表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏のホラー2023

孵りみち 〜邪卵胎動〜

 小学校の帰り道、ぼくは卵を見つけた。


 うすい青色で、ニワトリのよりちょっと大きい。

 道ばたでカラスがつついてたのを追っぱらって拾いあげると、ほんのり温かかった。

 卵のカラはけっこう硬く、つるつるの表面は傷ひとつない。

 まだ空にカラスが見えたので、体操着袋のなかにていねいに包んで、家に持ち帰ることにした。


 お母さんが動物ギライだから、体操着袋は忘れたと嘘をついて、おしりに隠しながら子供部屋まで運んだ。

 その夜は体操着袋を抱いて寝た。ひさびさに朝までぐっすり眠れた。


 次の日も、体操着袋をおしりに隠しながら家を出た。

 机の横にぶら下げて授業を受けた。

 後ろの席のりょうすけ君が、いつものように消しゴムやペンを投げつけてきたけど、今日はすこしも嫌じゃなかった。


 ななめ後ろの席のゆりちゃんが「やめなよ」と言ってくれるのはうれしい。けど、りょうすけ君はゆりちゃんが好きだから、ますますぼくをいじめるんだ。


 帰りの会で先生が、外で変な物を見たら、さわらずに大人に知らせるようにと言ってた。

 きっと卵のことだと思った。

 おとといの夜の火球(かきゅう)がどうとか、いん石がこうとか説明されたけど、心臓のドキドキのせいでよく聞こえなかった。


 その日の帰り道、りょうすけ君がぼくを探していたけど、体操着袋を抱えて逃げ帰った。

 いつもは次の日が怖くてそんなことできないけど、卵を守るためだと思ったら勇気が出た。


 りょうすけ君がぼくをいじめるようになって、ともだちは居なくなった。みんな、巻き込まれたくないよね。

 先生も、りょうすけ君のおじいちゃんがどこかのエラい人だから、知らないふりをしてる。かわいい奥さんがいるし、しかたないよね。


 だいじょうぶ、ともだちなんか居なくても、先生が助けてくれなくても、今のぼくには卵がある。その夜もぼくは、体操着袋を抱いて寝た。


「なんだこれ? 卵?」


 ──次の日の帰り道、最悪なことがおきた。

 りょうすけ君と子分の二人に待ちぶせされ、人のいない公園に連れこまれた。

 ぼくが必死に抱えて手放さない体操着袋を、怪しんだりょうすけ君は、三人がかりで引きはがして中身を地面にぶちまける。 


 そして体操着の中から転がりだした卵を、拾いあげた。


「おねがいやめて! ぼくのことはいくらぶって(・・・)もいいから!」

「……ふうん……」


 それを聞いて、りょうすけ君はニヤリと意地悪く笑った。


「やめてっ!」


 飛びかかろうとして子分二人におさえ付けられたぼくの、地面すれすれの目線から、鉄棒のほうに歩いていくりょうすけ君の高そうなスニーカーだけが見えた。


 ──きっと卵を鉄棒にたたきつける気だ。


 ガンッ! ……パキッ……


 かわいた音がして、涙があふれた。

 卵のカラが、ぱらぱらとりょうすけ君の足もとに落ちた。


「えっ、なん……ッうわあああああ!?」


 そのとき、りょうすけ君のものすごい声がした。

 叫びながら腕をめちゃくちゃにふり回しているようだ。

 目線にぎりぎり見えた右腕には、細長い緑色のミミズっぽいなにか(・・・)が、びっちりとからみついていた。


「いたい、いたいっ! とって、これとっ……ぐっ……むぐ……ッ……!」


 りょうすけ君の声は、だんだん口をふさがれたみたい聞き取れなくなって、それからへなへなと座りこむのが見えた。

 その体じゅうを、緑ミミズが包んでうねうね動いている。


 ぼくは怖くなって目をそらした。


「あのっ、大人を呼んでくるから!」

「おれもっ!」


 ぼくをおさえ付けていた子分二人は、ふるえる声でそう言って、走り出した。ほとんど同時に、しゅるしゅると何かが空を飛ぶような音がした。


「いいやああああ!」

「たすけてっ、たすけてっ!」


 二人は泣き叫びながらぼくの左右を、りょうすけ君の方へずるずると引きずられていった。


 ──ぱちゃん。ぱちゃん、ぱちゅん。


 水ふうせんが割れるみたいな音がつづけて三回。そして急に静かになった。


 くらくらする頭をふりながら立ち上がる。

 見回すと、鉄棒のそばにひとつ、その手前に二つ、ぜんぶで三つの大きな赤黒い水たまりができていた。

 りょうすけ君も、二人の子分も、どこにもいなかった。


 かわりに鉄棒の近くの、水たまりのまんなかに、緑色の小さな生き物が立っていた。まわりに割れた卵のカラが落ちている。


 ぼくはゆっくりと、近付いた。


 ハムスターぐらいの大きさで、ずんぐりして手足が短い。

 口のあたりにはおヒゲみたいに、さっき見た緑ミミズの短いのが生えてうねうねしている。その先から、赤いしずくがポタリと落ちた。


 ぼくがしゃがんで手のひらを差し出すと、背中のちいさすぎるコウモリっぽい羽をパタパタさせながら、よじのぼってきた。

 つぶらな瞳が六つ、おずおずとぼくを見上げている。


「だいじょうぶ、ぼくはきみの眷属(ともだち)だよ」


 つるんとした頭を指先でなでると、どんな生き物にも似てない声で、甘えるように鳴いた。






 ──そうだ、明日ゆりちゃんにも見せてあげよう。動物好きだから、きっとよろこんでくれるはず。


お読みいただき誠にまことにありがとうございます!

その上で厚かましいお願いですが、広告↓下から★の数にて作品をご評価いただけますと、作者のモチベになりまくりますので何卒!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ