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崖っぷち兄妹のダンジョン攻略記  作者: 生姜寧也
1章:兄妹受難編
29/98

第29話:一括払い兄さん

 翌日は土曜日。菜那ちゃんも学校が休みなので、2人でオワコンダンジョンを訪ねた。黒縁の伊達メガネをかけ、髪も内側に巻いて顔を目立たなくした上、帽子まで被ってるんだけど、彼女の美貌は隠せず。


「うわあ、すごい美人さんですねえ」


 妹だと紹介した後の第一声が、堀川さんのそれだった。佐藤さんもコクコクと頷いた。菜那ちゃんは同性なので何とか笑顔を浮かべているけど、人見知りの気もある彼女には針の筵か。美人は得なんて言われるけど、割と懐疑的なんだよな。少なくともウチの妹は美人で得してるところは見たことない。


「この子も、実は自宅にダンジョンが発生した時に一緒に巻き込まれたクチでして」


 さっさと本題に入ってあげる。


「あ、そうなんですか? じゃあ探索者志望?」


 堀川さんが顔を覗き込むように菜那ちゃんに話しかける。


「えっと、セレブレイトは受けてますので、一応、探索者資格は持っておいた方が良いって兄が」


「ああ、そうですね。資格だけ持っておくだけでもね。仮に使わなくても、持ってて困るモンではないですから」


「しかし兄妹揃って美形で、33・4%もクリアするなんて、天は二物を与えずってのは嘘だよねえ」


 堀川さんの方が少しずつ敬語が崩れてきている。おばちゃんパワーだな。

 ちなみに俺は美形と言われるほどではないけど、妹に合わせて下駄を履かせてもらってるんだろう。


「じゃあ今日は妹さんの講習を?」


 昨日は夜遅くまで用事があって(実際は変なダンジョンで死闘を繰り広げていたからだが)アポイントが取れなかったから後日で良い。というような返答をすると、今日でも全然大丈夫だと佐藤さんに返された。


「他の探索者さんなんて居ませんから」


 朗らかに笑いながら、自虐ともジョークとも取れない微妙な言葉を添えられて、兄妹で苦笑した。


「じゃあ15時からで良いですかね」


「はい。よろしくお願いします」


 話が早くて助かる。ビバ・オワコン。


「それと今日は、薬草を買いたいと思いまして。ギルドでも売ってるんですよね?」


「ええ。一般的なアイテムは一通り。嵩張る武器防具はないですが」


 そこら辺は前回案内してもらった通り、都会の専門店を訪ねるのが吉だろう。


「特上薬草を売っておきながら、普通の薬草を買うのも変な感じですが」


「いえいえ。それとこれとは別の話ですから。特上薬草って、RPGで言うと、勿体無さすぎて使わないままクリアしちゃう完全回復アイテムみたいな」


 あー、と場の全員が佐藤さんの例えに頷いた。


「それくらいなら売ってしまって、得たお金で実用品を買った方が賢いのかも知れませんね」


 なにせゲームは出し惜しみして負けてもロード&リトライが出来るけど、現実世界じゃ残機は常に1だもんな。


「まあとにかく薬草を1つですね。でも使う際はポーションにしておいた方が良いですよ? なんならポーションの小瓶を売ることも出来ますが」


「あ、いや。折角ですから、何事も経験と言いますか、自分で煎じて作ってみようと思います、はい」


 予想外の返しを受けて、なんか変な受け答えになってしまう。なにせ使うつもりで購入するワケじゃないからな。土に植えると言ったら一体どんな顔をされるんだろう。


「えっと? はあ、まあ手間賃の分、ポーション5つの方が割高ですしね。分かりました、薬草ですね」


「はい」


「では9万8000円をお願いします」


 やっぱりそれくらいの売値になるか。財布からクレジットカードを取り出すと、


「番号札をお取りください。5番窓口でお伺いします」


「……」


 もうその面倒くさいシステム省略できないの? 紙資源の無駄だし。

 と言いたいところだけど。たぶん今日も俺以外に誰も来てないんだろうな。そう思うと、あしらうのも可哀想で、言われた通りにした。印字は1番。うん……知ってた。


「番号札1番でお待ちの新田拓実さん、新田菜那さん」


「はいはい」


 5番窓口で薬草を受け取る。見た目はホウレンソウに似てるんだけど、蛍光灯の下で見ると、少しだ青が混じってる。不思議な色合いだ。


「じゃあクレジットで」


「はい」


 リーダーを出してきたので、相手の操作を待って、差込口に挿した。認証を待つ間、


「ちなみに他の商品て、どんなのがあるんですか?」


 興味本位で訊ねてみた。ちなみに5番窓口の案内札には商品購入と書かれている。薬草だけしか売ってないという事もないだろう。


「見ますか?」


 堀川さんの後ろで張り付いていた佐藤さんが間髪入れずに何かを差し出してくる。ラミネートされた紙のようだな。商品の写真が載っている。カタログみたいなものか。


 菜那ちゃんも後ろから覗き込み、「あ」と声を上げた。振り向くと、彼女の髪が鼻先を掠めた。思ってたより近い。菜那ちゃんも気付いたみたいで、はにかんだ笑みを浮かべた。んっと。出来たら距離を空けて欲しいんだけど。何故か微動だにしないよね。


「何か気になる物がありましたか?」


 佐藤さんは更に紙を近づけてくる。俺にも菜那ちゃんが何を見て声を上げたのか分かった。炎の魔石が売ってる。売値7万5000円。


 おじキャタ討伐の立役者だし、持ってて損はないけど……ただこれを買う場合は、またダンジョンに潜るのが大前提だ。日常生活で要るものではないからね。


「なにぶんビギナーなので、見るもの全部が珍しくて」


 テキトーにお茶を濁す。佐藤さんたちも不審に思う事もなく、「最初は皆さん、そうなんですよねー」と笑っていた。皆さんという程、このダンジョンに人は……いや、やめとこう。

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