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横溝薫



 朝になって土で汚れた服を着ていた藤野と篠宮を母の服に着替えさせた。「ババ臭い」藤野が文句を言った。タオルとボトルの水で顔や体についた土や埃を払う。最後にハンディタイプの掃除機で車の中を掃除して僕らがいた痕跡を可能な限り消した。藤野や篠宮はともかく僕は指紋を残していないので追いにくいはずだ。それから山を降りた。

 駅まで歩き(藤野が「遠い」と文句を言った)、電車で帰った。

 最寄り駅まで戻り、二人に田沼の財布から抜いた一万円札を一枚ずつ渡した。なんの金かわかっていなくて不思議そうな顔をしている篠宮に「利益は三等分するべきだろ」僕が言うと、心底嫌悪感に満ちた顔つきに変わる。篠宮は僕が差し出した万札をしばらく見つめていたが、結局それを掴んで財布の中に捻じ込んで帰っていった。

 不意に藤野が「ありがと。助かった」と言った。

 僕は藤野を見た。藤野は苦虫を噛み潰したみたいな顔をしていた。

「あんたが100%自分のためだけに来たのはわかってるけど、一応言っとこうと思って」

「うん。僕は100%自分のためだけに行ったけど、一応言われておくよ」

 藤野と別れて家に帰った。母が「どこいってたの?」と訊いてきた。「藤野を探してた。いたよ。カラオケでオールしてた」電車の中で三人で口裏をあわせようとでっちあげた内容を話す。適当なところで会話を打ち切って、シートでしか寝ていなくて体が硬かったので自室のベッドで寝直した。

 起きてから横溝さんに電話を掛けた。「会おう」と言うと「いいよー」返事がくる。駅前のコンビニをまちあわせに指定した。僕が着いたときにはすでに横溝さんが先にいてロータリーのガードレールに腰かけて携帯を見ていた。横溝さんは青いワンピースを着ていた。髪をまとめて貞子の雰囲気から脱している。

「おそいぞ井上くん、そんなことじゃあ社会人になったときにやっていけないよ」

 僕はロータリーの中央にある時計塔を見た。指定した時刻の五分前だった。すこし話したあと僕は田沼の財布から抜いた銀行のカードを取り出した。渡す。

「引き出してほしい。いくら入ってるかは知らないけど」

 横溝さんがカードをまじまじと見た。

 田沼誠二の印字を指でなぞり、にんまり笑う。

「ようやっとふじのんとやってるおもしろそうなことに私も誘ってくれたわけか」

「まあそういうこと」

「暗証番号は?」

「1105、じゃなかったら何もしなくていいよ」

 藤野が携帯のロックを外す指の動きで推定した番号だ。この番号が通るかどうかは田沼が僕と同じくらいに迂闊だったら、ぐらいの確率だが。「了解」横溝さんがコンビニに入っていった。しばらくして出てきた。髪を下ろして顔を隠している。「バッチグー」という。

 財布に入った20万円をぼくに見せる。ATMでの引き出し限度額だ。

「で、きみらなにやってたの?」

「盗撮」

 から、どうなって田沼のカードが手に入ったのかまでの紆余曲折は訊かれなかった。

 横溝さんはただ「平凡だねえ」と言った。

「どういうやつなら平凡じゃないの?」

「ええと、悪魔召喚とか?」

 オカルトだなぁ。

 横溝さんがお札に触れる。

 それとなく周囲を見渡して誰も僕らを見ていないことを確認する。

「半分?」

「四等分だから五万」

「ちぇっ」

 万札を十五枚僕に渡す。

「ふじのんと、もう一人はだれ?」

「篠宮」

「ああね。たぬーとしのみーっていうと、ひらちーのやつね」

 少し驚いた。

 六時半までしか学校にいなかった横溝さんが知ってるはずがない、はずなのだけど。

「見てたの?」

「学校内にカメラ仕掛けてるのはきみだけじゃないのだよ」

 えっへん。横溝さんが胸を張る。

「どっちかというとキミとふじのんがやってることを知りたかったから見てたんだけどね!」

 そうなのか。

 意外と見られている、ということを忘れないでおこうと思う。

「んじゃ。あんまりこの格好でうろうろすると足がつくから私は一回家に帰るよ」

「うん。また学校で」

 


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