表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

レゾナンス



 レゾナンス魔法で歌う事を決心して目を閉じると、歌おうと決めた楽曲の前奏が頭の中で流れ出す。特徴的なトランペットが音を奏でている。そして歌う為に空気を吸った。


 

 これから、私の旅は始まる。どうなるのかまだ分からない。彼に逢うまで長い旅になるのかもしれない。彼に逢うまで、楽しい事も苦しいこともあるかもしれない。でも今はそれらを乗り越えられる気がしている。不思議だ。


 カラフルな世界に笑みが溢れるが、彼に逢えるか不安だったりするし、悲しい結末になってしまったらどうしようと思う。

 でも神様に寄り添ってもらって、生まれ変わらせてもらって今がある。神様に感謝しなければならない。


 前世は自分から接点を作りに行かなかったから、今回は自分から話しかけたりしたい。そうすれば、今は1人でも仲間は増えて、彼の元へと辿り着けるはず。


 強風や、眩しい光。それらは自分に何をもたらすのだろう。



 盲目だった前世。自分もみんなと同じ景色が見たかった。そんな無い物ねだりをするより、今は神様にもらった命、心ゆくまでこの世界を楽しみたい。


 これから、私の旅は始まる。どうなるのかまだ分からない。彼に逢うまで長い旅になるのかもしれない。彼に逢うまで、楽しい事も苦しいこともあるかもしれない。それらを乗り越えて、いつか彼に遭うことを願う。



 頭の中での終奏が少しずつ小さくなって俯く。拍手は聞こえてこない。どうやら人には聞かれてないようだ。

『主よ、良い歌だった。目を開ければ、主のレゾナンス魔法による自然界への影響が分かる』

 神様の言葉がどういう意味なのか分からないまま、ゆっくりと目を開けて顔を上げる。

「わ、わあ!なにこれ……」

 目の前には、何処から来たのか動物らしい生き物が何匹もいる。見るからに肉食動物と思われる大きな生き物や、草食動物と思われる小さな生き物が視界の中に平気な態度でこちらを見ている。その光景は弱肉強食という言葉がないように見える。

 それに、雨が降った後のような、水滴で光ってるようなキラキラと眩しい光が草むらを覆っている。

『主よ、空を見てみろ。綺麗に虹が架かっている』

 神様の指示で空を見上げると、言われた通りに綺麗な虹がハッキリと見える。

「あれが虹……」

 虹を目にしたのが初めてで、最初は驚いたが疑問が生じた。

「でも虹って、雨が降った後に太陽光と空気中の水滴で起きる現象ですよ?何で虹が見えてるんですか?」

 歌う前は勿論、歌ってる途中に雨が降ったなんてことはない。もし降ってたら歌わなかったし、降り出したら歌うのを中断しただろう。

 もしかしてこれがレゾナンス魔法の影響なのだろうか。

「これが、レゾナンス魔法による自然界への影響?」

 神様の言葉の意味が今分かった気がした。

『そうだ。主の歌に“にじいろ”という歌詞があった事で虹が出来た。“ひかり”という歌詞でここら辺一帯が光に覆われた。そう考えて良いだろう』

 歌詞の力、なのだろうか。それでは、生き物達はどう説明するのだろう。

 最初こそ沢山居た生き物。少しずつ戻っているとはいえ、今もちらほら居て、草食動物は草を食べているし、肉食動物は伏せて目を閉じている。

『動物達は、主の歌が聞こえる範囲に居たと思われる。恐らく聞き惚れた動物達が姿を現したのだろう』

 動物にまでレゾナンス魔法が効いたということか。そこまで高音で綺麗な歌声を披露した自覚はないが、これが共鳴――レゾナンス魔法なのだというあらましは分かった気がする。



 大きな肉食動物はいつの間にか居なくなっていて、小さな草食動物と触れ合いながら家まで戻る。

「この子人懐っこい」

 動物を初めてしっかり認識したが、こんなに可愛いのを知らなかった。前世では到底思わなかった。

 家の前まで戻ると、腕で抱えていた動物がピョコンと地面へと戻って、そのまま近くの草むらへと入っていってしまった。

『主よ、家の中へ入れ。最後に性格について説明しよう』

 沢山居た動物は、一匹も残ることなく何処かへと行ってしまって少し悲しい。悲しい気持ちのまま、神様の指示通りに家の中へと入る。

 まだ説明が続くようなので、迷いなく椅子に腰掛ける。

「あの、性格はどんな設定をしたんですか?」

 気になり過ぎて椅子に腰掛けて直ぐに神様に質問する。内気で人見知りで引っ込み思案な性格から、どんな性格に変わったのか。自分自身で分かれば良いが、生憎生まれ変わってまだ数時間だ。

『気になっているだろうが、実を言うとあまり変わっていない。ただ探究心を加えたぐらいだ』

 あっさりと答えた神様の言葉を理解するのに少し時間がかかった。

「……え?」

『前世の内気で人見知りで引っ込み思案に、探究心を加えた。主よ、生まれ変わってから我に何度質間したと思ってる』

 探究心……?

 生まれ変わって数時間、質問ばかりしてるなとは思っていた。でもそれは、生まれ変わりによって起こる変化を知りたくて質問していた。

『18回、先ほど性格についての質問で19回目だ』

「え、そんなに質問してました?」

 数えていたのかと神様に驚くと同時に、そんなに質問をしていたのかと自分自身にも驚く。

『それで切りの良い20回目だぞ』

 神様にそう言われてハッと手で口に蓋をする。これ以上話そうものなら、もっと質問してしまう。

『何故口に蓋をする?主の変わらぬ性格――内気で人見知りで引っ込み思案でも、物事を深く究明しようとする探究心があれば、自ずと人に声を掛けるだろう?そうすることで、元の性格が改善することも出来る』

 探究心があれば、分からない事を究明しようと自ら人に声を掛けるのだろうか。そうだったらいい。

 それで元の性格が克服できるなら、神様の言葉を鵜呑みにする。

『内気で人見知りで引っ込み思案の主は、心の何処かではそれを改善しようとしていたはずだ。生まれ変わってもそれはあるはずだろう。これから長いこと我の世界の住人になるのだから、いつか改善出来る。そんな心構えでいれば良い』

 神様の言葉が心の中にスッと落ちて、何だが不思議な気持ちになる。


 泣きそうになるのをグッと耐えて顔を上げる。

「神様、ありがとうございます」

 椅子に座ったままお辞儀をする。何故性格が変わらなかったのか、神様の説明で腑に落ちる。

 前世、人見知りを克服しようとして失敗して。引っ込み思案な自分自身を鼓舞しても出来なくて。進んで外に出ても怪我をして。そんな自分自身が嫌いだったのに、それでもどうにかしたくて、でも出来なくて、ふがいなくて、自分自身が嫌いだった。

 何も出来ないまま死んでしまった。それでも今神様に言われた言葉が救いとなり、この世界を生きていくうえでの自分自身への課題に思えた。


『この世界を生き抜いていくための注意事項がある。その前に性格について質問はあるか』

 性格について詳しく説明してくれたおかげで気になる事はなくなったが、神様の言葉からまた新たな疑問が生まれた。

「性格についての質問はありませんけど、注意事項ってどんなものですか?」

 “世界を生き抜いていくための注意事項”という何だか怖いが気になってしまう。これが探究心か。

『この世界には、人以外の生き物が沢山いる。実を言うと、主の親となるものは人ではない者――妖精だ』

 人以外の生き物というと、先ほどレゾナンス魔法にて出てきた動物達のことかと思ったが、神様の言葉は予想より上だった。

「ようせい……?」

『妖精とは、人の姿をした精霊で、人以上の能力を有し変幻自在の超自然的な存在だ』

 “妖精”という言葉を聞いたことがないのではない。ある程度の知識は持っているつもりだ。

「え、えっと神様、妖精が私の親、ということですか?妖精から人は生まれませんよ?そもそも私は、神様によって生まれ変わったはずですが、どういうことですか?」

 神様の言葉の意味が理解できず、矢継ぎ早に質問を繰り出す。探究心のせいだ。

『ある妖精と人が恋をし、子供を授かった。そこにちょうど主の生まれ変わりのタイミングが重なったのだ。生まれ変わりの設定は思いのほか面倒で、タイミングが合ったことで、妖精と人の子供を主の生まれ変わりの器にしたんだ。よって、この世界での主は、妖精のハーフ――ハーフエルフになる』

 この世界では、妖精のことをエルフと呼ぶらしい事が分かる。そして、ファンタジーなパラレルワールドなんだと今になって思い知る。

「……なるほど。分かりました、私は何に注意すればいいんですか?」

 ハーフエルフであることを知ったうえで、どんな注意事項があるのか。

『うむ、主にはラストネームを隠してほしい。主の名前――レゾナ・フォーサイス。“レゾナ”は先ほど教えたが、“フォーサイス”には妖精に関わる意味を持っている。主がこのラストネームを人々に教えると、主がエルフであると勘違いされるぞ。まあ勘違いを正したところで、半分はエルフだがな』

 エルフだと何か都合が悪いのだろうか。この世界でのエルフに対する人々の見解が知りたい。

「あの、ちなみに私がハーフエルフだと教えると、何か都合の悪い事が起きたりしますか?」

 家に1人の状態で、見えない神様に20回以上質問するこの状況。もう神様には、彼に逢うまでずっと付き添ってもらいたい。

『基本何も起きないだろうが、研究者とかには重宝されるだろうな。街人達には物珍しそうに遠巻きにさせるぐらいだ。研究所に生け捕りされて色々な実験に使われる可能性は高い』

 痛い目に合うのかと思ったが、そうではないらしいことに安心する。しかし、“生け捕り”やら“色々な実験”など、何やら怪しげな物言いの神様に疑問が生まれる。

「研究所に連れていかれたら、どんな実験をされるんですか?」

 神様は少しだげ悩むような声を出した後で答えた。

『うーむ、確実には分かりかねないが、属性やら魔法などを分析するために粘液を摂取したり、身体の仕組みを調べたりするだろうな』

 粘液を摂取、身体の仕組みを調べる。曖昧な神様の答えに、結局どんな事するのか分からないまま。分からない恐怖に、自然と自分自身の身体を抱き抱えて摩る。

「絶対にラストネーム言いません。私がハーフエルフだという事も言いふらしません」

 神様に聞こえるように誓うと、神様も安心したのか笑い声が聞こえてきた。

『ふはははっ、そう怖がるな。言わなければ良いのだから安心しろ』

 神様はそう言うが、注意事項を忘れてうっかり口を滑らせたらと思うとやはり怖い。

『もし主を捕まえようとする者が現れても、主の魔法で直ぐに逃げ出すだろう』

「でもいきなり襲ってきたら、直ぐにレゾナンス魔法の歌を思い付かないですよ。そういう時はどうしたら良いのか分からないし、逃げ出したくなる歌なんてパッと出てこないです」

 懸念している事を矢継ぎ早に言いきる。

『安心しろ、レゾナンス魔法は武器になる。攻撃もできれば守りも出来る高度な魔法なのだ。ドンと構えていればいいのだ。この話はもう終わりでいいな?』

 有無を言わさず話を終了させられて、不安でしかないが仕方なく小さく頷く。神様は話を進めた。


『主のレゾナンス魔法についてだが、その魔法は先程も言った通り、攻撃も出来れば守りも出来る。そして、殺す事も可能な魔法』

 最後の一言の声が一層低く、身の毛がよだつ。

『レゾナンス魔法で人が死んだ時、主の生まれ変わりはなかった事になる』

 神様の言葉が理解できなかった。

「“生まれ変わりがなかった事になる”ってどういう意味ですか?」

『この世界の住人を死なせてしまった時、自我も意思もその器から抜け、元のレゾナ・フォーサイスの意思となり動く。つまり、主の魂が身体の外に放り出されることになり、主が作り上げたレゾナ・フォーサイスも居なくなる、ということだ』

 神様の言葉をやっと理解したとき、ハッと息をのむ。

 この世界の誰かを魔法で死なせてしまった時には、自分自身の物語も終わるということ。彼に逢う前に、そんなことになってしまっては駄目だ。

『主の使い方次第で人を助けることも、陥れることも出来る。使い方を見誤るな』

「……はい」

 “人を助ける為にレゾナンス魔法を使おう”と誓う。



 日が暮れてきたのか、窓から見える空が温かな色に染まっていた。

「これが夕暮れか……」

 部屋に時計がないらしく正確な時間は分からないが、日が暮れてきたということは17時くらいなのだろう。

『さて、我もそろそろお暇しよう』

 窓の外を眺めていると、そんな声が聞こえて振り向く。誰もいない空間に問いかけてしまう。探究心が疼くのだろうか。

「え、帰っちゃうんですか?」

『我ら神にも帰るべき場所はあるからな』

 神様には生まれ変わりをしてもらい、この世界での暮らしから注意事項まで何もかも教えてもらったからか、神様に帰られると心細い。

 帰るべき場所があるならしょうがない。

「そうですか。最後に1つ聞いていいですか?」

 ずっと気になっていた事を最後に思いきって尋ねてみることにする。

『なんだ』

「……なんで私にこんなに良くしてくれるんですか?前世では目が見えないことから何もしてこなかったのに、こんな恵まれた姿に生まれ変わらせてくれる理由が分からなくて」

 普通の容姿、性格、住人にしてくれるだけで有り難いが、まさかこんなに設定が盛りまくっているとは思わなかったのだ。

 ハーフエルフであったり、高度な魔法らしい“レゾナンス魔法”であったり。

『前世の主の事は創造神から全て伺っている。主の目の事、主とともに死んだパートナーの事、そして死ぬ間際の願いの事も。“目が見える健常者になりたい。パートナーの顔を見たい”と願った主の事、パートナーとともに魂を引き取らせてもらった』

 神様の言葉で思い出した。死ぬ間際に確かに願ったのだ。目が見える健常者になって彼の顔を見たい、と。

「でもなんで、そこからハーフエルフとかレゾナンス魔法とかになったんですか?」

『面白そうだと思って』

 1つのはずがまた尋ねてしまった。そしてサラッと答える神様の答えに目を丸くする。

『パートナーが即死だったにも関わらず、死ぬ間際の見えない恐怖より、パートナーの無事を祈った主の為……と言えば聞こえは良いが、やはり面白くしたほうが楽しいだろうと思って』

 聞こえが良いままで良かっただろう。つまり、ハーフエルフとかレゾナンス魔法の設定は適当なのか。

『適当に設定したが、面白そうだろう?我ながらいい生まれ変わりをさせたわ』

 ハッハッハッと笑い声が聞こえたと思ったら、少しずつ小さくなっていく。どうやら帰るべき場所へと帰ったのだろう。

「……え、そんなことある?」

 暗くなっていく空を窓越しに見上げながら、神様へ聞こえないように呟く。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ