよね。ビジネスシーンにおいて、納期も納入量も不透明ってのは、いくら品質が良くてもね。ゴブリン専門の探索者が大量に居れば、話は別なんだろうけど。


「こりゃ素通り安定かなあ」


 2層は1層とは違って、道幅がかなりあるので、敵に囲まれないように注意しながら駆け抜けて次の階段へ、という作戦がとれる。多分、俺と同じように考える探索者は多いだろうし、そうなると益々、ダンジョン炭は供給量が乏しくなる。悪循環だね。


「クリーンエネルギー寄りだし、どっかの巨大企業が赤字覚悟で高値で買い取り始めるとか」


 言いながら、自分で無いなと思った。そんな自己犠牲精神がある企業はそもそも大きくならんし。

 まあ現状は、使い道はほぼゼロかな。


「一応、持ってはいくか」


 その灰黒色の石を手に取る。ずっしりしてる。2キロくらいあるか? ラッキーとか思ったけど、2キロあっても140円なんだよな。自販機でペットボトルのお茶すら買えない。ダメダメだな、やっぱ。これから駆け抜けも考えてるし、足枷にしかならない。方針転換。捨て置くことにした。


 ちなみに一時撤退も考えたんだけど、実はこのダンジョン、2層クリア&3層突入時に、中間セーブポイントみたいな概念があるらしくて、次からは入り口から直接、3層への階段中腹あたりに飛べるそうな。

 なんでも転移魔法のスキルを使える人が、自身や後進たちの利便のためにポータルを設置しているらしい。珍しい力は速攻で隠すことしか考えなかった俺からすると、非常になにか人間力の差を感じます。


 まあそんなワケで。


「風になるか」


 スキル:脚力強化の真価が試される時が来たようだ。リュックを背負い直すと、膝に力を溜めた。

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